この淡い日々よ腐るな
「どんな家庭を作りたいか」
高校時代の友達と会う時、年々恋愛や結婚についての話題が多くなり、友達それぞれの考えや価値観を教えてもらう機会が増えてきた。
どんなひとが良いか、いつまでに結婚したいか、子供は欲しいか、など理想だけを話していた高校時代とは変わって、とても現実かつ将来を見据えた内容になってきていて、大人になったなあなんてどこか他人事のように聞いていたのだけれど、
不意に、一行目の問いが自分に向けられたとき、すぐにこぼれてきたのは、「安心できる家庭にしたい」だった。
「何があっても、ここに帰ってきたら大丈夫だと思える場所にしたい」と続けて、あまり答えになっていないかもとハッとしてしまったけれど、皆「いいねえ」「大事だね」と頷いてくれて、それ以上深掘りしないでくれた優しさがありがたかった。
わたしの家庭環境は本当に複雑で、自叙伝が書けそうなくらいそれはもう色々あった幼少期で。
今でこそネタになっているけれど、家族が信用できなくて財布と通帳を自分の枕の下に入れて寝ていた時期もあった。一番信用できるはずの家族が信じられないのが本当に悲しかった。
そんなこんなで実家はわたしにとって安心できる場所では無かったし、こんな家庭を作りたいという憧れも無かった。多分、一番に考える理想の家庭像って自分が育ってきた家庭からイメージすることが多いと思うので、漠然としてしまうんだろうなと。
ただ、暴力を振るわれたこともなく、傷つくようなことを言われたこともなく、不器用ながらにも大切に育ててくれたと今は素直に思えるし、生きてく上で大事なことはしっかり伝えてくれたと思う。
辛い思いをするのは女の子の方だから自分の身体を大切にしなさい、と繰り返し言われたことも、恋愛や性の話も比較的オープンに話せたことも、すごくよかったと思う。
その部分に関しては、自分も子どもを持つことができたら伝えていきたいし、正しい知識を持っていたいし、何かあったらなんでも相談してね、と頼もしい存在でありたいなと思っている。自分と相手を守れる、大切なこと。
そうして理想の家庭について考えるうちに、今の恋人との将来についても少しずつ考えるようになった。
恋人といると穏やかで、安心する。気持ちや機嫌で振り回したり、好みを押し付けたりしない。傷つくようなことも言わないしやらない。わたしを人として尊重してくれているのがとても伝わる。
今のままでも十分楽しいけれど一緒に暮らしたらもっと楽しくなりそうだな、恋人が家にいると思うと安心するな、とわたしの考えがどんどん膨らむ一方で、今まであまり将来の話をしたことがなかったから、恋人はどう思っているのだろう、と考えた。
このまま1人で悩んでいても仕方ないなと思って、タイミングを見て話を切り出し、全てではないだろうけれど恋人の思いを聞き、わたしの思いを伝えた。
少し真面目な話だから重たいと感じられるかなと思ったけれど、話を逸らしたり不機嫌になったりすることもなく、わたしの話に「うん、うん」としっかり頷いて聞いてくれた。
だからこそ、わたしも落ち着いて話すことができたのだと思う。
そういうところが本当に好きなんだよなあ、なんて考える余裕もできるくらい。
今のところ、お互い考えてみようということになった。
わたしは、どちらかが悩むのではなく、もし同じ方向を向けるのであれば、一緒に考えていきたいことも伝えた。今すぐにというわけではなく、急かさずわたしたちのペースで決めていきたいと。
ただ、これには恋人の意思も絶対に必要で。
わたしは恋人といずれ結婚をしたいと思っているけれど、恋人はそもそも結婚したい気持ちがないかもしれないし、ずっと今のままで過ごしたいと思っているかもしれない。その意思を無理やり曲げてまで、わたしは恋人の意思や自由を奪いたくない。気持ちを尊重したい。
恋人が毎日健やかで元気に過ごしてくれることがわたしにとって何より大事なことだ。
もし、将来が見えないとなったとき、お互いの擦り合わせが難しくなってきたとき、離れる可能性も充分にある。
その時わたしはどう思うだろう。あのとき無理やりにでも繋ぎ止めれば良かったと思うだろうか。それともすぐに次へ切り替えているだろうか。
1年後のわたしたちは一緒にいるだろうか。
なんて、だらだらと思いを綴ってしまったけれど、決して結婚が全てではなく、今は様々な方法で続けていくこともできる。これからもっと世の中で個人の思いが尊重されるようになると信じている。
元々結婚願望は無かったのだし、1人で楽しむ術を充分に身につけているのだから気ままに生きていくことだってできる。
それは恋人にも言える。
ただ、大切な人に何かがあったとき、婚姻関係があれば、法的にも物理的にも傍にいて助けることができたり、様々な場面で恋人同士の時よりももっと現実的に支え合うことができる、と個人的に思っている。
そんな関係でありたい恋人とだから、結婚したい、安心するような家庭を作りたい、と思えたのも事実。
どんな答えになるにせよ、2人が納得して選択できたのなら十分だ。