マガジンのカバー画像

独白 ー冷蔵庫の中の記憶ー

18
冷蔵庫の中で放置されたままのの記憶・思い出を取り出してみた…
運営しているクリエイター

記事一覧

1030

詩人が描きだしたようないくつかの雲 薔薇色と蒼色… まるで蛍のような小さな星ひとつを 薔薇色のなかに見つけた もうじき昼は盲目になる… 魚が水面に浮きあがり ちらっ…と光った まるで思い出が記憶の表面ににじみでるかのようだ…

ουροβóρος

雨粒がコロコロとフロントガラスを転げ落ちていく 海沿いの木々が逆光の中で黒々とその輪郭を浮き出し 遠くに、青白く瞬くラブホのネオン流れていく 突然…あの頃のことがまざまざと蘇りわたしの心に滲み出した 彼女の奥深く微かに輝く瞳や控えめの声…仄かな甘美な匂い… すべては過ぎてしまってからわかる… わかった時はすでに遅いからこそ 残された思い出だけがいつまでもわたしの冷凍庫に眠っている いったい人はどのくらいの時間が経つと過去のことを忘れられるのだろうか… 転げ落ちる雨粒が

20170723

あの日から7年を迎えた… 空気を一服ふかすために近くの海辺に散歩にでた わたしのひなたぼっこする場所 この光と風と匂いはあなたとわたしのものだ… いつかの時に どこかで… 同じような美しさを感じて あなたとともに心に留めおいたことを思い出す… 何時間居るのだろうか… 詩人が描きだしたようないくつかの雲 薔薇色と青色… まるで蛍のような小さな星ひとつを薔薇色のなかに見つけた もうじき昼は盲目になる… 魚が波間に跳ね上がり ちらっと光った まるで思い出が記憶の表面ににじみ

ひっそりとこびりついたあじ

わたしの一番小さい時の写真は 居間らしき部屋の座卓で ちょっとモダンでポップな少女人形が収められた筒状のケースに 右手を添えて照れくさそうに笑っているポートレート おそらく3・4歳だろうか 目はまんまるで大きく坊ちゃん刈りで日に焼けたように黒く  (まるで「ちびくろ・サンボ」のようだと言われていたような記憶がある) ギンガムチェックの上着… 当然まだ白黒の写真だ 兄や姉たちのように赤ちゃんからの写真が なぜか末っ子のわたしだけが無かった そして臍の緒もわたしのだけがやはり無か

0427

この2日間の疲れだろうか 久々にやわらかな陽光が降り注いだせいだろうか 今朝はゆらゆらと甘美な夢だった 目覚めたわたしは自分自身に驚き…照れてしまった… 廃墟の部屋のような暗闇の中 不意に稲光がして眩い裸体が浮き上がった 離れた窓からは湿った風が流れ込み レースのカーテンがゆるやかに波打っている  … 誰だろう …? わたしはその姿を確かめたいが沈んだ身体は動かない 暗闇の中に重い指先を伸ばすとまた稲光が走り 眩い白い肌はすぐ目の前にあった… 肌は雨に濡れたのだろうか…

Jolies ténèbres

花はいろ そして匂い あなたのこころ そして やさしさ    ーー 堀口大學  ”人に” (詩集:幸福のパン種)ーー コロナ禍が収束し始めた2022.2月 70歳を一歩手前にキャンドルづくりを始めようと糸島に移住した フランスのバンド・デシネ(BD)の中でも大好きな作家ケラスコエットが描く「かわいい闇 − Jolies ténèbres −」がある 物語はもちろん好きだがそれ以上に彼女の優しくも透明でダークな絵に魅せられ いつも手元に置いていた そしてわたしもいつか”可

la mélancolie d'une belle journée

短くも美しく燃え ずっと病室にいたはずのわたしは どれが彼女との最後の会話だったのかを思い出せない ただ、消灯時間を迎えた頃 彼女は少し意識を戻した 「お水…」 わたしは乾いてカサカサな唇に吸い飲みのガラスの吸い口をあてた 「体を拭いて綺麗にしてほしい…」 わたしはベッド脇の小さなスタンドの薄明かりの中で病衣の前合わせ紐を解き タオルが熱くないかを頬で確かめ白い躰を愛撫するかのように拭いた 薄く微笑みながらわたしの動作を追いかける彼女の瞳を私は忘れない 彼女にはわたしの姿は

色づき芽吹くエロス…

小学4年か5年の頃の夏 ある晴れた昼下がり また川辺の湿地帯の探検に出かけた でも今度は大きな長い橋を渡った隣町側 初めての川辺は大きな木々や背丈以上の草に覆われた 未知の世界だった 川沿いの雑木と雑草の茂みに 吸い込まれるような一本の砂利道があった …どこに続いてるんだろう… …この先には何があるんだろう… わたしは怖さに少し負けながらも進んでみることにした 葦かススキなどの萱や雑木の葉っぱが風で揺れる音と匂い 青空の雲と汗ばむ陽射し 誰も通らない道を随分と歩いた 道から少

ひとしずくのスペクトルム

見上げると丸い空だけが見えた わたしは嬰児籠の中で起き上がろうと手足をばたつかせた ようやく藁の淵を掴みよろよろと這い上がる 目の前に鏡のように白っぽく輝く田んぼが広がった 母の姿を探した 広がる水面に餌を探す動物のように腰を屈めた数人の中に 母の後ろ姿があった わたしは母を求め嬰児籠から這い出そうともがいた 突然からだは中に浮き草むらに落ち 土手を転がりながら田んぼに水音をたてた 気がつくと母はわたしの両足を持ちげ 逆さ吊りの泥だらけの背中をパンパンと叩いていた 私は泥水を

... Carpe diem

彼はヘッドフォンを外そうとしない 身じろぎもしない彼の深く透明な瞳は 私たちが知らない音の色合いに旅している もう15年ほど前のことだが 彼はよく蛇口から落ちる雫の音に魅せられていた 誰もいない風呂場の蛇口をほんのすこし緩め 浴槽の水面に弾ける水音に耳を傾け2時間も3時間もその場を動かなかった  「今日は泣いているよ」  「今飛んでるんだ」  「仲間はずれでかわいそう。。」 時々ポツンと言葉を漏らす 命くんがアスペルガーだとわかったのは2歳になった時… 4歳の

破滅的な美しさ

空が急に翳った…目に見えない世界が一変する 光る波が踊っていた水面は不気味に静まり松葉を揺るがせる 灰色の鳥が潅木の茂みから飛び立ち どこかで魚が跳ねる水音がした 雨が来るのだろうか… 私は野良犬のように鼻をくんくんさせた… ————————— 私の人生でどの部分が青春と言われるものの始まりなのかはわからない わかるのは青春が終わったと感じ取った一瞬だけだ それ以後の方が映画や本の中の人物に激しく魅了されるようになったとは何とも不思議なことである 子供時代のヒーローはたく

いみじくも奇しき幻、ゆめ、匂い…
こそ忘れぬ

わたしは女を目で撫でるのが好きだ わたしは藤田嗣治が描く女が好きな理由がわかった なぜなら私も同じなのだ… そして藤田が面相筆にこめた想いも… 17の時… テキスタイルデザインを始め 夢中になった道具は面相筆だった 美しき花々を優しく艶やかに描くには一番適した筆だった 特にお気に入りは「土生天祥堂」のイタチ毛の面相筆だった 鋭くまとまった毛先は美しく… その穂先は… 指先の感覚をそのまま線に化するしなやかな弾力は… どこか淫美に… 目で愛で… そのざわざわと溢れる心を筆先

リバティの薔薇…咲いた頃…

確か1970年の夏が終わる頃…まだ17の頃… 休日の新宿の人混みの中、新宿三愛を目指して急いだ 新宿高野の前を通り過ぎると鼓動が激しくなった 息切れではなく体中が興奮していたのだ 3丁目の交差点 今はもう姿を消した新宿三愛の階段を駆け足で上がるわたしがいる… 2階の婦人服のフロアーの奥の方が下着売り場だった フロアーには沢山の若い女性がいた わたしは立ち止まり少し急ぎ目で深呼吸し… 洋服が並んだ中を…若い女性たちの間を下着売り場に向かった 前から横から…後ろからも怪訝な視

月にエクスタシー

月あかり、孤独が喜びそうな月の温かみ 一輪の花が、だまされて咲きだすような気がする まだ岩手に居た子どもの頃 なぜあんな時間 あんなところを通ったのか覚えていないが 雪で覆いつくされた林の道を 雪道に残された足跡で遊びながら帰っていた… 近道をしようと田んぼの方へ林を抜けた 目の前は突然冷たく静かに それでも皓皓と輝くまんまるな月の光に 周りの全てが蒼白く浮かび上がり まるで音のしない世界に わけもわからない恐怖と淋しさが襲った… でもそれ以上にその風景は美しく とてつもな