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ただ、それだけ

 私のことなど忘れて、幸せに生きてほしい。

 と、そんなことを何度、思ったことであろう。

 ひとり、晩酌をしながら想いを馳せる。
 
 幸せに、だなんて、なんて傲慢なのかしら。

 幸せを願っているわけではない。せっかく、縁の巡り合えた人たちなのだから、そうあってほしい、と勝手ながらに思っているだけだ。

 私は、覚えている。覚えて、しまっている。

 幾人かはすでに、私のことなど忘てしまっている人もいる。それでいい、それがいい。

 それでも、私は、覚えています。

 お猪口を傾ける。あの人のことを、思い出す。

 お猪口を傾けるたびに、いろんな、あの人のことを。

 年齢も、性別も、立場も、何も、関係ない、いろんな、人たちのこと。

 こうして、ひとり、酒を飲みながら、一人ひとりに、思いを馳せる。

 どう過ごしているのかしら。
 どんなふうに最期を迎えたかしら。

 それらが、せめて……。

 私のことなんて記憶から排除して、その分、幸せな時間が埋まってくれていたらいい。

 私なんて、必要ないのだから。

 誰にも、必要とされていないのだから。

 京都のお猪口も、岩手のお酒も、埼玉の額縁も、神奈川の創作も、すべて、すべて、想いがつまっている。

 過ぎ去った、ものたちに過ぎないけれど。

 私も、そろそろ、お迎えが来るかしらねぇ。
 お迎え? だなんて、仰々しいわねぇ。誰も、迎えてはくれないのだから。ただ、死んで、朽ちるだけ。

 その後は、何にもない、無に、なるだけ。

 ひとり 私は ひとり

 そう 私は ひとり

 晩酌をしながら、そのときを、待っている。

 その想いたちを眺めながら、ただ、そのときを。

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ふみ
いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。