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誰でも使える交渉術! 『〜すべき、に囚われない』

「何かをしなければならない」「こうあるべきだ」という考え方やマインドセットは、交渉においていくつかの重要な影響を与えることがあります。以下に、そのポイントを挙げてみます。

1. 柔軟性の制限

  • 「こうあるべきだ」といった固定観念が強いと、相手の提案や新しいアイディアに対して拒否反応が出やすくなります。交渉では柔軟な発想と対応が重要ですが、固定観念に縛られていると、新しいアプローチや妥協案に応じる余地が減ってしまい、結果的に交渉が硬直化するリスクがあります。

2. BATNAやZOPAの見落とし

  • 必ずしも「何かをしなければならない」という考え方に固執してしまうと、BATNA(代替案)やZOPA(合意可能範囲)を十分に評価できなくなることがあります。交渉の成功には、双方が利益を得られるゾーンや妥協案の見極めが大切ですが、「こうでなければならない」という思いが強いと、それが障害となり、本来見つけられるはずの合意点が見つからなくなるかもしれません。

3. 強硬姿勢のリスク

  • 「しなければならない」といったマインドセットが強い場合、強硬的な態度を取る可能性が高くなります。交渉相手はその強い主張に圧倒されるか、抵抗感を抱きやすくなります。強硬な姿勢が悪いわけではありませんが、相手との信頼関係を損なうリスクもあり、交渉全体の成功に影響を与えることがあります。

4. 自分自身の負担感やストレスの増加

  • 「何かをしなければならない」「こうあるべきだ」といった義務感が過度になると、交渉者自身にとってもストレス要因となり得ます。緊張や不安が交渉中に影響を及ぼすことで、冷静な判断や適切なコミュニケーションが難しくなる可能性があります。

5. 相手の動機や意図を見落とす可能性

  • 固定観念に囚われていると、相手の動機や意図を理解しにくくなることがあります。交渉相手の立場や価値観を理解することが重要ですが、「こうあるべきだ」という一方的な考えが強すぎると、相手の視点を無視してしまい、誤解やすれ違いが生じやすくなります。


強すぎる「何かをしなければならない」「こうあるべきだ」というマインドセットが交渉の柔軟性や相互理解を阻害する可能性があります。これを適度に調整し、相手の立場を理解しながら柔軟に対応することは、交渉の成功確率は大幅に向上させます。


さて、そうあるためにはどのような考え方や手法が助けてくれるでしょう?
それは『論理的』かつ『実利的』に考えるということです。
これらは、「こうあるべきだ」という、そもそも根拠に乏しい思考から脱却するために非常に役立ちます。以下を参照ください。思考をより客観的で柔軟なものにする助けになります。

1. 論理的思考は根拠を明確にする

  • 論理的思考では、ある結論に至るための前提や根拠を明確にすることが重視されます。このプロセスを通じて、「こうあるべきだ」という感情的または漠然とした固定観念が、本当に理にかなっているかを確認でき、根拠が乏しい場合には見直すきっかけとなります。

2. 実利的な視点は現実的な効果に焦点を当てる

  • 実利的に考えることは、目の前の課題や目標に対して、具体的な成果や効果に目を向けさせます。「こうあるべきだ」といった抽象的な思い込みよりも、現実的なメリット・デメリットを評価するため、結果として「何が得られるか」という視点が強調され、実際の行動や決定が妥当であるかを判断する材料になります。

3. 感情や先入観に左右されにくくなる

  • 論理的・実利的な思考は、感情や過去の経験に基づいた先入観を取り除く手助けをします。感情に流されると、「こうあるべきだ」という思いが強まる傾向がありますが、論理的に考えることでそれを抑え、冷静に状況を見つめ直すことが可能になります。

4. 目標に基づく意思決定を促す

  • 実利的な思考は、「目的を達成するために何が必要か」という視点を優先させます。この視点に立つと、必ずしも「こうあるべきだ」という考えに縛られる必要がなくなり、「現実的に目標を達成するために必要な行動は何か」という方向に意識がシフトします。

5. 他者の視点やニーズを考慮しやすくなる

  • 論理的に考えるときには、相手の視点や交渉状況の全体像も考慮しやすくなります。「こうあるべきだ」という自己中心的な考え方から、双方の利益を考えた現実的な解決策に焦点を移すことができ、柔軟な対応が可能になります。

6. 結果の検証が可能になる

  • 論理的かつ実利的なアプローチでは、決定や行動の結果を後から検証しやすくなります。具体的なデータや事実に基づいて判断したことは、振り返りが容易であり、改善点が見つかりやすいです。「こうあるべきだ」という曖昧な信念に頼らず、実際の成果に基づいて次の戦略を練ることが可能になります。


論理的かつ実利的に考えることで、曖昧な「こうあるべきだ」という思い込みから離れ、具体的な根拠や現実に基づいた判断を行うことができます。この方法は、交渉においても柔軟性と現実性を保ち、双方が利益を得られる結果を導き出すための有力なツールとなります。

例えば次のケースです。

他社との交渉に向けた社内の準備会議で、「こうあるべきだ」「こうしなければならない」という思考から脱却するプロセスを会話形式で描いてみます。このシナリオでは、交渉チームが当初は「価格を下げるべきだ」という固定観念に囚われていますが、論理的・実利的な思考を通じて、その考え方を見直していきます。
当初は価格を下げることが「こうあるべきだ」という考えに基づいて議論が進んでいました。しかし、各メンバーが論理的・実利的な視点から「価格を下げる以外の選択肢」や「長期的な影響」を考慮することで、より柔軟で現実的な解決策が見えてきました。

  • リーダー(Lさん)(プロジェクトリーダー)

  • Mさん(マーケティング担当)

  • Sさん(店舗運営担当)

  • Fさん(商品開発担当)


会話

リーダー:Lさん:「今日の議題ですが、競合他社が次々と値下げに踏み切っている現状を考えると、私たちも値下げする必要があると思っています。上層部からも『他社が値下げしている以上、うちも値下げしかないだろう』と言われているので、今後どう進めるか検討していきたいと思います。」

Mさん:「確かに、値下げ競争が始まっているのはわかっています。 しかし、果たして値下げは最適でしょうか? うちはもともと、味や品質でお客様に選ばれている強みがあります。このブランド価値を低価格戦争に巻き込むのはリスクがあるかもしれません。」

Sさん:「そうですね。値下げをして短期的にお客様が増えたとしても、利益が減り、今までのクオリティ維持も難しくなる可能性があります。実際に、値下げすることで提供する商品やサービスの質が低下する例もありますし、それがブランドのイメージに影響してしまうリスクもあります。」

Lさん:「上層部からも強い要望があるんですよね。他社が安くしていると、お客様がそちらに流れてしまうんじゃないかという懸念もありますし。」

Fさん:「その懸念は分かりますが、私たちが競合と差別化するためには、価格以外の面で価値を見せることができないでしょうか? 例えば、もっと手早く商品を提供できるように、レジや作業の効率化を図り、待ち時間を短縮することで、価格ではなく体験価値で選んでもらう方が戦略的かと思います。」

Mさん:「加えて、新メニューの開発も視野に入れてみてはどうでしょうか?他社の値下げは一時的な魅力を作り出すかもしれませんが、新メニューの投入によって、値下げに依存せずとも新しい層のお客様を取り込むことができますし、既存のお客様にも新たな楽しみを提供できます。」

Sさん:「店舗側としても、レジの自動化や効率化で、少しでも早くお客様に商品を提供する方針には賛成です。短縮した時間が、より良いサービスの提供に回せるのは魅力的ですし、待ち時間が少なければ価格に敏感なお客様にもアピールできるポイントになります。」

Lさん:「そういう考え方もありますね…確かに、値下げに頼らず、時間短縮や新メニューで価値を出せば、私たちのブランドイメージも守れますし、お客様への満足度も維持できるかもしれません。」

Fさん:「さらに、新メニューやサービス改善に投資することは、長期的なブランドのファン作りにもつながります。単なる値引きよりも、お客様との長期的な関係を築けるというメリットがあります。」

Mさん:「そうです。競合他社と同じ値引き路線に行くと価格競争に巻き込まれる一方で、うちのブランド価値が薄れてしまう危険性があります。それより、今の価格で品質や体験の満足度を高めることで、価格競争とは異なる土俵で勝負するほうが得策かと思います。」

Lさん:「確かに、短期的な価格競争に巻き込まれずに、うちのブランド力を維持しながら、他社と差別化を図れる方が長期的な利益にはつながるかもしれませんね。分かりました、値下げという方向ではなく、レジの効率化や新メニュー開発を軸にした戦略を提案することにしましょう。 では具体案について..」



この会議では、プロジェクトリーダーのLさんが「値下げが必要」というテーマを持って会議を開始しましたが、チームメンバーがそれぞれ『論理的・実利的』な視点から、ブランド価値を守りながら他社と差別化を図る提案をしました。結果として、Lさんも「値下げしなければならない」という考えから脱却し、価値を提供する新たな方向性を模索することを決意します。このプロセスを通して、短期的な値下げよりも長期的なブランド強化に注力する戦略の重要性が浮き彫りにすることをチーム全体として浮き彫りにしていきました。
「〜しなければならない」という考えは、一つの視点でしかありません。
論理と実利で議論を進めることで、より良い解が見つかるかもしれません。

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