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面倒くさがり屋が、面倒を見る。


平日の17時30分。

僕は「外勤」の札を下げ、会社近くの公園に向かう。途中でコンビニに寄り、ホットコーヒーを2つ買う。そして、空いているベンチを見つけ、ソーシャルディスタンスを適度に保って座る。


もう一方のベンチには、新入社員の彼が座る。



4月1日。


僕が勤める会社に新入社員が入った。


「タクくん、面倒見てあげて」


彼が入社してすぐ上司にそう言われた。正直、面倒だと思った。部下を持つ経験は初めてではなかった。でも、先輩らしく振舞うとか、相手を評価するとか、そういうのがとても苦手だ。


面倒くさがり屋が、面倒を見る。不思議な構図ができた。



自宅に戻り、妻に相談した。


「新入社員が入ってきてさ。面倒を見てって言われたけど、何すればいいと思う?」


「う~ん、面倒を見てあげるって思わなくて良いんじゃない?何かしてあげようとか考えずに、話でも聞いてあげれば?」


「そんなもんかなあ」


とりあえず、具体的なことは何も思いつかないので、妻のアドバイスに従ってみることにした。毎日、彼と話す時間を設けることにした。



コーヒーを飲む時間を共有する。


これは不思議なことで会話が弾む。会社ではまだ少し緊張している彼も、自分から話してくれる。


仕事の話だけではなくて、プライベートの話もする。というより、プライベートの話のほうが多い。(ホットな話題は「ソーシャルディスタンスを保ちながら女性をどう口説くか」。)


でも、彼と話していて思う。


人って言葉にしていないだけで、めちゃくちゃ考えている。


どう思っているか、どう感じたかといった、押し殺している気持ち。自分ならこうした、こうするといった、表に出さないアイデアや発想。そういったものが、たくさんある。


コーヒーは行間を教えてくれる。そう思うようになった。もちろん、女性の口説き方も、だけど。



これからも、とりあえず雪が降るまでは、彼と公園に向かうつもりだ。


札幌は少しずつ暖かくなってきた。そろそろホットコーヒーから、アイスコーヒーに変えようかなと思っている。


最近、夕方になると、彼が自分から「外勤」の札を下げるようになった。「それ、外勤じゃなくて休憩や」と思いながら、マスクの下で笑っている自分がいる。


面倒くさがり屋が、面倒を見ると、こうなる。



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