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R.シュトラウスが語る、《ツァラトゥストラはかく語き》
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
この番組では、毎回異なる音楽家がパーソナリティーを務め、
自身のお気に入りの曲と、その曲にまつわるエピソードを語っていきます。
今日の担当は、作曲家のリヒャルト・シュトラウスさんです。
(お話は史実に基づき構成しています)
こんにちは、リヒャルト・シュトラウスです。
今日は、僕が1896年に完成させた
5作目の交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》を紹介したいと思います。
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交響詩っていう言葉は聞いたことはある?
これ、交響曲の形式の一つなんだけれど、
筋書きとか、状況とか、心象とか概念とか
音楽以外の要素と結びついたテーマを持った作品のことだよ。
この後、少し説明をするけれど
僕の場合は、旋律とか音形とかリズムを、
ある言葉とかイメージとか人物とかに当てはめたりもしているんだ。
交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》はもちろん
フリードリヒ・ニーチェが、
10年ほど前に書いた《ツァラトゥストラはかく語りき》
に関連づけて作曲した作品です。
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ニーチェは、自身もピアノを弾いたり作曲したり
一時期は物凄くワーグナーにも傾倒したり、
かなりの音楽好きの人。
Ohne Musik wäre das Leben ein Irrtum
音楽がなければ人生は一つの誤謬となるにちがいない
僕も、ニーチェの作品はたくさん読んでいるけれど
その中でも
「もしかしたら『ツァラトゥストラ』は全編が音楽であると考えてもいいかもしれない」
ってニーチェ自身でいっているくらい、
《ツァラトゥストラはかく語りき》ってすごく音楽的だと思う。
なにより、「ルサンチマン」とか「ニヒリズム」とか
彼の言う『超人』とか『永劫回帰』を通して、
僕たち人間が抱える普遍的な問い、みたいなものが書かれている気がして、
いつも耳を傾けたくなる。
まあ、ニーチェは自分で《ツァラトゥストラ》は「人類への最高の贈り物」
なんて言ってたけど
とにかく、僕はこの作品を僕なりに音楽化することにしたんだ。
ニーチェは《ツァラトゥストラ》を全4部構成で書いているけれど、
僕の音楽では、ニーチェが書いた章を9つのパートに分けて、
再構成してみたんだよ。
そして曲の冒頭で《ツァラトゥストラ》の序説から一説を引用したんだ。
ある朝、ツァラトゥストラはあかつきとともに起き、太陽を迎えて立ち、
つぎのように太陽に語りかけた。
「偉大なる天体よ!
もしあなたの光を浴びる者たちがいなかったら、
あなたははたして幸福といえるだろうか!
……しかし、わたしたちがいて、毎朝あなたを待ち、
あなたかられこぼれるものを受けとり、感謝して、あなたを祝福してきた。」
岩波文庫(氷上英廣訳)
それから、さっきも話したように
曲の中では、いろいろなモティーフを使ったんだ。
一番有名なのは、冒頭に出てくる「日の出」のモティーフかな。
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トランペットが吹くこの音形「日の出」感出てるでしょ。
ゆっくり浮かび上がるように聞こえる、あのフレーズだね。
曲の冒頭は、他の楽器が低音でハ音(ドの音)を保持してて、
(まるで日の出前の暗闇のように・・・
でも人間が奏でているから、
これから何かが生まれるかのような息づかいは感じるんだ)
そこから、ゆっくりとトランペットが、このモティーフを奏で始めるの。
透き通った空気の中を太陽が登っていく感じが見えない?
このモティーフは特に重要だから、曲の最後まで何度も登場するよ。
例えば、下の楽譜は曲の終結のページ。
楽譜の一番下の方、黄色でマークしたところに同じ音の形が見えるでしょ。
チェロとコントラバスが「日の出」のテーマを演奏している。
ここでは「人間と自然の対峙」みたいなものを音楽化したんだ。
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細かく曲の話をしていたら、キリがないね。
番組の放送時間もあるから、今回はこのへんで。
また機会があれば、お話させてください。
それでは、僕の交響詩《ツァラトゥストラはかく語りき》
から、冒頭の部分をお聴きください。
演奏はグスターボ・デゥダメル指揮、
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団です。
Note上で展開する、架空のラジオ番組《クラシック・エトセトラ》。
いかがでしたか。
番組は、ほぼ日更新。名曲の、目から鱗のエピソードが語られていきます。
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