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【詩人の読書記録日記】「休みながらはじまること」ファン・ボルム著 牧野美加訳『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』集英社

こんばんは。長尾早苗です。

こりゃあものすごい本に出会ったぞ!
という時、寝る前に一回アウトプットしてからすっきりして寝ます。

いつもは4時少し前に起きて20時には寝てしまう。
朝の時間がクリエイティブになれるからでしょうか。
明日は念願かなっての休みが取れそう!
たぶん6時まで眠れそう!
でも、安心してください。めんどくさがり屋の日記は更新します。

休みながら歩くこと。
ここ最近、目下の課題になっていたことです。
わたしは思えば小学生のころからずっと走り続けていました。
少し止まることが歩くことなんて、信じられないような気がした。

努力して、もっとがんばって、もっともっとがんばって、がんばった先には幸福が待っている。
そのことを信じていました。
どんなに夢をかなえても、どんなにやりたいことを好き放題やっていても、自分の人生に悔いはあるのかどうか。
例えばわたしが文学の研究職をあきらめて司書の資格を取って、それでも非正規雇用で契約社員であることにくたびれ果てていたとき、わたしと結婚してくれた人が今の夫です。
ご縁というものは本当に不思議。

この物語に出てくる人はみな、「何かを続けている」。
主人公が書店店主のヨンジュだけではなく、周りの人々を巻き込みながら、書店というものはまわっていく。

そのことをかみしめたとき、わたしには大学時代とは少し違う、新たな人間関係がいつも「書店」を拠点に始まっていました。

豪徳寺の七月堂さん、赤坂の双子のライオン堂さん、水道橋の機械書房さん、新宿の紀伊国屋書店本店、川越のつまずく本屋ホォルさん、今住んでいる地域の昭和書房さん。たくさんの書店店主さんとやさしい書店員さんに支えられてここまできました。

この本を読んでいると、ひと時安らいだ気持ちになります。
詩人はきまぐれな生き物で、寝ると家族に宣言しても読んだ本のフレーズが頭から離れなくて、リモートワーカーで急な外出をしている旦那さんが用事にでかけている。そんなひとりの夜に、書店の物語はわたしのそばにあった。

努力しても努力しても、その人が幸せになるとは限らない。
突っ走って焦って転んで、すぐに起き上がれなくていい。
わたしの周りには、ほんとにいい人たちがいつしか集まっていました。

詩雑誌投稿時代に縁のあった詩人の仲間、出版社の編集部のみなさま、あこがれていた詩人のみなさま。
なんだかどこにいてもかわいがられてしまうわたしは、とても焦っていたように思う。
自分ですごいと思う小説を探したくて。
いい本をいい本と見抜く力は努力によってできると信じていました。
司書の資格を取ったのも、今まで読書する努力を積み重ねてきたから、もっとよりよい本を選んで、できるだけ多くの人に紹介するためでした。

ヒュナム洞書店には様々なお客さんがやってきます。
アルバイトのバリスタのミンジョンは、受験競争の激しい就職難の中、家族とのかかわり方に悩んでいる。
高校生のミンチョルは、好きなことも得意なこともない。これからの未来に希望を抱けない。
そんなミンチョルを誰よりも心配しているミンチョルオンマ(お母さんという意味)。
家族とのあり方に疑問しか見いだせないコーヒー焙煎士のジミ、非正規雇用にうんざりして編み物と瞑想を始めたジョンソ。

そして、ブログから出発して、自分の好きに書いていたブログで出版社の社長と険悪になった兼業作家のスンウ。

ヨンジュはどうやら、前の会社ではとても仕事ができる女性だったらしい。けれどある一大決心をして、ソウルに書店を開きます。

様々なお客さんは様々に悩みや社会・家族とのかかわり方に疑問を抱いています。
そして、疲れ果てていた。

そんな彼ら彼女たちが、ヨンジュと出会い、少しずつ変わっていく。
世の中には人の成長や変化をとても嫌う人もいます。
それは、青春を一緒に一緒の価値観で過ごしてきたはずの仲間だったりします。
あなたはそんなひとじゃなかった。
もっとがんばれ、もっとがんばれ

それは、自分を鼓舞することばだったのでしょうか?

がんばることや努力することはとてもいいことだと思います。
でも、やりすぎは禁物。

わたしは司書として、多くの本を読んできました。
それは、「知らないことは恥ずかしいこと」という考え方があったから。
なにかの知識が増えるにつけ、わたしの中でいつも何かが「型」を守って変わり続けていました。

わたしを変えてくれた本に囲まれながら、今わたしは生きています。
それはわたしの血となり肉となり、考え方を育てて行ってくれた本。
そんな本が本棚にずらっと並びました。

がんばることはよいこと。でも、頑張りすぎて真の目的や自分を見失ってしまったら、好きなことも得意なこともなくなってしまう。

疲れ果て、本を読んで知識を増やし、よりよい生活にたどり着くまでは時間がかかります。
でも、その時間を大いに与えられているなら、ヨンジュやミンジョンのように生きるのも悪くないかもしれない。

今までわたしが「これは何度も読む」と決めている本は、翻訳小説の中でしいて言うなら3冊あります。

『はてしない物語』『百年の孤独』そして『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』。

『百年の孤独』を双子のライオン堂さんで買ったときに、店主の竹田信弥さんに「ゆっくり読んでください」と穏やかな笑顔で言われました。
何度読んでも深さが増す都市の歴史と一人の女性の生き方。
それは物語の中でしか存在せず、いつまでもゆっくり、永遠のテーマを考えることになります。

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』を昭和書房さんで買う時、とても勇気がいりました。
単行本を奮発して買うことに、少しながらも抵抗があったのかもしれない。
でも、自分ですら詩集やエッセイ集を出していて作って売っているのならば、他の作家の物語も読んで当然と思っています。

いい人が集まる町。そこには必ず町の本屋さんがあります。
明日雨が上がったら、また近所のラジオ体操に行こう。
町のお年寄りのみなさんとお話をしに行こう。

わたしが物書きであれ作家であれ、一人の若い女性であれ、町の人々はびっくりしません。
わたしを本名からつけたあだ名で呼んでくれます。

ヒュナム洞書店は単なるお仕事小説でも、単なる癒し系の本でもありません。
今の時代に韓国でも日本でも同じようなテーマで悩んでいるひとたちはたくさんいます。

これは、わたしの、わたしたちのための物語です。

昭和書房の店主さん、ありがとうございます。
またお野菜と、それから本を買いに、伺いますね。

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長尾早苗
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