Culture Drivenの力
企業には様々な「文化」という色があります。
個々の人が働く仕事という文脈において、私は企業「文化」は集団として結合し、力を発揮する為の一つの武器と捉えています。
昨今のビジネス環境は急速に変化しています。
グローバル化・DXなど、バズワードのような言葉も多々ありますが、ビジネス間の壁が低くなり、横断的かつ発展の速度も上がっている現代社会において、企業の持続的な成功の鍵は何でしょうか?
私は、その答えの一つが「Culture Driven」だと考えています。
「Culture Driven」を簡潔に説明すると、組織の文化や価値観、信念を中心に据えて、経営や運営を行うアプローチのことを表します。
このような組織では、単なる利潤や効率性だけでなく、「事業の存在意義」や「社会への価値提供」といった根本的な問いにこたえる形で、経営が行われます。
確固たる組織アイデンティティの形成は、一貫した文化の浸透を生み、意思決定の軸が統一されるという意味で、人材の変化による影響を最小限に抑え、結果として長期的・持続的な成功に繋がると私は考えています。この考え方にある程度共感いただける方も多いのではないでしょうか?
当文章では、変わらぬ本質的な価値観と変化への適応力を兼ね備えた「不易流行」の企業づくりを「Culture Driven」という視点で考察してみます。
まず、「不易流行」とは何でしょうか?
「不易流行」とは、俳句で有名な松尾芭蕉が生み出した言葉で、変わらないものの本質(不易)を理解し大切にしながら、新しい変化(流行)を取り入れることで、伝統と革新のバランスを取ろうとする考え方です。時代を超えて価値あるものを守りつつ、同時に時代の変化に柔軟に適応することを意味します。この概念は、永続的な価値と革新的な進化を両立させる方法として、経営以外の領域まで幅広く使われていると言えます。
そして、「Culture Driven」なアプローチを通じ、「不易流行」を実現することは組織に強力な競争優位性をもたらします。
企業の存在意義(パーパス)、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)といった社会における企業の役割や貢献を明らかにした上で、意思決定や行動の指針となる価値観といったものを明確化する過程は、「Culture Driven」な組織を構成するにあたり、全ての活動の基盤となりえます。この価値観や倫理観といった部分を明確にし、組織全体で共有することで、組織として一枚岩になることができたり、一貫性のある意思決定と決定から行動までの腑に落ちる度合いが高まると言えます。
一方で、新技術、トレンド、要望、環境への配慮といった事項も、時代とともに変化する社会的な役割に近付いてくるので、現状は文化的な側面を損なわない形で流行の要素を積極的に取り入れると言えます。しかしながら、私はパーパスやMVVを取り決めた段階で、「不易」と「流行」は共に存在し得る裏表のような存在かと考えております。
その為、この2つの要素は相反していると捉える人ももしかするといらっしゃるのかも知れませんが、ほぼ融合する事に近いメカニズムが機能するのではないでしょうか。
つまり、この「不易流行」が文化的なレベルで融合している企業は、強固なアイデンティティを維持しながら、環境の変化に柔軟に対応することが可能と言えます。結果として、短期的な利潤に目が行く事なく、長期的な競争力と持続可能性を獲得することができるのです。「Culture Driven」と「不易流行」の実践は、単なるトレンドへの追従ではなく、企業の本質を守りながら進化を続ける、バランスの取れた組織づくりの方法と言えるのかも知れません。
では、ここでイオングループを事例として挙げてみたいと思います。
日本では、小売業界大手であるイオングループでは、家訓に「大黒柱に車をつけよ」という考え方があります。
この言葉は、家屋の中心を支える「大黒柱」に「車」をつけて動かせるようにしておくことで、時代の変化に対して柔軟に対応しながらも、揺るがない基盤を構築することの重要性を説いていると私は捉えています。この一見古く見えるような表現を含む知恵は、現代のビジネス環境においても示唆に富んでいると考えます。
特に、この文脈における「車」の比喩は、変化への適用化を象徴していると考えており、デジタル化、オムニチャネル戦略、海外事業投資、多角化の推進など、時代の変化に合わせて大胆な事業モデルの変化を遂げています。
「Culture Driven」な企業は、この「車」の部分、つまり変化を受け入れ、新しいことに挑戦する文化も同時に育てている事例があります。
つまり、「Culture Driven」な組織づくりとは、まさにこの「大黒柱」と「車」のバランスを取ることに他なりません。変わらぬ価値観を持ちながら、時代の変化に適応することで、持続的な成長を実現します。
では、実際に「Culture Driven」で「不易流行」な企業づくりを行うには、どのような対応が考えられますでしょうか。一例として流れを挙げてみたいと思います。
①企業の核となる価値観の明確化
ここは前述した為、言わずもがなです。ここで重要なのは社員を含めた議論と共有の過程を踏むことが大切だと考えています。また、個人的には「変化すること」自体を企業の指針に元々盛り込むことも必要と考えます。
②変化への適応力の育成
市場動向や新技術に敏感になる組織文化も育てる必要があるのではと考えます。社員の継続的な学習を推進し、新技術などにアンテナが立つようにし、新しいアイデアを歓迎する文化(雰囲気づくり)が大切と言えます。
③リーダーシップの役割
経営陣が率先して「不易流行」を体現することが何より重要です。
「不易」の部分を常に従業員に伝えながら、「流行」の部分についても柔軟な姿勢を示すことで、組織全体にこの考え方が浸透していきます。
この時に大事なのは明文化される事、社員が言葉として使っている事、リーダーが一貫したスタンスを取る事だと考えます。
④評価・報酬制度の整備
価値観を体現しつつ、変化へ柔軟に対応できる行動を評価・報酬に反映させることで、自身の企業文化の考え方を組織に根付かせることができます。特に報酬の面では、あくまで外的な要素と捉えること、また長期的な目線でのプロジェクトへの奨励などにより、整備が促進すると考えています。
⑤継続的な対話と進化
最後は、文化を根付かせるという点です。定期的に社員を含めて、議論する場を設けることで、時代の変化に合わせて企業文化自体も進化させていくことが個々の社員ごとに浸透させることができます。
以上のようなステップを踏むことで、強固な企業文化を基盤としながら、時代の変化に柔軟に対応できる組織を作り上げる素地に成り得るのではないでしょうか。
「Culture Driven」前提の「不易流行」の企業づくりは、決して容易ではありません。
しかし、この取り組みは長期的な視点で見たとき、企業の持続可能性を高め、競争優位性を築く上で非常に重要な戦略となりえます。
変化の激しい現代のビジネス環境において、変わらぬ価値観を持ちながら時代の変化に柔軟に対応する。この両輪を持つことこそが、企業の長期的な成功の鍵となります。
皆さんの所属する(もしくは経営する)企業では、どのような文化を持っていますか?
「Culture Driven」な視点から自社の文化を俯瞰的に見ることが、「不易流行」の企業づくりを始める第一歩となり得るのではないでしょうか。
そして、その過程で直面する課題や発見した洞察は、人が動いているからこその生々しさを持ちますが、経験を通した学びからでないと、生きた知識とはなりえません。
ステークホルダー全員の経験から学び合うことで、より強靭で適応力のある組織を作り上げることができると私は考えます。