ほとんど野球を見ないサッカー好きが、読むのをやめられなかった「野球本」ベスト5
野球はまったく見ない。興味もさほどない。でも「野球本」は大好きなんだ。野球本は日本のスポーツ本の王様である。そんな王様たちの中から、ほとんど野球を見ないサッカー好きの僕も、ページをめくる手が止まらなかった本を紹介する。繰り返す。野球本は面白い。
1.野球より普通に野球本が好き
野球の話をしようと思う。でも僕は野球をほとんど見ない。友達に誘われたときだけ一緒にスタジアムに行くぐらいだ。日本中が熱狂したらしい2023年のWBCも周東の足が速かったことぐらいしか記憶にない。
そもそも僕は骨の髄までサッカー好きである。野球を見る時間があるならサッカーを見るに決まっている。
でも野球選手や監督の名前はうっすら覚えている。特に今より昔の人の名前の方が鮮明だ。それは僕が「野球本」は大好きだからだ。
日本の野球本は面白い。種類も豊富だし質も高い。日本のスポーツ本の中で最高峰に位置するのが野球本だと僕は思う。次点が格闘技本(特にプロレス)で、その次がサッカー本だ。
とにかく僕は野球本は定期的にチェックしている。毎年東京の御茶ノ水で「東京野球ブックフェア」というイベントが開かれる。まさに野球本の祭典だ。
ノコノコやってきた僕を贔屓の球団のユニを着た野球マニアの皆さんが取り囲んで好きな球団を聞いてきたときに「いえ!僕は野球は見ないんですが野球本が大好きなんです!」と笑顔で答えるくらいには野球本好きである。普段は引かれる側かもしれないマニアの皆さんが戸惑いを隠せず僕に引いていたのは見なかったことにしたい。
そんな僕が選ぶ「ほとんど野球を見ないサッカー好きが、読むのをやめられなかった」野球本を5冊紹介していこうと思う。
2.5位:長谷川晶一『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』
褒め言葉として「狂った」一冊だ。タイトルで分かるようにすべての球団のファンクラブに10年間入り続けて特典やファンサービスの変遷を分析し比較した本である。
おもしろ本としても読めるのだが、ファンの満足度を高めるのに何が必要なのかを考えるのにも非常に参考になる。プロ野球はあらゆるスポーツチームの中で最も予算がふんだんだ。だからこそあの手この手のファンサービスができるし、それを楽しんだり参考にできるかもしれない。
もっともこの本の何が一番「狂って」いるかといえば、長谷川さんはその後もファンクラブに入会し続け20年に到達し、また本を出したことだろう。「狂った」本がまた一冊生まれてしまった。
3.4位:中野晴行『球団消滅』
日本のプロ野球の最大の強みとは何か。他のスポーツがどんなに逆立ちしても工夫してもかなわないものは何か。僕は「戦後の激動を国民と共に乗り越えた経験」だと考えている。これは歴史の積み重ねがなせることだ。
時代と共にあったプロ野球は日本政治史や経済史とも密接につながっていくから面白い。球団の歴代オーナーを調べるだけでも昭和の日本経済の歴史がうっすら見えてくる。
現在の横浜DeNAベイスターズにつながる球団に松竹ロビンスがある。セリーグ最初の優勝球団だ。そのオーナーだった田村駒治郎が球団を持ち手放すまでを書いたノンフィクションである。
戦争中や戦後の混乱、それでも野球を続けようとする情熱、ワンマンだからこその愛と功罪。プレーだけがスポーツのドラマじゃないことを読んだ当時小学生だった僕に教えてくれた一冊だ。
4.3位:村瀬秀信『4522敗の記憶』
ライターでありベイスターズファンの著者が大洋ホエールズ時代からの歴史をつづった一冊だ。野球に興味がなくてもチームスポーツを応援する者は読む価値ありである。
強いチームはなぜ強いのか。それを考えるときに、強いチームを分析する以外にもう一つ方法がある。それは逆を考えることだ。なぜ弱いチームは弱いのか。なぜ強くないチームは勝ち続けられないのか。
ベイスターズという球団はとことん弱い時代もあれば、一瞬強かったけど長続きしなかった時代もある。その歴史をたどれば、あらゆるスポーツチームが強くあり続けられない理由がすべて詰まっている。
野球本の最大の強みは「弱さをネタにできること」だ。他のスポーツで最下位のチームの歩みが一冊の本になることはあり得ない。そもそも売れないし、歴史として重たすぎるからだ。
でも野球だと降格制度もなく、市場も大きいから、重たいけれどネタに昇華される。チームの弱さを学ぶことができるのも野球本ならではなのだ。
5.2位:長谷川晶一『夏を赦す』
日本ハムファイターズの投手で、今は解説者の岩本勉という人がいる。北海道民である僕のイメージは、現役時代も引退後も「いつも明るい関西のおっちゃん」である。野球に詳しい人からみれば違うのかもしれないが、彼からネガティブな言葉はほとんど聞いたことがない。
でもただの明るいおっちゃんではない。ドラフト2位に高卒入団し、チームの中軸として活躍したこともあるすごい人なのだ。
高校時代からスカウトが視察にくる注目選手でドラフト2位。さぞ甲子園で活躍したのだろう。そう思うかもしれないが、実は彼は甲子園に出場できなかった。彼が3年生でエースのときは野球部が地方大会を「辞退」している。
ではなぜ彼は甲子園に出られなかったのか。そこからたどる「誰も知らない岩本勉」にせまった一冊だ。あの底抜けた明るさに何があるのか。震えるような感動とやるせなさが交錯する。彼のことをよく知らなくてもつい心が動いてしまう一冊だ。
6.1位:鈴木忠平『嫌われた監督』
スポーツ紙の中日ドラゴンズ担当だった著者が当時追っていた落合博満監督のドラゴンズについてまとめた本だ。まごうことなき衝撃の傑作である。
僕はこの本はミステリーだと思って読んでいる。主役は明らかに落合さんなのだが、鈴木さんは彼ではなく彼の周りにいる選手、コーチ、球団職員たちから「落合博満」という人間の実像を拾っていく。一冊の主演は落合さんだが、各章の主演は証言者たちなのだ。
僕らは「落合博満」という謎を共に解き明かしながら読み進めていく。その過程で本の登場人物が落合さんに魅せられ変わっていくように、自分も彼に魅せられていくことに気がつくはずだ。
何より異様なのは構成だ。ノンフィクションは創作ができない。にも関わらず序盤の川崎憲次郎さんと終盤の荒木雅博さんの章は、良質なミステリーを読んでいるかのようなどんでん返しにあっと言わされる。
内容、構成、他ジャンルとも戦える強度。文句なしで「キング・オブ・野球本」である。10月には文庫版が発売されるので要チェックだ。
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