
Photo by
m_oonote
〔ショートストーリー〕昼下がりの秘密
昼下がり、俺はいつもの女の家に向かう。微かな物音を聞きつけて、女はいそいそと裏口を開けた。
「今日も来てくれたのね。早く入って」
この女は俺にメロメロだ。逆に、亭主は俺のことが憎くて仕方ないらしい。危うく殴られそうになったこともある。
少し警戒している俺を見て、
「大丈夫。今は私1人よ」
蕩けるような微笑みで、女は俺を抱く。俺はホッとして、女の手に身を委ねた。幸せな時間の後、女は冷蔵庫から
「これ好きでしょ?旦那に買ったんだけど、お裾分けよ」
と、高級チーズを出してきた。この香り、噛みごたえ、その辺の安物とは全然違う!俺が上機嫌で食べていると、突然玄関の戸が開く音がした。
「え!?」
俺と女は同時に跳び上がった。ヤバい!俺は裏口から素早く飛び出し、女は慌ててチーズを片付けて証拠隠滅を図る。
「お帰り。早かったのね」
外で息を潜めていると、中から少し上ずった女の声が聞こえた。
「ただい…ヘックション!お前、またあいつを、ヘクション!連れ込んだのか!ヘクション!」
旦那の派手なクシャミが続く。
全く、猫アレルギーってのも面倒なもんだ。ま、俺の知ったこっちゃないが、あのチーズはもう少し食いたかったな。俺は旦那のクシャミを聞きながら念入りに毛繕いし、満足するとそっと女の家を後にした。