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交渉術 第29話

前回までのあらすじ(第28話:協力の輪)

武井が実験部で打ち合わせをしている間、香田信二、斉藤陸、山岸明日香の3人がデータ整理や設計の確認に取り組む。香田は頼れる存在であり、斉藤は実験結果と設計図の整合性を精査、山岸は信頼性データを取りまとめる。

三人は、研修の話で盛り上がりながら親交を深める。
作業は順調に進み、前倒しで進捗。今日のところの達成感を共有しながら仕事を終えた。

第29話:前進のための準備

翌日の朝、武井は、香田、斎藤、山岸の3人を会議室Cに呼び出した。

少し眠そうな表情を見せながらも、武井は資料を手にして席に着いた。

「今朝、君たちが整理してくれたデータを確認した。進捗は予定通りだ」
開口一番に切り出した。3人はホッとした表情を見せつつも、武井の次の言葉を待つ。

「これから君たちが整理したデータをどう用いるか、これを説明するので、今後はそこを意識して進めてほしい」

武井は続けた。
「今回の会議における我々の『主張』は、”新製品開発が必要十分に進んでいること”を示すことだ。
顧客の真っ当な懸念やフィードバックは真摯に取り入れるべきだが、それ以外の無駄な不安を抱かせることは、我々だけでなく、顧客にとっても余計な仕事を増やすだけだ。リソースは限られている。」

武井は一呼吸置いて、各自への具体的な指示を出し始めた。

「まず、香田」
香田が身を乗り出す。

「今整理してもらっている実験結果のデータは、今回の議論の中核となり、『主張』を裏付ける重要な根拠となる。曖昧な箇所がないことを徹底してくれ。」

「わかりました。もう一度精査して、矛盾がないか見直します」
と香田が頷く。

「次に斉藤」

斉藤が背筋を伸ばす。

「君がまとめている実験と設計の経緯だが、不具合の可能性がほぼ潰されていることを示す。まだ実験は終わっていないので、これから行われる実験を実験部と調整してきた。それらによって、機能上の懸念が全て払拭されることを明確にする。
まずは今までの実験結果と設計の整合性に矛盾がないことを確認し、全て頭に入れておいてくれ。」

「了解です。実験部との調整内容も反映させて進めます」と斉藤が力強く答えた。

「山岸」
山岸が目を輝かせて聞いた。

「ワイブルの件だが、疲労寿命の件は前の会議で橋本さんが相当気にしていた。以前、本山自動車で他社がトラブルを起こしたことが尾を引いている。論理的に破綻がないよう、検証と整理を行なってくれ。」

「はい」山岸が答える。

武井はあらためて3人を見回して言った。

「この方針でいくので、今日中にデータをまとめておいてくれ。明日、技術的な抜け漏れがないか、皆でチェックして議論しよう。」

「はい!」3人がバラバラと、しかししっかりと声を上げた。



3人が自席に戻って再び作業をしていると、その後ろにフラッと一人の女性が現れた。

香田が何気なく振り返ると、石田紗希子が立っていた。

「あ、部長」

斉藤と山岸も、少し驚いたような顔をして石田の顔を見つめた。

斎藤が立ち上がり、「部長、おはようございます」と言う。

「どう?調子は」

石田が尋ねると、斎藤が答えた。
「調子は.. 調子だけは、いいです!」

山岸が斎藤を(何を言っとる?)という顔で見た。

石田が笑いながら続けた。
「ごめんなさい、いい加減な質問で。 とにかく、第一技術部にようこそ。」

山岸が「はい」とキッパリとした口調で言うと、香田と斎藤も同調するような笑顔を見せた。

「千田くんはうちのエースだし、武井くんは成長株よ。 信頼して、しっかり学んでね」

「あ、はい、もちろんです」香田が答えた。

山岸は羨望の眼差しで石田を見ているようだ。

(39歳の最年少部長って聞いてたけど、思ったよりも若いしきれいな人)

この瞬間、山岸の将来のベンチマークが出来上がったようだ。


さて、このシーンには、交渉やチームリーダーシップの観点で有効な以下のTIPSが含まれています。

1. 主張と根拠を明確にする

  • 武井は、「主張」(新製品開発の機能保証に必要な実験が進んでいること)をはっきり伝え、それを裏付けるデータの重要性を強調しています。

  • 交渉TIP: 交渉では、自分の立場を明確にし、それを支持する具体的なデータや証拠を用意することが不可欠です。この準備は相手の疑念を減らし、説得力を高めます。

2. 顧客の懸念に対応する柔軟性

  • 武井は「顧客の懸念やフィードバックは真摯に受け止める」と述べつつも、「無駄に不安を抱かせない」よう調整しています。

  • 交渉TIP: 相手の懸念に共感を示しつつ、それが過度な要求や誤解につながらないようバランスをとる。これにより、信頼関係を構築しながら主導権を維持できます。

3. 具体的な役割分担

  • 各メンバーに明確なタスクを割り振り、それぞれの貢献がどのように「主張」の達成に結びつくかを説明しています。

  • 交渉TIP: チーム内で明確な役割分担をすることで、効率的に情報を集め、交渉での強みを最大化します。

4. 論理的整合性を重視

  • データや実験結果の「矛盾がないこと」「不具合の可能性を潰しておくこと」「論理的破綻を防ぐこと」が何度も指示されています。

  • 交渉TIP: 提示する情報やロジックに一貫性がないと、相手に疑念を抱かせ、交渉が不利になります。細部の整合性を確認するプロセスは信頼を得る鍵です。

5. 過去の事例の活用

  • 山岸への指示で、顧客が他社のトラブルを気にしていることを踏まえ、データを整理するよう求めています。

  • 交渉TIP: 過去の成功や失敗を把握し、それを交渉材料として活用することで、相手の関心や懸念に具体的に応えられます。

6. タイムラインの設定とチームのコミットメント

  • 「今日中にデータをまとめる」「明日議論してチェックする」という明確な締切を設けています。

  • 交渉TIP: 交渉準備では、チーム全体の合意と行動スケジュールを明確にし、時間内に質の高い結果を出すことが重要です。

7. リーダーシップの実践

  • 武井は、自信を持って方針を提示し、メンバーに期待を明確に伝えています。

  • 交渉TIP: リーダーとしてチームの信頼を得る姿勢は、交渉での信頼性向上にもつながります。

このように、このシーンは交渉に必要な準備とチームマネジメントの要素を含み、実践的な戦略を描いています。






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