見出し画像

再掲【詩+α】「Accidents」

あなたに出逢ったこと
あなたに恋したこと

不鮮明な過去だと分かってる
何処で泣き何処で笑ったのか
そんなのはっきりしない

正直言ってあなたの顔をもう思い出せない
交わした言葉も破片になって切れ切れだ
ただ壊れそうでいてそれでいて芯のある姿だけが
おぼろげに残っている

いつだって偶然が連なって毎日は過ぎていくから

僕がここで詩をうたわなかったら
僕がここに来る術を知らなかったら
僕がツバメを想わなかったら
僕が真っ白な部屋の中で過ごさなかったら
僕がもしも本当にもしも病みを持ってこの世界に生を受けなかったら

多分あなたに逢うことはなかっただろう
多分僕自身も違う道を歩んでいただろう

それでも歩まなかった道を想っても仕方ないよね
例え一瞬でもあなたを知ったことを大事にしよう

あなたはどこかにいて
僕はここにいる
そう思えることは多分幸せなことだね

いつだって偶然が連なって毎日は続いていくから

−−−−−−−−−−

相変わらず寝不足が続く状態で
頭の痛みも胃の痛みも治まってくれない

一旦目が覚めて 時計を見て
また寝なおそうとするのはもう諦めた
どうせ眠れないのだから

眠れない時間を暗闇の中で過ごすということは
いろんなことを考えることになり
考えてしまう「いろんなこと」があることに気づいた

「何もないんだ」と思って過ごしてた時期にも
こうして振り返ってみれば何がしかの出来事はあり
誰かと少なからず関わって生きてきたんだと思う

冒頭の詩は十年ほど前に綴った
この詩の「あなた」は今はもうどこにもいない

初めて会ったときに何かが震えた人だった
あるホテルのロビーで待ち合わせをしていて
その人をひと目見たときに一瞬固まってしまった

当時、その人との話を知人に話をしたときに
「どんな人やったん?」と聞かれたら
「今まで会った中で一番キレイな人やった」と答えていた
今となっては顔もはっきりと思い出せないけれど

ただ、藍色のコートを細い身体に纏って静かに微笑んでいた
ある冬の一日の姿だけは覚えている

お互いに住んでいる場所が異なり、
働いている時間も特殊な職業に就いていたその人と僕とでは違いすぎた
それでも、当時、普及し始めていたメールでの毎日のやり取りと
何日かごとの電話での会話と
たまに僕が住んでいる場所とその人が住んでいる場所とを
お互いに行き来して逢うことで数ヶ月を過ごした

僕のことを「君」と呼んでいた人だった

「君の住んでるところの近くで行きたいところがあるの」
その人の住んでいる場所から数駅離れたところにあるイタリア料理店で
ピザを食べながら、その人は言った
「へぇ〜、どこですか?」
「まだ秘密 でも、君も知ってるはずのところだから 案内してね」
「それ、あんまり出歩かへん僕には自信ないなぁ」

標準語のその人と関西弁の僕との
そんな軽いやり取りの中での
ささやかな約束は もちろん果たされることはなかった

最初からわかっていたはずのことだった
その人にとっても 僕にとっても
寄り道みたいな出会いだったということ

「恋」にするには全てが離れすぎていた
隙間を埋めるには その隙間はどうにもならないぐらい広すぎて
その人は最初から諦めていたし
その人より若かった僕も結局は諦めた
それでも言わずにはいれなかった青くさい想いがあったけど
今も意味を本当には分かっていない一言を言わずにはいれなかったけど

最後のメールで
その人がぽつんとつぶやくように書いていた一行
「君と行きたかったなぁ」
その場所の名前は その人の名前と同じ音だった

僕が今も住んでいるこの場所から 全然近くはないけど
そこは今は雪が積もっているのだろうか
もう数ヶ月もしないうちに 花が咲き乱れるはずのその場所に
その人と連絡を取らなくなってから数年後の春に、僕は友人と行った

そのとき、旅館の窓から見たその風景をおぼろげながら
この部屋の闇の中で思い出す

桜の花びらたちが風の中を走っていた




偶然が連なって僕は今ここにいる

無数の無名の偶然を通りすぎていくような毎日だけど
それでも ただ通り過ぎることができない「それ」があり
時に立ち止まってしまうことがある

「それ」との出会いを大切にできる力が今の僕にあるだろうか?
その出会いを大切にできる優しさが今の僕にあるだろうか?

あのとき、同じようなことを問いともつかぬ形でつぶやいた僕に
その人は僕の頭をポンポンと軽く叩きながら確か言っていた

「君は大丈夫 
 ちょっと迷いすぎているけど 大丈夫だよ
 もっと自信を持ってもいいよ
 素敵だよ じゃないと 私は今ここにいないよ」

その言葉をキレイゴトだと思っていた時期もある
でも、結局、今になって思い出してしまった

初めて誰かがくれた答だった
その答を大事にしておけば
また違った「今」があっただろう
また違った笑顔があったかもしれない



歩んできた道のどこにだっていつにだって後悔はあり
これからも悔やむことはあるだろう
その鎖からも自由にはなれない
これまでの生で充分思い知っている

どこかクリアーになりきれない心でこれからも過ごしていくだろう

何かを言い聞かせるように
何かを言い訳するように

そして迷いながら 戸惑いながら 不安を抱えながら

時にとんでもなく落ち込みながら
ひょっとしたら泣くこともあるかもしれない

それでも結局は笑いながら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?