「下り」にはご注意を。
先日、引越しをした。しかし、荷物がトラックに乗り切らず後始末に追われることとなる。そのせいか、四国お遍路で痛めた左太ももの古傷が再発してしまった。
十数年前に歩き遍路をした。歩き遍路は20日程かかるため退職のタイミングにあわせた旅程。
きっかけは、残業とセットメニューと化したラーメンで30kg増量したということもある。けれど、何年も人を魅了し続けている特別な「何か」への好奇心が大きい。だって、1200年ですよ。
装束を整え意気揚々とスタートする。けれど、運動不足の身体では1日40km以上を歩くのはかなりきつい。最初の難関とされる焼山寺では、日が暮れていく中で「山で野宿」という恐怖に追い立てられ、やっとのことで辿り着き胸を撫で下ろす。
それでも、いく日か経つと身体も慣れはじめる。そして、心は輪をかけてゆるみはじめる。舐めはじめると云ってもいい。
数日後、山道の段差を颯爽と下りた時に左太ももに痛みが走った。痛いというよりは熱い。上りがしんどい分、下りはより軽快になっていた。
下りは全重量が片足にかかる。脂を蓄えた身体、10kgを超える荷物、そして下りの勢いがプラスされる。理屈で考えても危ないことなのに、調子にのった。痛い。
さて、本題である。この「下り」が危ないというのは、いろいろなことに通じていると思う。仕事、思考、組織、そして人生。
成功にはいろいろあるけど失敗には共通項があるらしい。はじめは小さなことでも「下り」は、いつしか勢いがつく。あれよあれよと自力では止まれなくなる。
慣性の力と数の力は見誤ると大事故になる。想像以上に恐ろしい。
「ビジョナリー・カンパニー3」ではビジョナリーな企業の衰退を調査し、衰退の五段階を論じている。
成功体験、傲慢、公私混同、一発逆転……。偉大な企業でも衰退する。あとになって振り返れば馬鹿に思えることでも、勢いのついた悪循環を止めるのは難しい。そもそも見たいものしか見えない性質なのだから、渦中にまわりが見えないのは当然と云える。
20世紀最高の経営者ジャック・ウェルチ氏のGE社も凋落した。振り返るとウェルチ氏からはじまっていた危険な仕組みは、後の代で崩壊していった。
一歩一歩踏みしめる上りと違い「下り」は楽に見える。
そして、勢いがつく。
数万の借金、ちょっとした経費のごまかし、察してくれという気持ち。
成功した私は正しい、会社の金は私の金、私は人より重責を担っている。
言っても無駄、言ったもん負け、大きい声もん勝ち。
これくらい、あれくらい。
「下り」は勢いがつく。勢いがついては自力で止めるのは困難となる。
想像して欲しい。暗闇の中で上るのと下るのは、どっちが怖いだろうか。
一寸先は闇。
失敗例は先人からの贈り物である。よく学ぼうと思う。
くれぐれも「下り」にはご注意を。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
足跡を残していただければ幸いです。