ある夜のできごと。
こんなことは後にも先にもない。
あまりに鮮烈な夢で、まだ日が昇る前の一番暗い闇の頃、
ドクドクと大きく脈を打つ心臓が跳ね、
動悸のせいで、ばっと目覚めた。
いつなんどき、なぜそこにいたのかはワカラナイのだけれど、
私とその人は、「夜の学園祭」みたいな雰囲気という言葉がぴったり来る場所にいた。
そんな暗がりだけれど、あちこちまばらに人がいて、
それぞれにたわいもない話をしながら、そこに流れるちょっとだけ非日常なおまつりのような雰囲気を楽しんでいた。
私とその人が、どういう関係かだなんて、正直よくわからない。
恋人なのか、はたまた恋人未満の曖昧な関係なのか。
暗がりの中で見るあなたは、外から入る遠くの夜景の光ぐらいじゃ表情なんて面影くらいしか分からなくて、それがあなたかと問われれば、あなたじゃないかもしれないというのに、
なぜだか、そこにいるあなたのシルエットは、身長も肉付きも、髪型も手の感じも、まぎれもなくあなたに思えて仕方なかった。
私達がそれまでどこの地点にいたのかもわからない。
だけど、そのまどろみの中で起きた出来事は、ゆめか現実か私を混乱させるほど、なにもかもがセンセーショナルな瞬間で、驚くほどに鮮やかだった。
それまで手を繋いでいたのかもワカラナイ。
だけど、その人は私の手をひくと、ちょっとだけ小走りで人混みをかき分けて、うすぐらい教室の中に入った。
たくさんの人が遠くにみえる夜景らしきものを夢中でながめ、フィナーレとなる打ち上げ花火のあがる瞬間をいまかいまかと、待ち望んでいた。
しばらくわたしたちも窓際に重心をかけ、そのとおくに輝く光たちを見ていたのだけれど、ずっと暗がりにいた私の目は徐々に慣れてしまい、なんとなくだけれど、あなたの顔が見えたような見えなかったような気がしていた。
次の瞬間だった。
その人は急に繋いでいたその手をぐっと引き寄せ、反対の手を私の頬にやると、突然激しくキスをしてきた。
暗がりで、おそらくほとんどの人の目には何も見えてないだろうという、ちょっとした油断とおまつりのような雰囲気に少し高揚し、一瞬びっくりしたものの、すぐに受け入れてしまった。
それは、一瞬の軽いキスなんかではなく、想いがつのった恋人がするような、そんな熱いキスだった。
触れる唇のやわらかさや絡みついてくる舌のあつみまではっきりとわかり、体中が躍動し心拍数が一気にあがる。
高ぶる想いが爆発し、もう雑踏のなかにいたことなんて忘れていた。
ふと、目が覚めるとまだ午前5時あたり。
起床するには早すぎて、でもドクドクと大きく脈打つ心臓のまま眠れるわけ無くて、わたしは、布団の中でうずくまってそのハートを慰めるかのように、必死に両手で抑え込んだ。