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効率と能率。そして、豊かさ。

 「効率」という言葉が好きだった。むしろ、善だとさえ思っていた。業務は効率化したほうがいいだろうし、効率的に生きていくことに憧れもあった。コスパやタイパが流行るように、おそらく、それが正しいだろう。

 しかし、産業能率大学で「能率」という言葉を知り、価値観が変わった。今は効率よりも能率を追求し、その先の「豊かさ」を目指すべきではないかと思っている。

 では、効率から見ていこう。辞書での定義はこうである。

効率
機械によってなされた仕事の量と、消費された力との比率。転じて、一般的に、使った労力と、得られた結果との割合。結果を中心にしていう。

精選版 日本国語大辞典

 効率は、F・テイラー氏の「科学的管理法」が有名である。フォード社はこの手法を導入し、圧倒的な生産性と低コストを実現し、モデルTを他の自動車メーカーに比べて非常に低価格で販売することにより、多くの人の手の届くものにした。

科学的管理法
F・テイラーが提唱した経営手法で、作業効率の最大化を目的とします。テイラーは、作業を詳細に分析し、時間や動作を最適化することで生産性を向上させると主張しました。彼の方法は、労働者に対する明確な指示や監視、標準化された作業手順の導入を含みます。また、労働者の選定と訓練にも力を入れ、個々の適性に応じた業務配置を行うことで、全体の効率向上を目指しました。

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 しかし、効率向上を追求したこの手法は、労働者のモチベーション低下、人間性の軽視、柔軟性の欠如、長期的成長の阻害といった問題点もある。

 簡単に言ってしまえば「ネジを締める人はネジを締めることしかできなくなる」ということだ。

 これに対し「能率」は「そのものの能力が発揮されている度合い」であり、ムリ・ムダ・ムラを減らしていくことである。

 自動車に荷物を無理に乗せると燃費は悪くなり、危険も増す。荷物が少なすぎればスペースが無駄となる。そして荷物量にムラがあれば生産性は上がらない。

 それは、人にも云えることである。人の能力やポテンシャルには差がある。それらをいかに発揮させるかということが能率の軸となる。

能率
① 一定の時間にできあがる仕事の割合。仕事のはかどり具合。
② 物理学で、モーメント(回転能率)のこと。

精選版 日本国語大辞典

 そして、産業能率大学の創立者 上野陽一氏は、能率についてこんな言葉を残している。

能率とは十のものを十のものに働かすことである。言い換えれば、「ありのまま」あるいは「かけねなし」ということである。

上野陽一(1883~1957)

 能率は、人の「持ち前」を考えなければならず、効率で見落とされがちな「人間」がいる。人事総務である僕が目指す方向は、効率や最適化ではなく、能率だったのだ。

 では、能率の先には何があるのだろう。何のための能率なのだろうか。

 おそらく、その先は「豊かさ」なのだと思う。辞書での定義はこうだ。

豊か
① 満ち足りていて不足のないさま。富んでいてゆとりのあるさま。豊富。富裕。
② 広々としていてゆとりのあるさま。
(イ) 人の心や態度などに余裕があって、おおようであるさま。心が広く安らかであるさま。
(ロ) ゆったりと広がるさま。ゆるやかなさま。
(ハ) ゆっくりと落ち着いているさま。のんびりとくつろいでいるさま。
③ ふっくらとしたさま。豊満で美しいさま。
④ 他の語に付いて、基準・限度を越えて、十分にあるさま、余りのあるさまを表わす。

精選版 日本国語大辞典

 これはある意味、分け与えられることだと感じている。
そう感じたのは以下の日記に出会ったおかげである。

 私は言っておきたい。ある国の文明度を測る基準は、どれほど高いビルがあるか、どれほど速い車があるかではない。どれほど強力な武器があるか、どれほど勇ましい軍隊があるかでもない。どれほど科学技術が発達しているか、どれほど芸術が素晴らしいかでもない。ましてや、どれほど豪華な会議を開き、どれほど絢燗たる花火を上げるかでもなければ、どれほど多くの人が世界各地を豪遊して爆買いするかでもない。ある国の文明度を測る唯一の基準は、弱者に対して国がどういう態度を取るかだ。

方方.「武漢日記 封鎖下60日の魂の記録」.河出書房新社,2020,320p

 人の強みを活かし、弱みは補い合う。組織なのだから、やはりそれが意義であり、豊かさではないだろうか。これは、ピーター・F・ドラッカー氏の云う「マネジメント」ではないだろうか。

人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである。人は弱い。悲しいほどに弱い。
問題を起こす。人とは費用であり、脅威である。
しかし人はこれらのことゆえに雇われるのではない。人が雇われるのは、強みのゆえであり能力のゆえである。
組織の目的は人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。

ピーター・F・ドラッカー(1909~2005)

 人的資本経営の時代が到来したのだ。それは「効率」よりも「能率」を求め、組織の意義、マネジメントの意義の原点へ立ち返る時だと告げている。きっと、これは「豊かさ」への道しるべなのだ。

 従業員の持ち前を活かし、弱さは補い合う。気力、体力は充実し、誰かをおもんばかる余白がある。おぼろげだけど、そんな豊かさの背中が見えはじめた気がしている。


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総務部総務課 マモたろう
缶コーヒー1本で勇気づけられることがある。おやつ1つで余裕ができたりする。投稿を「いいね」と感じたら、そんなチップを、僕ではない、あなたの半径5mの人にしてみてはいかがでしょうか。

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