それはありふれて そして 静かに流れていく....
こんにちはー
今日は9月8日。
一週間は早いですね。最近はつぶやきが多いですが、今日は久々に通常記事です。
今回は以前購入した本のレビューになります。
老乱
今回購入の本は
私は認知症高齢者の介護を日々行うにあたり、常に新しい情報収集は行っておりますが、たまたま観ていたBS朝日の情報番組の中で、この本を紹介されていました。
介護も日々進化してますが、この作品では、主人公は認知症の方で、その当人の心情、行動、家庭環境などを認知症当事者の目線で物語が始まります。
これまでも認知症を取り扱った小説は多々在りますが、この作品の紹介を観てぜひ読んでみたく欲しいと思い、早速ポチった次第です。
それでは書評です。
それはいつから始まったのか?
主人公は”五十川幸造(78歳)”
妻に先立たれ、現在は大阪市内で一人暮らし。
子供は仙台在住の長女、主人公の近くに住む長男の二人。
定年退職後妻とリタイア生活を過ごしていたが、4年前に妻が逝去し時折長男夫婦が様子を見に行く。
冒頭長男宅へ警察より連絡が入る。
「本人を迎えに来ていただきたい」旨の連絡が入る。
その前に長男夫婦は近年起きた”認知症列車事故”のことを新聞記事を読みながら、語っていた矢先の警察からの連絡であった。
本編は幸造の日記から時系列に進んでいく。
もう一つの視点として、長男嫁の五十川雅美をはじめとする幸造の家族の視点から。
認知症になるきっかけは、人それぞれですが、これまで私が携わった方々のことを思い返してみると、
☑脳梗塞、脳溢血などの病気を発症後
☑MCI(軽度認知障害)の出現
☑激しいストレス
(連れ合いの死去、目的の喪失、生活環境の激変など)などがあり、主人公幸造も上記の要因に該当しています。
本人の想い、家族の思惑
日記が進むにつれて、家族の思惑は本人の想いと別に進みます。
幸造の所有の自動車のくだりで、何度か長男夫婦が幸造に高齢者の運転が危ないことを話すが、夫婦が帰った後の本人の日記に
「運転をやめろと言われ、不愉快になる。運転を続けるなら、病院で検査をうけろという。俺はそんなに頼りないか。迷惑をかけないように頑張っているのに。悔しい…」
と綴っている。
家族は
”もし事故を起こされたら”
”多額の補償金を請求され、一家離散”などと自分たちの生活のことばかり心配している。
一方、幸造は
”生活の足が無くなり困る”
”家族に何かあったらすぐ駆け付けられない”
”自分の存在価値を表す”などと思っている。
ここで双方の想いと思惑の違いが現れてくる。話が進むについて、お互いの想いがすれ違いやがては反目して行く様子は、病状の進行と共に読み手に、認知症との向き合い方の難しさを、克明に表しています。
昨日の自分とこれからの自分
家族の勧めから病院の検診を受けることに同意した幸造。本人も自分の異変に気付いており、「このままだと 息子たちに迷惑を掛けてしまう」と思っていた矢先でもあった。
結果は”レビー小体型認知症”と診断も受ける。
この時の長男の思いは
レビー小体型認知症の中期に対して、「こんなに悪化していたのか…」
と驚きが書かれ、現実を受け入れられない時期でもありましたが、
雅美は冷静に病状を受け入れていた対比が印象的です。
(実の親、義理の親、とらえ方の違いは仕方ないことです)
その後要介護認定を受け、一か月後要介護1の判定を受け、介護サービスを利用する。
ここでも、様々な出来事が起きます。
初めてケアマネージャーが幸造のもとに訪れます。その人は女性で、はじめはたいして気にもしていないが、次第に会う回数が増えるにつれ、疑似恋愛へと進んでいきます。
ここで話の補足です。
利用者が男性の時、初めて利用するにあたり、対象者が一人暮らしか、否かは気になるところです。
時々女性ヘルパーが利用男性に
”抱き着かれた”
”キスを迫られた”などのセクハラ行為がニュースになることがあります。
男性利用者について、認知症有る無し、これまでの生活歴などの情報収集を行い、担当するか否かを決めることが有ります。
(原則サービス利用について断らないのですが、裏事情としてはまま有ります)
介護の原則として、同性介護が原則です。
しかし、サービス提供側の事情
(職員に男性がいない、もしくは少ないなど)
が有り、やむを得ず受け入れた後セクハラ問題が出てくることが有ります。
時間は進み、女性ケアマネは男性ケアマネに交代。
家族は幸造の行為に嫌悪感を抱き、本人はセクハラ行為の事は忘れている。
更に幸造宅では様々なことが起こり、いよいよ独り暮らしが出来なくなります。
そんな中、雅美は日々の介護生活の中必死でわらにもすがる思いより、たまたま知った認知症の講演会を聴きに情報収集しています。
そこでの話はありきたりに思い「こんな話きれいごと」と切り捨てて会場を後にする。
この時期の幸造は、服薬を続けながら自分で出来ることは継続しているが、忘れていく自分の記憶、出来なくなる日常生活、嫁を含め周りの人達からの様々な言葉に傷ついていく。
時間は静かに流れて
幸造にとって静かにそして残酷にも病状は進んでいきます。
いないはずの人、妄想が現れ所有していた自動車で事故を起こしたり、亡き妻との心中の対話。一般に問題行動とされている行動が多くなり、そのことで自分がどんどん分からなくなる過程。
家族もこのことに振り回され疲労困憊していく。
季節は夏、脱水症状から錯乱状態になり入院。
そこは精神病院。
ここからのくだりはもう止めることが出来ないジェットコースターのように上がり下がりの連続。
(もっとも下がりが多くなります)
入院期間が期限一杯になり、退院しなければならない時期が訪れます。
ここで本人は”自宅に戻ることを切望”しますが、
家族は”とても一人暮らしなんて無理!!”と思いここでも意見の違いが起こります。
折衷案として自宅に戻る前にリハビリと称し、施設で一定期間過ごしてから自宅に戻ることになります。
幸造の最大の目的は自宅に戻ること、そのために日々リハビリを頑張ります。
その裏で家族は介護費用の捻出、これからの生活など現実的な側面で兄弟間で話し合いがなされます。
しかし、不幸はある日突然訪れます…
エピローグに向けて
施設生活は順調に送っていました。ある日本人の自宅が売却させれ、
帰る場所を失ったことを知ります。
その日を境に幸造は生きる目的を失います。
元気はなくなり、話すことも、笑うことも、食べることも徐々に無くなっていきます。
その様子を目の当たりにする長男夫妻。面会に行く中次第に寝ている時間が増え意識すらもかすれていきます。
時間が進み長男宅に幸造は戻ります。だけど、もう元気だった頃の幸造はいません。
ふっと幸造の意識が戻り
”ここは何処だ?あ!知之の家か 雅美さんもいて…”
終末期
「お義父さん、大丈夫ですか」と食事介助する知之、心配そうに声掛けする雅美食事でむせこみがあり、幸造の背中を軽く叩く。
”男の人が…知らない女の人が優しくしてくれる”
もう誰か分からないが、
「もう寝るよ」とかすれる声でささやく幸造
知之は静かにベットを倒す。
”照明が消える、時間が消える、空間も感覚も分からない
浮かんでいるのか、沈んでいるのか分からない....”
静かにほほ笑む、”人生これでよかった”
穏やかに息を引き取るのでした…
周りには誰もいない
”夜明けまえのしんとした闇が、幸造を包んでいる”
物語はここで終わります。
この話を読んで、今働いているグループホームでの看取りを思い返します。
人の終わり
静かです…
いろんなことが有ったとしても、穏やかに過ぎる人は幸せです。
今回はここまで。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
それでは次の記事でお会いしましょう。