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読書|金原ひとみ「ナチュラルボーンチキン」

単行本:216ページ
読了までにかかった時間:160分

「まあ毎日つまらないですね。でも私は敢えてつまらないを選び取り、つまらないを志し、つまらないを極めているので全く問題ありません。私はこのつまらないと自らの意思で同居しているんです。このつまらないだけが、私を傷つけず私を愛さずとも容認し、放っておいてくれるからです」

金原ひとみ「ナチュラルボーンチキン」

毎日のルーティンを崩さず、日常が日常であり続けることでなんとか精神を保つ出版社労務部勤務の浜野文乃45才。

これといった趣味もなく、仕事から帰るとパックご飯をチンして、変わり映えしない野菜炒めを作り食べて寝るだけ。特に変化もなく淡々と過ぎていく毎日の中で、もはや何をしている時自分が楽しいと感じるのかさえよく分からない。


そんな凝り固まった彼女の生活と心が、同僚とのちょっとした関わりをきっかけに少しずつほどけていく。



その過程がなんとも優しかった。



非日常を楽しむパリピの同僚平木直理(ひらきなおり)も、奇抜な格好のバンドマン「かさましまさか」くんも金本くんも、みんなみんな誰も否定せず批評せず、ただ目の前の大切な人を受け入れる。


そのフラットな関係性に居心地の良さと温かさを感じて、自然と穏やかな気持ちになった。


大小さまざまの辛いことや悲しいことと向き合ってきて、あるいはやり過ごしてきて、「私の人生もそろそろ折り返し地点か」「このままでいいんだろうか」という漠然とした不安を抱く同世代の方が読んだら、少なからずきっと似たような感覚を覚え勇気づけられるのではないかと思う。


Amazonオーディブルからの書籍化。

「立ち止まったままの迷走、言語化できてしまう虚しさ、理解できてしまう道理。想像力を身につけ、物分かりがよくなり、泣くことも喚くこともできなくなった全ての大人たちに捧ぐ、中年版「君たちはどう生きるか」です。」

金原ひとみ「PRタイムズ」インタビューより

金原ひとみ「ナチュラルボーンチキン」
河出書房新社 2024年10月3日発売

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シマエナガ子
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