「特別じゃない」と思わせたらラジオは強い―佐久間宣行『ラジオパーソナリティ佐久間の話したりない毎日』
１．人生に刺さるラジオ本
聴くと元気がでるラジオがある。ニッポン放送の「佐久間宣行のオールナイトニッポン0」（佐久間宣行ANN0）だ。2019年4月から始まったこの番組を僕は2019年末から毎週ずっと聴いている。東京に住んでいたときは、番組イベントのために東京国際フォーラムや横浜アリーナに足を運んだ。本書はその番組本の第3弾である。番組内のフリートークやゲストとの対談、佐久間さんへのインタビューやアルコ＆ピースとの特別トークなどが収録されている。ファンにはたまらない一冊だ。
僕が一番好きなのは佐久間さんへのインタビューだ。ラジオ自体やそこで話されるトークがいかにして形作られているか。普段は明かされないことが語られている。ちょっとした話が仕事や生き方に刺さったり共感できるのだ。
例えば自分が影響力を持つことについて。
自分が影響力のようなものを持つことについては、シンプルにうれしいです。自分がおもしろいと感じたものを広めたいという思いがずっとあったので。
名をなしてみたい。そういう思いが僕にはある。でもそれは有名になるのが目的ではない。自分が面白いと思った本などがより多く触れられるには「あの人がすすめるなら」と多くの人に言われるに越したことはないからだ。影響力を持つのは所詮手段なのである。
また、表に出るにつれて生じる自分に対する誤解について大切な話をしている。
それに、ラジオをちゃんと聴いてくれている人は、僕の中身は変わっていないとわかってくれる。そう思えるから、ラジオはすごく大切な場所なんです。幸い、家族もそういうイメージのひとり歩きに振り回されないくらいのリテラシー持っているので、その点も助かっていて。妻は同じ業界の人間ですし、娘も僕がネットでイジられようが、誤解されようが、たいていゲラゲラ笑ってくれます。
佐久間さんの足元に及ばなくても、ちょっと積極的に発信しだすだけで「出たがり」だの「変わった」だのと影で言うようになる知人が存在しないとはいえない。そんなときに大切で必要なのは「あなたはあなた」と受け止めてくれる人だ。それは家族だったり友達だったりフォロワーだったりする。そういう人がいるだけでどれほどありがたいことだろうか。
２．僕も大好きな「相談パスタ」のビストロ
本書に収録されているフリートークの中に「相談パスタ」の回がある。佐久間さん行きつけのビストロにはシェフと客が相談しながら食べたいパスタを作ってもらう「相談パスタ」というメニューがあるのだ。その相談パスタをめぐって、佐久間さんと同席している放送作家の川上さんとシェフで繰り広げられるちょっとした小話である。
僕はこのトークが大好きだ。なぜなら僕もこのビストロがとてもお気に入りの店だからである。まさか佐久間さんが行きつけだとは思ってもみなかった。別の回やWEB記事で佐久間さん自身が明かしているので明かすが、東京都の新富町にあるビストロ ル ケイクが相談パスタの店だ。パスタ以外のメニューも非常に美味しい。しかも高すぎない。今も僕が東京に住んでいたら定期的に通っていただろう。
佐久間さんのラジオは食事の話が多い。コロナ禍前まではジングルでおすすめのお店を紹介していたくらい自身が食べることが大好きだからだ。僕はそこまで食べることが楽しみではないし喜びでもない。そんな僕でも佐久間さんの話を聞いていると「よく行くお店」と作りたくなる。そんな力がラジオにはあるのだ。
３．なぜ佐久間宣行ANN0は僕を魅了するのか
なぜ僕はここまで佐久間宣行ANN0に魅了されるのだろうか。佐久間さんのラジオにハマらなければ様々な番組に手を出すこともなくラジオが趣味にはならなかっただろう。ポッドキャストも始めなかっただろうし、ラジオに出てみたいとも思わなかった。
そもそも芸人など芸能人ではなく、会社員（番組途中まで）でプロデューサーという裏方のラジオに心ひかれたのか。佐久間さんには「特別なんだけど特別じゃない感じ」がするからではないだろうか。ここが芸能人とは違う。彼ら、特に芸人のトークはやっぱり面白い。でもそれは芸能界という特別な世界にいる人間が出せるものに思えてくる。佐久間さんが話すことにはなぜか「僕らの世界」の住人の匂いがする。彼だって芸能界に足を突っ込んでいるのにだ。本当はすごい人なのに、どことなく市井の人な感じを残している。ここが大きな魅力だ。
佐久間さんのラジオは明るい。自分でトークして自分で笑うのはこのラジオの風物詩だが、その笑い声に僕はすごく励まされる。特に各回のオープニングトークは何度もそこだけ聞き返しては、元気がでない時の励みにしている。
元気だけじゃない。好きを伝える情熱にもあこがれる。映画、ドラマ、舞台、マンガなどのエンタメについて語る姿は「これぐらいの思いと伝わりやすさで自分も好きなものを語って広めたい」と思わせる。僕が書評を書くようになった小さなきっかけの一つが佐久間宣行ANN0なのは間違いない。
2019年4月からはじまり今年で6年目になる佐久間宣行ANN0。番組が長く続いてくれたらもちろんうれしいが、年齢や多忙さもあるし佐久間さんがラジオの番組を持ってさえいれば僕はそれでいい。無理のない範囲でいつまでも励みになるトークを聞かせてくれることを祈りたい。
【本と出会ったきっかけ】
大好きなラジオ番組の本なら買うしかないでしょう。
４．参考資料
◎【メシもお笑いもまったく一緒】テレ東・佐久間Pが語る「外食論」
佐久間さんがビストロ ル ケイクを紹介している記事。
いいなと思ったら応援しよう！
