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「俺たちの 箱根駅伝(上)」 池井戸潤


 池井戸作品は、「下町ロケット」が面白くて、読み続けている。自身の世代、仕事などから「オレたちバブル入行組」の銀行シリーズなどは飛躍、誇張はあるが思わず頷いてしまう。「七つの会議」などの企業もの、「陸王」「ルーズベルトゲーム」などのスポーツもの切り口が会社人として楽しい。銀行員の経歴から、マネジメントの観点が小説に現実味を持たせてくれる。
 また、箱根駅伝の小説は、「風が強く吹いている」三浦しをん作品を思い出す。

 本作品は、選手の視点に加えて、放送するテレビ局、監督、家族の思いが伝わり心揺さぶられる。
 現実の箱根駅伝に、青山学院、駒澤、早稲田など実在の校名に、関東大、東西大など架空の名称を絡めてフィクションとノンフィクションの境目を暈して没入しやすくしてくれる。
 青葉隼人は、かつての強豪校 明誠学院大学4年で主将。立川の予選会から話が始まる。腹痛が襲いブレーキとなり、チームは僅かな差で本戦出場を逃し責任を感じる。38年監督を務めたの諸矢が引退を告げ、後任に箱根駅伝の伝説のランナーで、丸菱で鉄鋼畑の課長の甲斐真人が指名され、学生連合の監督も指揮を執ることに。
 隼人は、ブレーキとなった自分が学生連合に参加してよいのか、次期監督の甲斐に対する部員の不安と不満に揺れ動く。
 学生連合は、記録に残らないチームとして毎年下位で参加の意義に疑問を呈する声がある。東西大の平川監督は、学生連合、甲斐監督への批判を公然と口にして叩いてくる。
 甲斐が、3位以内を目標に掲げて練習に臨むが、参加学生の温度差から気不味い雰囲気に包まれる。学生連合のキャプテンとなった隼人は、バラバラな気持をまとめることに悩む。
 元監督の諸矢を訪ねたとき、隼人にチームに大切なものは何かと問う。目標?チームワーク? 「チームメイトを信じろ」と語る。説得する、導くのではなく、信じることが大切と。苦悩を乗り越えたものは、他人に優しくなれる。
 箱根をステップと考えるもの、憧れの舞台と考えるもの、様々な想いを秘めたメンバーの心を一つにすることは難しい。

 一方で、正月の箱根駅伝を放映する大日テレビ。編集局長がバラエティタレントの起用を押し込もうとする。メインアナウンサーが病気療養で代役を誰にするか。不安ながらも職人気質の辛島に頼ることに。スポーツマンシップの無骨な伝統と、変化による新たな視聴者獲得というメディアの葛藤。
 昨今、メディアの姿勢が物議をかもすが、民放の矜持が垣間見れる。

下巻は、本選の2日間へと続く。

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