![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171173231/rectangle_large_type_2_63f7ec4a2b37052f1c654f9d73a892e5.png?width=1200)
フォーレが語る、《シシリエンヌ》
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、作曲家のガブリエル・フォーレさんです。
(お話は史実に基づき構成しています)
こんにちは、ガブリエル・フォーレです。
パリで、作曲家とオルガニストをしています。
![](https://assets.st-note.com/img/1737531992-hDUxapErQbgsfnYwLyoCmG76.jpg?width=1200)
ガブリエル・フォーレ(1845−1924)の肖像、1889年。
さて今日は、僕の作品の中から《シシリエンヌ》という曲を紹介するよ。
この作品は面白いことに、紆余曲折、
いろいろな道を辿って何度も生まれ変わったという
僕の中でも特に思いの深い、愛着のある曲だよ。
最初にこの曲を書いたのは、
まだ僕が50歳になる前、1890年代の初め頃だよ。
僕の音楽人生の師であるサン=サーンス先生から、
先生の代わりにある作品を書いてと頼まれたんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1737533812-qPY9MBmGVFugfEsW68Dl3rT0.jpg?width=1200)
モリエールっていう作家を知っている?
凄く古い17世紀頃に活躍したフランスの古典喜劇の大家なんだけれどね。
パリのある劇場が、モリエールの『町人貴族』っていう戯曲を上演するために、
新しく音楽を書いてほしいってサン=サーンス先生に依頼したんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1737532669-X0JEywNW3eVjt9bRfSkTPMU2.jpg)
それで先生に変わって、
この《シシリエンヌ》を含めた数曲を作曲したんだ。
この時《シシリエンヌ》は、
幕間のバレエの時にオーボエがソロを吹くって形で書いたんだよ。
けど、なんとその劇場が倒産しちゃったの。
もう曲は完成してたのに、1回も上演されないまま!
作品はお蔵入りになっちゃたってわけ。
ひどい話でしょ。
それから5年近く経って、50代の半ば頃かな。
あるチェロ奏者から、チェロのために曲を書いてほしいって頼まれてね。
忙しかったし、新しい曲を書くより、
お蔵入りになってた《シシリエンヌ》をチェロ用に書き直そうってひらめいて、
それでチェロとピアノ用の《シシリエンヌ》が出来上がったんだ。
ちょうど同じ頃なんだけど、イギリスの有名な女優さんから
今、欧州中で注目を集めてるベルギーのメーテルリンクっていう作家が書いた
『ペレアスとメリザンド』っていう戯曲をロンドンで上演したいから
音楽を書いてくれっていう依頼があったの。
![](https://assets.st-note.com/img/1737535608-pc6vPVE3UKYSabl4ueMwZ8kO.jpg?width=1200)
『ペレアスとメリザンド』の劇中には、
主人公のペレアスとメリザンドが
夜の泉で愛を告白し合う
ちょうどこの曲にぴったりな場面があってね。
![](https://assets.st-note.com/img/1737535337-LhnDWAwJ2ifMyCO3G9FKk0oV.jpg?width=1200)
二人は愛を確かめ合うんだけれど、この後二人ともに死ぬ運命にあるから、
美しさの中に悲しみが宿っているっていう場面で、
《シシリエンヌ》の短調の調べがなんとも合うんだよ。
それで、この場面にこの曲を使うことにしたんだ。
ソロの楽器をフルートに変えてね。
もともと演劇用に書いた旋律だから、やっぱり劇にはしっくり合うんだよね。
![](https://assets.st-note.com/img/1737535420-3Qs5ot2gX0qjPUx9wryVLDcW.jpg?width=1200)
ただ作曲の依頼があったのは、すでに上演の2ヶ月くらい前でね。
他の仕事もたくさん抱えていて、
ロンドンでの上演までに、僕がオーケストラを書く時間がなかったんだ。
それで、その時は作曲の弟子のケクランに細かい指示をして、
管弦楽を彼に担当させたんだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1737535674-5qcinGp1xDW4LMlw3oTPJ82g.png?width=1200)
そして、そのロンドンでの上演の後、少し時間ができた時に
あらためて自分で管弦楽版を書き直したんだ。
ロンドンでは、劇場の制約もあって小さい編成用のオーケストラだったからね。
サイズの大きいオーケストラでも演奏できるようにと思ってね。
![](https://assets.st-note.com/img/1737535715-WoDvLtx6l2Bu3KgZVbFs40Mf.jpg?width=1200)
ということで、この《シシリエンヌ》は僕にとって紆余曲折ありながら、
何度も見つめ直した思い出深い作品なんだよ。
今日は皆さんに、オーケストラ用の《シシリエンヌ》と
チェロとピアノ用の《シシリエンヌ》を2曲続けて聴いてもらおうと思います。
演奏は1曲目のオーケストラ版は、
ダニエル・バレンボイム指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ソロのフルートを吹いているのは、エマニュエル・パユ。
2曲目のチェロ版は、チェロがゴーティエ・カピュソン、ピアノがジェローム・デュクロです。
いいなと思ったら応援しよう!
![夏目ムル](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/168764441/profile_18612d215d7bc07d704f406a43ce4652.png?width=600&crop=1:1,smart)