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【ハンガー・ゲーム③マネシカケスの少女】反乱の先に残った者たち

3つ目の「ハンガー・ゲーム」感想文です。3巻は物語の完結巻。映画は2部作で公開されました。たしかに3巻は重要なシーンが多すぎて2時間じゃ描き切れないです。私の感想文もかなり長くなってしまいました。「ハンガー・ゲーム」愛が止まらない...。

1巻と2巻の記事は⇓

今回も映画と小説に関するネタバレがありますので、まだ観てないよ!まだ読んでないよ!という人はお気を付けください!

2巻(https://amzn.to/3Xyw1ne)は、第75回「ハンガー・ゲーム」が中断し、カットニスとフィニック、ビーティ―が反乱軍に救出されたところで終わっていました。一方、ピータとジョアンナ、アニーはキャピトルに捕らえられ人質に。

時を同じくして、第12地区にはキャピトルからやってきたホバークラフトが爆弾を落としていきます。空襲にいち早く気付いたゲイルの手によって、カットニスの家族とゲイルの家族を含むシームの人々はなんとか逃げ延びますが、町に住んでいたピータの家族やカットニスの友人のマッジはみんな死んでしまいました。

冒頭から早速しんどい展開ですが、悲しみと混乱を乗り越える暇もなく、カットニスは反乱軍の顔になることを求められます。どうしていいかわからない、でも誰に相談したらいいのかもわからない、誰のことも信用できないと殻に閉じこもってしまうカットニスが痛々しくて、ピータ早く助けに来て!と思ってしまいました。でも、助けてほしいのはむしろピータの方だよね…。

そして、カットニスのスタイリストだったシナも殺されてしまいます。ここで気になってくるのが、シナは一体いつから反乱の意思を持っていたのかということ。スノー大統領には、2回目の「ハンガー・ゲーム」でカットニスに用意した衣装がきっかけで目を付けられたんだと思いますが、その時点でカットニスの戦闘用衣装を何着も作っていました。キャピトルで生まれ育ったシナがどうしてキャピトルに背くようになったのか、想像で補完するしかないのが悔しいです。

そして、シナの衣装やカットニスの歌、ピータの絵など、芸術的なアイテムが重要な意味を持ってくるのが3巻です。有事の時ほど、人の心を掴むのは美しい物なのかもしれません。それがどんな時でもアーティストが生まれ、愛されてきた理由なのかも。

キャピトルに行ったことがないゲイルと、キャピトルにも友人が出来てしまったカットニスの間で意見が食い違っていくところも興味深かったです。ゲイルにとって、キャピトルの人たちは野蛮なゲームを楽しんでいる憎むべき相手。しかし、カットニスは育った環境が全く違うと、同じものを見ていても見える景色が違ってしまうことを知っています。

ゲイルがキャピトル軍に対してどこまでも非道になれるのも、相手がどんな人間かを知らないからこそなのかもしれません。同じように、キャピトルの人たちにとって、毎年「ハンガー・ゲーム」に登場する生贄たちは、どんなところで生まれ、どんな人たちに囲まれて育ったのか、全く知らない人間です。だからこそ、ゲームをゲームとして、ある種他人事のように楽しめたのではないでしょうか。

その証拠に、かつての勝者たちが生贄として選ばれた第75回「ハンガー・ゲーム」では、生贄たちに感情移入し、取り乱してしまうキャピトル市民が多く現れました。カットニスは、キャピトルに住んでいる人たちでさえスノーによって操られているということをわかっていたように思います。

3巻で何よりつらかったのが、変わり果ててしまったフィニックの姿です。アニーが心配なあまり心を壊してしまったフィニック。小説では、映画の何倍もフィニックの描写があるので、本当に参っていることが伝わってきます。

反乱軍に救出され、スノー大統領の手から離れても、今度はコイン首相の手でじわじわと首を絞められていくカットニスも不憫です。スノー大統領が悪党なのは明らかですが、コイン首相が統治するパネムにも幸せなイメージがわかないんですよね...。

そんなコイン首相からのプレッシャーに苦しんでいる時に、ゲイルが自分の味方ではなくコイン首相の味方をしたことに怒るカットニス。この時、カットニスの頭にはピータの顔が浮かんだだろうなと思いました。ピータなら全面的にカットニスの味方になってくれるよね。ゲイルは一緒に戦うなら頼れる相棒だけど、つらい時に寄りかかって休む場所としては物足りない気がします。

誰もが自分を思うがままに操ろうとしてくる状況にストレスを募らせていくカットニス。そもそもカットニスは反乱を起こす気なんてなかったのに、巻き込まれ、最前線に立たされようとしているので、放り出したくなる気持ちもわかります。たぶんピータが囚われていなかったら真っ先に逃げてる。

そして、なぜ第13地区が反乱を起こすことができたのか、その後75年もの間、ひっそりと力を蓄え続けることができたのか、という点については、映画よりも小説の方がわかりやすいです。もともと第13地区には軍事施設があったんですね。それを奪い取った形になるので、武器もたくさん持っているし、キャピトルも強く出られないところがあったみたいです。なるほど。

ピータの救出部隊にゲイルが入っていることを知り、今日私は2人とも失うのかもしれないと怯えるカットニス。ピータがカットニスのためにゲイルを助けようとしたように、ゲイルもカットニスのためにピータを助けようとします。どっちも卑怯な手でカットニスの心を奪おうとしないところがいいんですよね。いや、恋愛に卑怯とかはないのかもしれないけど。

ヘイミッチが、自分が優勝した「ハンガー・ゲーム」の後で家族も友人も恋人も殺されていることにもショックを受けました。そんな非道なことをしておいて、その後も25年にわたってヘイミッチをゲームに関わらせ続けたスノー大統領の冷酷さに震えます。人の心はないのでしょうか。

そもそもヘイミッチの勝ち方はそこまでキャピトルに喧嘩を売るようなものだったのでしょうか?どちらかというとゲーム・オーガナイザーの落ち度なのでは?と思わずにはいられません。むしろ闘技場をうまく活用した例として褒められてもいいくらいです。

下巻(https://amzn.to/4eyxqAm)では、やっとのことでピータと再会できたカットニスがピータに殺されかけるところから物語が再開します。徹底的に壊されたピータを見て、あの頃のピータにはもう二度と会えないのかもしれないと絶望するカットニスがつらいです。私も悲しい。ピータを返して。

そんな絶望の中で、プリムがたくましく頼もしくなっていくのが心強いです。刈り入れの日に名前を呼ばれた時の幼気な少女だったプリムとは見違えたみたい。映画ではプリム役の女優さんが美しく成長していたので、より一層そう感じられました。

映画にはなかったシーンでいうと、ゲイルの元カノ事情。ゲイルが第12地区でモテモテだったことは、1巻から何度も触れられてきました。いろんな女の子とキスしてたし、それを悪いことだとも思っていないところがモテ男なんですよね~。ピータはたぶんカットニスがファーストキスだろうな。

ピータの愛は、押しつけがましくないのに、ずっとそこにあると信じられる安心感があります。カットニスは人を愛するのに向いてないけど、ピータは愛の表現がとても上手で、それは彼の素晴らしい長所だと思いました。河井直子さんの訳し方がまたしみじみいいんですよね…。

第12地区はみんなダンスが上手という設定も好きです。貧しいながらも、地区の人たちが結婚した時はみんなで踊ってお祝いしたんだろうなというのが想像できるフィニックとアニーの結婚式でした。ピータお手製の愛のこもったウェディングケーキもすばらしかったです。

アニーが帰ってきたことで元気になったフィニックの姿が見られたのもフィニック推しとしては嬉しいところ。スノー大統領の手が届かないところで、誰にも邪魔されることなく結ばれた2人が尊いです。その分、カットニスとピータの関係の悲惨さが際立つんですが…。

でもこの時点では、カットニスはまだゲイルとピータの間で揺れているので、ラブラブなフィニックとアニーを見ているときのダメージの受け方は、私が想像しているものとはちょっと違うのかも。

記憶を操作され、何が本当で何が嘘なのかがわからなくなっても、カットニスの好物は覚えているピータに胸が苦しくなりました。そういう経験を積み重ねていくことで、ピータへの愛情を確信していくカットニスですが、こういう状況でなかったらカットニスはピータのことを選ばなかったのではないかとも思いました。

カットニスとピータの関係って究極の吊り橋効果だと思っていて、最初の「ハンガー・ゲーム」で一緒に選ばれなければカットニスはピータを意識することもなかっただろうと思うんです。しんどい経験をたくさん共有することでピータへの想いが育っていったのかも。

反乱がおこり、戦争になって、つらい思いをたくさんしたカットニスが立ち直るためには、ピータの優しさが必要でした。でもそれがすべて起こらなかった世界では、カットニスは1人きりで生きていく道を選んだような気もします。それとも平和な世界ならゲイルと結ばれたのかな。どうかな、どうだろう。

スノー大統領の暗殺に向けてキャピトルへと進行していくターンに入ってからは、どんどん人が死んでいくのでしんどいです。フィニックも…。フィニックの退場に関してはもうちょっとなんとかならなかったかなと思ってしまいます。あそこまで生きられたなら最後まで生かしてくれよ…とか、そもそもアニーを置いて最前線に送り込むなよ…とか。わかってます。推しの死を受け入れられないだけです。

残されたアニーがまた精神不安定になってしまうことが心配でしたが、1人でもフィニックの子どもを育てていく決意をしたアニーは立派です。夫の忘れ形見的な展開に私は弱い…。

そして最大の敵、スノー大統領の最期は、ラスボスとして理想的なものでした。でも今のパネムはスノー大統領の独裁政権だったのか?スノー大統領さえいなくなれば平和になるのか?というところはちょっと疑問。でも少なくとも直近の25年間は大統領をしていたみたいだし、悪の根源であることは間違いないのかな。

私はカットニス役のジェニファー・ローレンスの演技がとても好きなので、最新作の映画には登場しないのが残念です。特に怒りとか苦しみとかネガティブな表現がすごい。あと顔がいい。小説も映画も、もっともっと続きが出てほしいのに、この気持ちはいったいどこに届けたらいいんだ?と思いつつ感想文を締めたいと思います。

今はひとまず「ハンガー・ゲーム0」が楽しみ!

「ハンガー・ゲーム0」の感想文も書きました!⇩

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