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永遠の途中:唯川恵

今回貪った本→ https://a.co/cm86vcx

広告代理店に勤務する薫(かおる)と乃梨子(のりこ)は、同期入社。仲はよいが相手と自分を比べずにいられない微妙な関係。どちらも、同僚の郁夫(いくお)に恋心を抱いていたが、ささやかな駆け引きの後、薫が郁夫と結婚して主婦に。乃梨子は独身でキャリアを積み続ける。歳月は流れ、対照的な人生を歩みつつも、相手の生き方を羨んでしまうふたり……。揺れる女性の心をリアルに描く長編小説。

「本気で仕事をするなら、結婚は負担になるだけよ。男なんか最初は協力するなんて言っていても、一年もたたないうちに『おいメシ』なんてことになるんだから。ましてや、子供なんて持とうものなら、何をおいても家庭を優先するしかないの。やれ熱を出したの、親の集まりだの、どうしても仕事にシワ寄せがいくんだから。夫?代わってくれるわけがないじゃない。そういうのは母親の仕事だって頭から決め付けてるの。あなたの理想はわかるけど、現実はそういうものなのよ」

27歳から還暦の60歳まで、33年間に渡る元同僚女性2人の人生を軸に展開してゆく物語です。

若干、駆け足感+ややありきたりな展開はあるけども十分楽しめました。

仕事を選んだ乃梨子と家庭を選んだ薫。

女性としてそれぞれが抱える葛藤や、心理的な駆け引きなど細かな描写が生々しい。そして、男性にはギクリとする女性の本音が描かれる場面も。このへんは作者の実体験?も盛り込まれているのではないでしょうか。

「隣の芝は青い」とはよく言ったもので、人は自分が手に入れていないもの(決して手に入らないもの)に抗いようのない魅力を感じてしまう。

そして、そういうものは実態よりも魅力的に写ってしまうんですよね。この誰もが抱く羨望からくる「嫉妬」が作品全体を通して漂います。特に序盤はその嫉妬が物語を駆動させるエネルギーとなっている。

後半につれて、つまりは登場人物が年令を重ね成熟するにつれて、この嫉妬が薄まるかと思いきや、煩悩はそう簡単に滅せられません。

これはまさに仏教でいうところの「苦」そのもの。手に入れても餓える。というか決して望んだものは本当の意味で手に入らないんです。お釈迦さまが説くように本当の幸せ(安楽)は何かを望む心(煩悩)が滅せられた時にしか訪れない。まあ、そんな簡単なことではありません。よく言う「◯歳ってもっと大人かと思ってた」ってやつが何度も出て来ます。でも、このへんの人間臭さがあるがゆえに、感情移入ができます。

個人的にはそんなこんなで、この渇望という煩悩から逃れるまでの途中の物語なのだなと受け止めました。

物語終盤、印象的だったのは、乃梨子が紗絵(薫の娘)に語るシーンです。乃梨子は、人生における唯一の後悔として、「自分の生き方に自身を持ってこなかったこと」をあげます。

いつもどこかで、薫への嫉妬に振り回され、自分の眼の前の人生にコミット出来ずにいた自分を吐露するんです。

「どうしてもっと、自分の生き方に自信を持って来なかったのだろうってことかしら」 乃梨子はそれを沙絵にではなく、自分に言い聞かすように言った。 「何て言えばいいのかしら、もし、あの時ああしてたらって、自分のもうひとつの人生を勝手に想像して、それに嫉妬してしまうのね。何だか、いつも生きてない方の人生に負けたような気になっていたの。そんなもの、どこにもないのに」


煩悩の炎を滅することができたとき、涅槃である寂静が訪れます。2人の人生の終盤は描かれることはありませんでしたが、きっと穏やかに過ごせるのではなかろうかなぁと、希望を持てる終わり方でした。

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