ουροβóρος
雨粒がコロコロとフロントガラスを転げ落ちていく
海沿いの木々が逆光の中で黒々とその輪郭を浮き出し
遠くに、青白く瞬くラブホのネオン流れていく
突然…あの頃のことがまざまざと蘇りわたしの心に滲み出した
彼女の奥深く微かに輝く瞳や控えめの声…仄かな甘美な匂い…
すべては過ぎてしまってからわかる…
わかった時はすでに遅いからこそ
残された思い出だけがいつまでもわたしの冷凍庫に眠っている
いったい人はどのくらいの時間が経つと過去のことを忘れられるのだろうか…
転げ落ちる雨粒が押し寄せる時間のような気がして
わたしは逆らってアクセルを踏んだ
失って尚…彼女を愛すれば
わたしは底に穴の空いた壷で水を汲むようなものだ…
壷から水がこぼれる時の音まで聞こえるような気がする
しかし…
こぼれ落ちた水は私の足を濡らしつづけどこに消えるのだろうか…
流れる雨水を眺めながら…
大好きな森茉莉の「甘い蜜の部屋」を思い出した
わたしの女の子が…もしもそのまま生まれて生きていたら
わたしはきっとモイラのように溺愛しただろう…
ある日ベットの中からうっすらわたしを見つめる彼女に
「泥棒になっても○○がやれば上等」
と…モイラの父親の口癖を真似た
彼女は「ふふふ…ありがとう」と微笑んだ
海沿いの雑草地に車を止め煙草を咥えYoutubeを開き
随分前から気に入っている ゲヒャンスー GH’S を流す
GH’Sが創り出すアニメーションはもちろんストーリーも絵も大好きなのだが
MVで流れる音楽はどれもなんと素敵なんだろう…
子どもに人気なアニメ♪“Poppy playtim”をはじめどのMVの曲も
あまりにも楽しくも切なすぎて…愛しすぎる…
わたしが見る夢の数々の世界に近いからだろうか…
わたしは少し前まで韓国のドラマや映画や音楽にほとんど興味がなかった
しかし2年程前“Poppy playtim”のMV「私は怪物じゃない」を観てから
韓国のクリエーターに興味を持ち
今ではドラマや映画そしてなんとK-POPも聴くようになり
若い子が使ういわゆる「推し」までできてしまったので自分でも驚いている(笑
わたしは子どものころから目を通して見えたものが全てだった
たとえそれが妄想だったとしてもわたしの目に飛び込んでくる世界をだ…
美しい景色、人々の美しい目の表情
美しい文字の並び、さまざまな音から見える美しい世界
そして悲しく…苦しく…残酷な現実…
わたしがこのnoteの中で唯一愛読させていただいている花野さんのほかに
ミズノさんという方のnoteが愛読書に加わった
そのミズノさんが数日前にあげていた記事にわたしの好きな
♪“痛いの痛いの飛んでいけ” ♪“錠剤” ♪“心臓”
が紹介されていたことが嬉しく思わずコメントしてしまった(笑
この曲もわたしはMVの世界観そして表現力に魅せられたのだ
(もちろん歌詞や曲もだが…)
そんなことでわたしは彼女が亡くなった後
自分にはそれまで目でとらえていなかったさまざまな世界に足を踏み入れた
デザインなどの本業とは別に主に夜の時間をその仕事に充てた
ラブホテルの清掃、マンションやアパートなどの特殊清掃
SMデリヘルやホテヘル、バーやクラブの女の子たちの送迎ドライバー
大人のマッチングサイトの管理、街金の個別訪問集金…などなど
いわゆる裏社会…
そこからわたしの目の中に入り込む世界は…
そう…
“痛いの痛いの飛んでいけ”のMVの右目と左目の世界で
それはわたしにとって
どちらの世界もとても大切な現実になっている…
ウロボロス…
短くも美しく燃え
…carpe diem