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【オススメ小説1】『かか』宇佐見りん著

 初めましての方は初めまして、名雪七湯と申します。

 この度は、初めての試みとして、本紹介に挑戦してみたいと思います。著作は宇佐見りんさんの『かか』です。拙い箇所もあるかもしれませんが、何卒、最後までお付き合い頂けますと幸いです。

1、本紹介、あらすじ

 先ず、著作についての諸々を纏めてゆきます。

 『かか』河出書房新社、2019年11月30日初版発行、宇佐見りん著

 第33回 三島由紀夫賞、第56回文藝賞 W受賞のデビューという傑作。

 また、著者、宇佐見りんさんは最新作、『推し、燃ゆ』が第164回芥川賞を受賞したとあり、今最も注目されている作家さんでもあります。

 処女作にあたる今作は、その新進気鋭の感性が遺憾なく発揮されており、その簡単なあらすじは以下の通りです。

 「うーちゃんは浪人生の19歳。大好きなかか(母)が酒を飲む度にはっきょうし、心身共に疲弊する日々。かかはととの浮気により離婚し、それ以来心を病んでしまっていた。弟とじじ、ばば、従妹の明子にペットのホロと大所帯に身を置きながら、女性としての自分、幸せに生きる人生とは何かと頭を悩ませながら、SNSにのめり込んでゆく、、、」

2、内容についての感想

 この作品のテーマは、タイトルからも分かる通り、「母親」です。

 家族というテーマは文学作品では主流なものですが、今作では「娘」と「女」という視点から、家族に於ける母親像を切り込んでいます。

「うーちゃんはね、かかを産みたかった」(P12)。

 作者の感性が存分に感じられる、この作品の全てを表していると言っても過言ではない一文です。私はこの一文を見て、購入を決めました。

 うーちゃん(語り手)は「かかが好きだけど、かかが憎い」という相反する感情に終始、頭を悩ませます。産まれたての子供にとって、母親は神様です。母親がくれるものが世界の全てになり、母親が教えてくれるものが私の全てになる。母親に対して信仰にも近い愛情を抱きます。

 そして、今目の前にいるかかは酒の勢いそのままに、暴力に身を任せるしかない。憎い。かかが憎い。けれど、かかがうーちゃんの全てだった頃の過去が私をかかに縛り付ける。そんな、どっち付かずの心理がうまく表現されています。誰しも一度は親に抱いたことがある感情ではないでしょうか。

 他にもこの作品では、血縁関係や女性として生きること、SNSという独特なコミュニティ、など様々なテーマが現代の視点から語られています。

 私は特にSNSという空間に着目しました。鍵を掛け、気の合う数人だけのコミュニティを作り、その中で直接には送らずタイムラインに言葉を投げるだけの世界。匿名で、顔も知らない人にだけ吐ける弱音。誰も具体的な解決策を提示してくれる訳ではないが、言葉にするだけでほっとする。昔ではよく理解されない心理。今を生きる宇佐見さんならではの表現です。

 全てについて語っているときりがないので、詳しくは是非、本編にて。

3、形式についての感想

 さて、次は形式の面に着目してみたいと思います。

 今作は強い訛り(作品内の言葉を借りるなら『かか弁』)による、うーちゃんの一人称語りが主です。また、ところどこに弟のみっくんへ「おまい(お前)」と語り掛ける二人称が混じるという構成を取ります。二人称語りの小説は稀ですので、最初は違和感があるかもしれません。

 言葉選びやテンポにこそ著者の感性が出るものですが、一方でいささか読みにくさも残ります。一文がやたら長い箇所もあり、見開きで改行が一回というページも。しかし、これも立派な表現方法の一つです。この作品は、『うーちゃんの頭の中』です。脳裏に次々と浮かび上がる、取り留めのない言葉の群。それを圧倒的な筆力で描き出しています。

 ただ、わー疲れた! となる時もあるので休み休み読んでゆきましょう。

 あと、形式の面で言及すべきは、表紙の憐憫さです。うーちゃん(と思しき人)の号泣が描かれた、白のざらざらの紙面。表紙を捲れば見ゆる、真っ赤の装丁と栞との調和。装丁を含めて一つのアートとなっておりますので、是非に手に取ってみて下さい。私が紙の本を選ぶ理由はそこにあります。

4、最後に

 初めての本紹介となりましたが、如何だったでしょうか。長い、短い、もっとここが気になる! という箇所があれば、コメントを頂ければ幸いです。私自身、本の紹介に必要なのは、主観(考え)と客観(事実)の切り分けだと考えております。そして、良い面と悪い面もきちんと記述すること。

 世の中のものは一長一短であると思います。読み易くて短い小説は物足りなさと軽薄さが残り、難読で重厚なものは読み難さと疲労感がネックとなる。推薦しているのにネガキャンしてどうする、というのも十二分に理解できますが、この世に完璧な小説というものは存在するのでしょうか。その話だけで一作書けそうなので、この辺りでお終いとします。

 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。



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