見出し画像

心に残るあのエピソードをあなたへ【バトンリレー企画】

この記事を書くにあたり今回初めて
自分の仕事について触れたいと思います。
もともと看護師の仕事をしていたのですが
事情があり現在は看護師の仕事をお休みしています。
今回はそんな私が以前大切な人に言われた
ある言葉についてお話したいと思います。

これはもう十年以上前のお話。

要領が悪くドジな私は看護師二年目になり後輩ができても
自分に全く余裕がなく、毎日業務を終わらせるのに必死だった。
物覚えが悪い上にとても緊張してしまう性格もあり
この仕事向いてないかも…と思いながら日々を過ごしていた。

高校卒業後、田舎を出て東京の学校に進学した私は
昔からお世話になっていた親戚の所へ頻繁に通っていた。
実家が恋しくなっても辛いことがあってもここに来れば
いつでも温かく迎えてくれるこの家は当時の私の救いだった。

仕事でとても落ち込むことがあった。
勤務を終えても自分の家には帰らずそのまま親戚の家へと向かう。
その日家には「おば」はおらず「おじ」だけがいた。
私とおばは親族関係にあるがおじとは血の繋がりはない。
けれどおじは小さい頃から私をとても可愛がってくれた。
私もそんなおじのことが大好きだった。

(おばの美味しいご飯が食べたかったのになぁ…)
疲れて果てていた私は居間にそのまま無言でごろんとした。
暗い表情で横たわっている私を見て、おじはまず風呂に入るよう促す。
お風呂からあがるとテーブルの上にはさっきまではなかった
私の大好きなお寿司があった。
しかも「特上にぎり」である。
どうやら私がお風呂に入っている間におじが注文してくれたらしい。
お寿司のことを尋ねると

「腹空いてるだろ。いいからまず食べろ」

おじはこういったことを全くしない人だったので
そのおじが自ら電話をしてお寿司を注文してくれたなんて。
この特別感に私の目は少し潤んだ。
おじはちょっと不器用なタイプだがとても優しくて温かい人なのだ。

「おじさん、ありがとね」

私はそう言って無我夢中でお寿司を食べた。
落ち込んでいた私のドロドロとした心は、おじという存在と
お風呂とお寿司により浄化されていったような気がした。

私は急におじに話したくなった。
自分が今思っていること感じていることを。
こちらに背を向けて新聞を読んでいたおじは「あいよ」と言って
そのまま背中で話を聞いてくれた。

看護師二年目になるのに、とにかく何をするにも不安で怖い。
患者さんのためにと思えば思うほど、ミスが許されないという
プレッシャーを自分で過剰にかけてしまい異常に緊張してしまう。
こんな自分がすごく嫌だしダメな人間に思える。
それにそもそも自分は患者さんの為にちゃんとできているのか…
むしろ仕事ができない自分は周りに迷惑ばかりかけているんじゃないか…

溢れ出した言葉はまとまりがなく上手く言葉になっていなかった。
それでも私は自分の思いを話し続けた。もう止まらなかった。
私が話す間おじは一切言葉を挟まず、私のこのめちゃくちゃな話を
じっと静かに聞いていた。

そして全てを終えた後、おじは言った。

「そんなの、緊張しなくなったら終わりだろ」

ハッとした。
そうだ…緊張するようなことをやっているんだ、私。
緊張することは自然でむしろ当然の感覚なのだ。
緊張感がなくなったとき人はミスをする。
人の命にかかわる状況の中でもし緊張しないとしたら
もはやそんな自分なんて信じることはできないかもしれない。

その時のおじの言葉は、大切なことに気づかせてくれたと同時に
私が乗り越えなくてはいけない重要な問題も露わにすることとなった。

緊張するのは悪いことじゃない。
けれど緊張と不安を一緒するのは違う。
不安を小さくすることで過度な緊張を抑えることは
私が向き合うべき課題なのだ。
そしてそれは知識や技術や経験によって自分なりに
対応することができるのではないか。

周りのみんなもこうして努力をしているのかと思ったら
自分の意気地のなさがとても恥ずかしくなった。
こんな風に甘えたままでは看護師として安心感を与えるなど
到底できないなと深く反省した。

心の奥には常に緊張感を隠し持ち
その反対に相手には安心感を与えること

難しいけれどすごく大切なことだと
それ以来ずっと思っている。

大好きなおじは今から数年前に病気で亡くなった。
あの時おじがくれた言葉は私の中で
決して忘れてはいけない一生のアドバイスとなった。

遠くに暮らしていた私はおじが病気になってから
なかなか会える機会がなかった。
けれど少しでも何かしたくて亡くなる前に何度か会いに行った。
最期を自宅で過ごしたいという希望があったおじは
絶対に嫌だと言って他の人にはさせなかった介助を
すんなりと私にさせてくれた。
もしかするとおじは、あの時の私の悩みを
覚えていてくれたのだろうか。

大好きなおじ。
最期まで優しかったおじ。

あの時のことを私はずっと忘れない。

おじさんへ

おじさんのお陰で看護師を続けることができたよ。
本当にありがとう。
その後何度か職場が変わることも経験してね。
そうして続けているうちに自分に向き不向きのことなんかも
よくわかってきたんだ。
第一線でバリバリ働くような優秀な看護師にはなれなかったけれど
自分に合ったかたちで、これからも看護師を続けていきたいと思ってます。
そしてみんなに少しでも安心感を与えられるような
そんな人になりたいと思っているよ。
もちろん心の奥にはしっかりと「緊張感」を隠し持って、ね。

今だから送るおじへの手紙


これが私の「心に残るエピソード」です。
読んでいただきありがとうございました。


今回初めてバトンを受けとりました〜!
初参加でしたがこんな感じでよかったのかな…ドキドキ。
ねじりにバトンを渡して下さったのは
優しくてほんわかする短歌でお馴染みのマユミさんです~。

今回大好きな「おじ」との思い出について書くことができて
とても嬉しかったです。
きっかけを下さったマユミさん、本当にありがとうございました!


では次の方にバトンを渡したいと思います。
バトンを受け取っていただきたい方は…

Marmaladeさんです!

突然バトンを渡すことがやはりどうしても気になってしまったので
事前にご本人に確認させていただきました💦
(必要があれば事前に了承を得てください、と書いてありましたので)
そして快く引き受けて下さり本当にありがとうございます!

Marmaladeさんは普段から素敵なエピソードが沢山あるのですが
だからこそ「初バトン」を繋ぎたい!と思いました。
Marmaladeさんの自由な表現がねじりはとっても好きなんです。
Marmaladeさん、どうぞよろしくお願い致します〜🐨


企画について詳しい情報はこちら。

チェーンナーさん
この度は素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!


そしてこのような長い話を最後まで読んで下さった皆さま
本当にありがとうございました。


ではまた。

この記事が参加している募集

最後まで読んでいただきありがとうございます🐨! いただいたサポートは創作の為に大切に使わせていただきます🍀