まずい飯
世の中に旨いごはんとまずいごはんがあるなんて今更ここに書く必要はない。けどあえてこうやって書くのは別にまずい料理店をネットにさらすわけでなく、逆にまずいごはんの味わい深さをみんなに知ってもらいたいからである。まずいごはんは基本的に高級料理店ではまずでないものだろう。たしかに高級料理にも食べられないものはある。例えばブロッコリーであるが、ブロッコリーがまずいとか言うのは単に好き嫌いの問題であり、私はブロッコリーなんか食えたものじゃないと思うけどブロッコリーなしじゃ生きれれないわという人もいるとかいう問題でしかない。しかし安い料理店には確実にまずいものがある。普通のラーメンだってどうしてこんなにまずく作ることが出来るお店はそこら中にあるのだ。だけど私はそんなお店のラーメンを食べても文句は言ったりはしない。他の客と同じようにただ黙々と食べるだけだ。
今日も私は長い髪を垂らしてまずいラーメンを啜っている。ラーメンを食べ終わったらまずいホルモン焼きやで汚らしい日雇いの連中と一緒にまずい酒を飲むつもりだ。今こうして店の中を見渡してみてもまずい料理店にはやはりそれ相応の連中がいてみんな汚らしい顔で必死に今日のごちそうを啜っている。まったくなんて汚らしい連中なのだろう。しかし彼らみたいな人間が本当の庶民なのだと思う。貧しさは庶民の味というべきなのか。やっぱり庶民を知るには彼らの食べているもののまずさを知らなくてはいけないのだろう。時々彼らが私をチラチラと覗いている。もしかして彼らは私を新地のウェイトレスなんかだと思ってるのかもしれない。もしかしたら私に向って「あんたいつもいる店教えてくれへんか?日雇い仕事終わったらすぐかけつけたるさかいな」とか言ってくるかもしれない。まったく汚らしい連中は心まできたない。彼らにとって女とは新地のウェイトレスのことなのだ。私は彼らにウェイトレスだと誤解されないようにわざとつっけんどんな態度をとった。しかしそれでも彼らは私を見ている。私はいい加減頭にきて彼らを怒鳴りつけてやった。
「ちょっとあなたたちどうしてそんなに私を見るの!もしかして私をお金で買おうとかそんなこと考えてるんじゃないでしょうね!誤解もいいとこよ!私は見た通りのインテリ女子なんですからね!」
「どっちが誤解しとるんや。ワイらはゴキブリをだしにしとるあんな腐ったラーメン必死でたべとるアンタが気の毒でやめときって言うとしたんや。それでもあんたワイらがスケベやとか言うんかい!」
「……えっ、ゴキブリってマジ?」
「ホンマや、ここの店主いつも作り置きの汁のラーメン出すねん。めんどくさくて洗えへんわとか抜かしおってな。それで汁がゴキブリの巣窟になってるからワイらはみんな食わへんねん。だけど姉ちゃん知らへんから……。まあ好きで食うてるならそれでもええんけどな」
「よかねえわ!店主はどこだ!人に腐ったもん食わせやがって殺してやる!ゴキブリホイホイぶっかけてゴミ箱に捨ててやる!」
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