「金魚花火」#曲からチャレンジ
浴衣って季節もの。
時期が終われば、しまわれてもう終わり。
そんな僕は、そこに住んでいる。
また季節が巡ってきた。
僕の主人はにこにこしながら鼻歌交じりで袖を通す、この人。
完全に浮かれている。
好きな人とでも夏祭りに行くのだろうか。
去年は友達数人とだったかな。
今回は様子が違う。
怪しい。
まぁ僕には関係ないけど。
そんな夢を見れる僕じゃないんだから。
だって僕は、ここからは出られない。
夏祭りは楽しそうだね。
やっぱり好きな人と一緒の夏祭りだったんだね。
嬉しそうな顔しちゃってさ。
ほんと、羨ましいよ。
ほんとにさ。
へ~。金魚掬いとかやるんだ?
ここに金魚、いますけどね。
最近は自分の浴衣の柄、よく見てないでしょ。
そうだよね。
だって僕の近くのとこにあるシミがとれてないもん。
そのくらいはちゃんとやってほしいなぁ。
これは仮にもあなたが一つしか持っていない
おばあちゃんからもらった大事な浴衣なんだからね。
僕だってそんな扱いじゃ、ここから逃げ出しちゃうぞ。
そんなことになったら焦るでしょ?
そうだよね、浴衣の柄、金魚の僕しか
描かれていないんだから。
で、金魚はとれたの?
………
そこには赤い紐から下がる透明で小さなビニール袋に入れられた
美しくひらひらと泳ぐ姿があった。
ビニールの袋が花火に反射してキラキラと光る。
もう僕はそこから目を逸らすことができない。
向こうもこちらを見ている。
僕も君を見ている。
僕の主人はこの美しいあの子を
掬ったのか。
ひどい。こんな仕打ち酷過ぎる。
僕の前に、そんな風に姿を現さないでくれ。
浴衣から抜け出して
君の所へ行きたかった。
小さな袋はきつそうだけど
僕の場所だって窮屈だ。
どうせ窮屈なら
君の傍へ行きたい。
花火の色で君はキラキラと
何色にもなった。
でも僕は
そこへ行くことは
できない。
***
曲名:金魚花火
アーティスト名:大塚愛
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この度、ピリカさん企画にチャレンジしてみました。
本当はイラストで全てを表せるくらいに
もっと色々と描いてみたかったのですが
まだまだ修行が足りず…。
浮かぶもの浮かぶもの、描けないイメージのものばかりが
頭を支配してペンが全く動かない。
チャレンジしたくても、このままではまずいぞと焦りの色が。
参加期間が終わってしまう。
と悩んでいたら、結構時間が経っちゃいました。
悩んでいる間にもどんどん増えるみなさんの作品を
少しずつ読み始めたところ
イラストのみで完結させるのではなく
やっぱり文章をメインにして書いてみようと決めた。
最初の方で考えていた曲とは違ったけれど
今回はこの曲で物語が浮かびました。
とりあえず無事参加できてよかったです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ではまた。