
「本当に文芸部?」 #シロクマ文芸部
「文芸部に入ってたのかい、君は」
「え?文芸部…?あ!そうそう。少し前からね」
「それで今度はこの日が文芸部の活動日?」
僕がカレンダーに書かれた「文芸部」を指さしながら言うと
妻はうんうんと頷く。
「そうだわ!忘れてた~この日までに毛糸を買いにいかなきゃ」
「なんで毛糸?」
「もちろん、部で使うからよ」
妻が言うには部のみんなで分担した毛糸を
各自で用意しなければならないのだという。
しかしなぜ文芸部なのに「毛糸」なのだろうか?
文芸部と毛糸の繋がりが僕にはさっぱりわからない。
「なんで文芸部なのに毛糸が必要なの?」
「だって毛糸で色んな動物のあみぐるみを作らなきゃいけないでしょう?だからいっぱい用意がいるのよぉ」
ますます謎は深まっていく。
「あのさもう一度聞くけど、文芸部…なんだよね?」
「うん?そうよ。まぁ正しくいえば、手芸部 ね」
「え?」
「だから、手芸部」
「なんでそこで手芸部が出てくるのさ」
「だって『文子手芸倶楽部』だもの」
「文子…?なにそれ?」
「先生が文子先生だから『文子手芸倶楽部』なの」
「!?まさかあのカレンダーの『文芸部』って…」
「あぁ、あれね。だってそのまま書くと長いでしょ?文子手芸倶楽部、つまり 略して『文芸部』ね」
妻の思考回路はいつだって僕には未知の世界だ。
文子手芸倶楽部の略が文芸部だなんて普通それ誰もわからないから…
結婚してもやはり未だに君のことを理解するのは難しいらしい。
まぁそんな君だからこそ、僕は少しでも知りたくて
こうして一緒にいるわけなのだが。
「で、君は編み物は得意だっけ?というか不器用な方だよね?」
「そうなのよ~だから今はお話を書いてるの」
このままでは僕たちの会話は崩壊する。
「あれ?うんと結局さ…文芸部じゃなくて、手芸部なんだよね?」
「そうよ。実は今度、手芸部で作った『あみぐるみ』で人形劇をすることになったの!でも私あまりに不器用過ぎて何も作れないから、劇のお話を書く係になったのよ。だから今は人形劇でやるお話を書いてるわ」
「つまり手芸部だけどあみぐるみを作るのではなくて、今そこで君はお話を書いていると…」
「そういうこと。で、これがまた楽しいの!お話はもうほぼ完成してるんだけど、読んだみんなも絶賛してくれたわ!」
「それって君、手芸部じゃなくてもはや『文芸部』なんじゃ…」
「え?あれ?そうねぇ。たしかに私ったらなんだか文芸部みたいね!」
手芸部で君はまさかの文芸部活動を行っていた。
もはやそれは手芸部ではないと思うが…
でも僕はそんな君が大好きだよ。
「あみぐるみはみんなで作れば結構すぐに出来上がるみたいなんだけど、人形劇の練習の方が忙しくなりそうだわ。稽古もみんなすごく気合入ってるしね!それにね。私その劇で主役をやることが決まったの!自分の書いたお話をみんなの前で読んだらその時の演技?みたいなのがすごくいいって褒められちゃってね。抜擢されちゃった」
嬉しそうにしている妻は本当にかわいい。
そうだ、僕はこのキラキラした笑顔にも惹かれたんだ。
愛しいひと。僕はいつだって君のことを応援しているよ。
すると妻は突如、手芸部で教えてもらったという
発声練習を始めた。
あぁ、僕の愛しいひとよ。
もはやそれは手芸部でも文芸部でもなく
「演劇部」だと思うなぁ、僕は。
【おしまい】
***
今週のシロクマ文芸部でした🐨
ではまた。
いいなと思ったら応援しよう!
