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<本と映画の答え合わせ(第21~25回)>「時計じかけのオレンジ」、「幸せなひとりぼっち」、「怒りの葡萄」、「高慢と偏見」、「クリスマスキャロル」


(第21回)時計じかけのオレンジ

【本】
〇タイトル:時計じかけのオレンジ
〇作者:アントニオ・バージェス
〇感想:
 ・1962年にこのような作品が発表されていたことが衝撃的、若者の強烈な暴力がテーマの1つであるこの作品で描かれた世界が50年後の現在において出現していないことに安心する
 ・主人公アレックスによる一人称の語りが読む側にとって不思議な感覚
 ・最初から最後まで想像を超える展開、予測不能の面白さ
 ・読了後「異邦人」(カミュ)を読み終えたときと同様、頭を殴られたような感じがした
 ・最終章(第7章)が本(原作)には存在する
〇評価:◎

【映画】
〇時計じかけのオレンジ(1971年)
〇監督、主演:スタンリー・キューブリック監督、マルコム・マクダウェル
〇感想:
 ・ベートーベンの第九がとても効果的、キューブリック監督はクラッシックをとても上手に用いてシーンを一層印象的にすると感じる
 ・流行りの言葉、若者が使う言葉は日本語のみではなく世界中の言語に当てはまる。時代とともに移り変わるのであろう
 ・見終わった後も現実離れした内容で引き続き理解できないものの頭に残る
 ・エンディングについては映画のほうがキリがよく、その後のアレックスについては視聴者に委ねる形となり好ましい
 ・衝撃的、特異な本(原作)の魅力をキュービック監督が残すところなく、さらにそれ以上のものを引き出していると感じる
〇評価:◎

【総合】
〇感想:
 ・本(原作)を読んで映画を観たことで理解が一層深まったが、本作品の場合、映画を先に観ても全く問題なく、また、かなりの衝撃を受けるのではないかと思料する
 ・映画は本の内容をほぼ忠実に再現
 ・当時のスラング等をふんだんに使った文章も衝撃的であるが、映画では視覚、聴覚の面からあらためて刺激的
 ・コンプライアンスに敏感な現在、このような映画作品は製作、上映できないと思料する。その意味でも観るに値する
 ・タイトルの「時計じかけのオレンジ」とは何か解説で知ることができたが、内容からは読み取れない、気づかないであろう

(第22回)幸せなひとりぼっち

【本】
〇タイトル:幸せなひとりぼっち
〇作者:フレドリック・バックマン
〇感想:
 ・「オーヴェはまわりの酸素がもったいないという目で相手を見た。」の言い回しが主人公の性格を一言で表す
 ・見たことも聞いたこともなく自分の思考回路を超える表現に作者のセンスを感じた
 ・他にも独特の叙述、表現が散りばめられている。このため伝わらない、くどく感じる箇所もいくつかある。また、原文(英語)はどのように書かれているのか、それとも上手く翻訳しているのか気になる
 ・展開が上手い、読者が感じるであろう「二人の間に子供はいないのか」という疑問が徐々に明らかになる
 ・オーヴェの最期は自然なのか望みを叶えた(自ら命を絶った)のか、遺書がしたためられていることから後者と推測するが明らかにはされていない(読み取れなかったのかもしれない)。映画でどのように描かれるのか確認したい
 ・邦題は原作と同じ「オーヴェという男」で問題ない気がする
〇評価:◎

【映画①】
〇幸せなひとりぼっち(2015年)
〇監督、主演:ハンネス・ホルム監督、ロルフ・ラッスゴード
〇感想:
 ・スウェーデン映画。英語以外の作品を殆ど観たことがなく、新鮮。聞き取ることが全くできないので字幕に頼らざるを得ない
 ・スウェーデンの住宅、駐車場、電車など日本とは異なり興味深く鑑賞できた
 ・本(原作)の内容を一部に偏ることなくほぼ網羅している
 ・乗っている車で人なりを決めつけるオーヴェが面白い。外車を嫌うのは分かるがサーブに乗っているオーヴェが同じスウェーデンのボルボを敵対視するのはライバル社ということか
 ・オーヴェの最後は望みを叶えたというわけではない、と受け止めた
 ・福祉国家のイメージが強いスウェーデンにおいて行政と対立することが意外
〇評価:○

【映画②】
〇オットーという男(2022年)
〇監督、主演:マーク・フォスター監督、トム・ハンクス
〇感想:
 ・スウェーデン映画とは一部取り上げるシーンが異なるほか、ナイアガラ旅行や不動産会社との対立などアメリカ向けになっている
 ・登場人物の名前はソーニャ以外皆違う。ソーニャという名前はアメリカでも特に違和感がないということであろうか
 ・アメリカなのでシボレーとフォードに納得。一方、BMWの代わりにトヨタが出てきたのは意外。トヨタブランドの高さがわかる
 ・後から知ったが、若き日のオットーを演じているのはトム・ハンクスの息子。「よく似ている」と思いながら観ていた
 ・マリソルが本(原作)およびスウェーデン映画のパルヴァネと比べてより多く登場し、重要な役割を果たしている
〇評価:○

【総合】
〇感想:
 ・本(原作)とスウェーデン映画はオーヴェとソーニャの愛の物語、アメリカ映画は近隣住民を含めたホームドラマの印象
 ・車好き(特にサーブ好き)にはツボにはまるかもしれない作品
 ・59歳の偏屈な男寡に対してこのように親しく接する近隣の人々など現実的にはいないであろうという冷めた見方も否定できない
 ・本(原作)ではオーヴェについて言葉巧みに描かれており、主人公がどのような人物なのか目に浮かぶ。自分より年下の作者がどうして59歳の主人公を取り上げ、その心情を伝えることができたのか、その想像力に無限の可能性を感じた
 ・今回は本(原作)と映画の答え合わせばかりでなく、映画同士で答え合わせすることができた。文化、表現、環境の違い等が分かり面白い
 ・では日本版を制作する場合には、どのようになるのか。勝手に想像すると「おさむという男」、関西のとある街、引っ越して来るアジア系住民、旅行先の中国で事故、トヨタと日産あたりであろうか、なお主演の適任者が見当たらない

(第23回)怒りの葡萄

【本】
〇タイトル:怒りの葡萄
〇作者:ジョン・スタインベック
〇感想:
 ・「父親を葬ることができるのは息子だけ」この言葉が一番心に残っている。自分にとっても故人である父親を思い出し、そして将来同じ立場になるであろう息子を目の前にしてつくづくこの言葉に同感する
 ・最後のシーンをはじめ、死があるからこそ生がある。困窮にもめげない世代に亘る人間の逞しさがスタインベックの朴訥であり、力強い文章によりひしひしと伝わってくる
 ・人間はどのような環境におかれてもやっていける、生命力の強さと希望を感じた
 ・アメリカ中西部から西部の景色が目に浮かぶ。ルート66に沿って現在のアメリカ横断ドライブをしてみたい
〇評価:◎

【映画】
〇怒りの葡萄(1940年)
〇監督、主演:ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ
〇感想:
 ・白黒画像を通じて、3輪の改造トラック、キャンプ地等当時の様子が伝わってくる
 ・事前に本を読んでいたことから、内容を必死に追う必要もなく当時の映像および本(原作)の内容がいかに描かれているか楽しめた
 ・原作を時間内でうまく展開しており、タイトルにある「怒り」も伝わってくる
〇評価:◎

【総合】
〇感想:
 ・あらためて資本主義について考えた。資本家と労働者つまり搾取する者とされる者、1世紀近く経った現在においても根本的なところは変わっていないのかもしれない
 ・現在、時折目にする「ビジネスと人権」についても突き詰めていくと「資本主義=搾取するものとされるもの」に行き当たるのではないか
 ・資本主義の根底は変わらないのであるから、いかに搾取される者の権利が守られるか、大切にされるかということであろう

(第24回)高慢と偏見

【本】
〇タイトル:高慢と偏見
〇作者:ジェイン・オースティン
〇感想:
 ・18世紀後半から19世紀初期のイギリス上流階級の生活、風習等が理解できる。今では考えられない行動、考え方も女性が相続の対象にならないことに起因する
 ・読み始め当初はイギリスの片田舎に住むそれなりに裕福な家庭の娘たちの結婚を巡る恋愛物語で毎晩のように相手を探してパーティに出向く単調な内容の繰り返しの印象を受けた
 ・読み進めるうちに登場人物それぞれの性格、考え方、策略等が分かり、各々がどのような結末となるのか興味が湧く、言わば情が移る
 ・エリザベスの若くして鋭い観察力、ぶれない考え方が素晴らしい。一方で何を根拠として自信に満ち溢れ、判断を貫き通せるのか、よく分からない。高慢ということか
 ・結婚について実利形式的、駆落ちなど何組かの形態が描かれているが、ジェインとビングリーの組み合わせが1番好感を持てる
〇評価:○

【映画】
〇プライドと偏見(2005年)
〇監督、主演:ジョー・ライト監督、キーラ・ナイトレイ
〇感想:
 ・ダーシーを演じた俳優であるが、本(原作)を読んで自分が描いていたダーシーのイメージまさにそのものであったので自然と笑みがこぼれてしまった
 ・本(原作)を先に読むことで時代、社会風習、登場人物それぞれの個性的なキャラクターが頭に入っていたので映像で表現されたそれらを楽しく鑑賞できた
 ・本(原作)でも映画でもダーシーがビングリーをジェーンから遠ざけた箇所がよく分からない、腑に落ちる説明がないと感じる
 ・父親のベネット氏は賢人なのかそれとも家族と距離を置いているだけなのか、いつの時代も男1人で配偶者と5人姉妹に囲まれていればこのような立ち位置になるのであろう
 ・本作品において手紙が重要な役割を果たす。メール全盛の今日、手紙を書く機会が激減してしまったが、やはり手紙はメールと違って人情味に溢れ、内容の伝わり方も全く違うと感じる。その点で今日の恋文(ラブレター)はどうなっているのだろう。メールなのか手紙なのか。身近な若者の娘、息子に確認したいが、、難しい
〇評価:◎

【総合】
〇感想:
 ・上映当時は観に行かなかったが、もし観ていたら、登場人物の把握すらできず、よくわからない、つまらない映画という評価になってしまったであろう。要するに、長編小説であることから先に本(原作)を読んでいないとその内容をうまく凝縮したこの映画の良さが伝わらない。本(原作)を先に読むか否かで本映画に対する評価は一変する
 ・この時代に生まれなくてよかったとつくづく思う。なぜなら「親ガチャ」が今とは比べ物にもならないから。富の源泉が殆ど親からの相続財産に拠り、個人の才能、努力で経済力を身に着けることは難しかったのではないか、そもそも男として生まれるか、女として生まれるかで大きく違ってしまう
 ・良家との縁組が生きていく、よりよい生活を営むうえでの最善の方法であり、そのために社交力を磨くあらゆる努力をしなければならないのであれば耐え難い
 ・同様に社交界に全精力を傾ける人々を描く作品として「ゴリオ爺さん」(バルザック)を思い出した。イギリス、フランスと国は違うが選ばれた人々による社交界の華やかな面と儚さ、虚しさがともに伝わってくる
 ・上流社会への羨み、妬みを述べてしまったが、深いことは考えずに恋愛物語として登場人物の駆け引きを楽しむのがよい
 ・結婚についてあらためて考える機会となる作品。自身の場合、本作品で描かれるまでの世間体、社会的地位等をそれほど意識することなく縁と勢いが決め手となったと振り返る。今思うと結婚については、大谷選手のように似たような環境はもちろん子孫のことも考慮するに越したことはない。結婚する当事者にとってはそこまで考えが及ばないところもあり、結婚前の若い人たちこそ触れるべき古典作品と考える(結婚に対して頭でっかちになってしまってもよくないが)

(第25回)クリスマスキャロル

【本】
〇タイトル:クリスマスキャロル
〇作者:チャールズ・ディケンズ
〇感想:
 ・クリスマスキャロルについて、絵本等で概要は知っていたが、本(原作)を読むことで内容をしっかり把握し、スクルージか改心するに至った理由が分かった
 ・短編小説で読み易いことに加え、起承転結が纏まっており最後はハッピーエンド。登場人物の関係が複雑ではないことからも初めて読むディケンズの作品としての位置付けがふさわしい
〇評価:○

【映画】
〇クリスマスキャロル(1938年)
〇監督、主演:エドウィン・L・マリン監督、レジナルド・オーウェン
〇感想:
 ・第2次世界大戦以前の作品。空を飛ぶシーンなど当時の技術、小道具等が面白い。白黒画像のため未来の精霊など怖さが増す
 ・クリスマスの意義(年に1回皆で集まって世界中の人々の幸せを願う)をあらためて理解した
 ・物欲、金銭欲に目が眩み周りが見えなくならないよう心にゆとりを持つことを常に意識したい。そのためには3年に1回くらいこの作品を観る必要があるかもしれない
〇評価:○

【総合】
〇感想:
 ・教訓を含んだ不朽の名作であることからこれまでも何度も映画化されている。次の最新版の映画が出たら鑑賞して「金銭欲、物欲に取りつかれても幸せにはならない、思いやりの心を持つことが人生を豊かにする」ということを確認したい
 ・2024年から新NISAがスタートし、「貯蓄から投資へ」の流れが浸透してきていると感じる。「自分のために使うお金」を増やすために投資、資産運用に邁進しているところであるが「他人のために使うお金」という考え方があることを頭の片隅に入れておきたい

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