風景描写 その5 〜落ち葉〜
そのときーー
はじめ、それが何かはわからなかった。
わからないまま、恐怖心だけが先行し、反射的に回避の行動をとっている。
死の間際、世界にゆっくりとした時間が流れ、生存への道を探ろうとすることは本当にありうるのだと思う。それは集中力の凝縮がときの流れを、というよりは意識を、認識を、その密度を変えるのであろう。
回避行動をとりながら、私が見たものは黒い物体のように感じられた。それこそ爆弾でも投下されたような。
しかし、それが誤りであることは、ゆるやかな世界が教えてくれた。
それはーー
落ち葉であった。
それも、大きな落ち葉だ。
物体の大きさに似合わず、あまりにのろりと落ちていっては少しばかり浮き、再び落ちるーーそんなのんきな落ち葉であった。
私は思わず自転車を止めて、改めてそれを見る。
それは、紛れもなく落ち葉であった。
振り向いた後でも、浮力が落ちるのを許さないらしい。再び ふわっ と浮き上がっては、また ひらり 落ちていく。
先ほど感じた恐怖心は、衝撃にとって代わり、美しい、に変換されるのに時間はかからなかった。
少しの間、それを眺めていたが、落ち葉が完全に落ち切る前にこの場を後にした。
そうして、私の心に残る落ち葉は永遠に宙を舞いながら、その美しい心地を映し続けていて、くれた。
いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。