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「俺たちの箱根駅伝(下)」 池井戸潤

 下巻は、本選の2日間の人間模様を綴る。箱根駅伝は、約20キロの長距離て、トラックと異なるアップダウンのあるロード。学生ランナーは、雰囲気に飲み込まれ、自立にもがく。選手層が厚い有力校は、監督の選手の起用で戦略が色濃く出る。
 監督甲斐の個別の指示は、天候、他の選手の分析まで織り込んでいる。気温が上がらず、風が強い悪天候のなかでスタートを切る。

1区 諫山天馬は、冷静にスタートするが、ペースを上げられずにもがく。「残り3キロは気力だ」と監督の声に支えられラストランを走りきり16位で襷は繋がった。
2区 村井大地は、体を揺らすな、心を揺らすな。メンタルがいかに重要かと説く所属大学 大沼監督の教え。後半の苦しい場面で受けた言葉が足を前に進めてくれる。日本人トップの記録で弱い心を乗り越えた。
3区 富岡周人は、父に走る楽しさを教えられた、成績が伸びずに自分を否定された。父の母校に進めず、学生連合で自分のために走りきった。順位は7位まで挽回した。ゴールして倒れ込んだ周人が、バッグのスマホのメール着信を目にする。「いい走りだった。よく頑張った。ラスト三キロ、ちょと顎が上がってたぞ。」父から。深い溝がふっと消えた。
 涙が溢れた。一番心を震わせた場面。
4区 2年生の内藤星也は、心と体のバランスが取れなくて、13位へと大きく順位を落とす。みんなで走っているんだ、仲間が挽回してくれると声をかけられ、襷を繋いで走り切る。
5区 大阪出身の倉科弾は、無心に走るうちに自分が進むラインが見える。途中の給水サポートは、大学の先輩でキャプテン4年の久保山。やたら人のいい久保山が涙で顔をぐしゃぐしゃにして声をかけてくれる。この一瞬が久保山の箱根駅伝なのだ。ゾーンに入り、雪の舞う箱根のゴールに、7人抜きの6位で飛び込んだ。

6区 二日目の復路は、猪又丈。冷え込む中での快走を見せるが、転倒した後は必死の思いで襷を繋ぐ。気持だけでゴールに倒れ込む。
7区 佐和田晴は、寒風の雨の気象条件を見据えてメンバー変更された。甲斐が、選手の性格・特徴を見極めて起用し、活き活きと走り抜ける。
8区 1年生の乃木圭介。高校時代に才能に気づき、実力者揃いの区間で力試しのように抜いていく。区間最高のタイムで、チームを2位に押し上げてタスキを繋いだ。区間賞は、参考記録の乃木ではなく、駒澤の前島選手。大日テレビの菜月は、インタビューは前島選手と指示する。記録上の勝者とアスリートへのリスペクトという葛藤。
9区 松木浩太は、富山の和食店を営む両親のもと、インターハイの出場を逃し就職を考えていた。世の中には実を結ばない努力もある。だが、何も生まない努力なんかない。最後の給水係は大学の北野監督だった。お前ならできる。前を向け!と檄を飛ばす監督の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。学生連合の合宿で、甲斐監督に反発した大学の北野監督は、浩太に辞退を迫った。恩師の態度に悩み抜いて出場して良かったね。
10区 学生連合キャプテンの青葉隼人。早くに父をなくし、祖父母に育てられ、大学に進学させてくれた恩を胸に抱いく好青年。病床の諸矢が、もっと我儘だったら強い選手になったはずだと呟く。でもそんなお人好しの隼人が大好きだと。
 記録に残る人、記憶に残る人。自分はどう生きたいか。大切なものは、金、名誉、権力ではなく自由である心。
 選手の走り、性格を真に理解することで、本人を奮い立たせる言葉をかけることができる。自分勝手になっていないかな、と小さく反省した。

 登場人物が抱える思いが尊くて、簡単にまとめられなくて長々と書いてしまった。

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