見出し画像

【500円〜15万円】君にオススメしたい万年筆紹介



①はじめに

 こんばんは。ボクは全国万年筆普及委員会の会員番号3329番のナルコスカル。ミミズクだけに。もちろん、そんな委員会は存在しない。

 ほぼ私事だけど、ボクは万年筆が大好きだ。滑らかな水性インクの書き心地、趣味性の高いペン先やボディー形状やカラー、スタブ(カリグラフィー用)や軟調などの一般的なペンでは味わう事が難しい筆致。その魅力は語り出すとキリがない。

 今回は君に、価格別にカテゴリー分けしたボクのオススメ万年筆を紹介したいと思う。インプレとアフィリエイト目当てに使い古された文章を羅列させた中身のない紹介記事と異なり、今回紹介する全ての万年筆は、ボクが実際に自費で購入し、実際に使用したものだけだ。つまり、ユーザーとしてどこにも忖度する必要はないし、「生の言葉」を君に届ける事ができる。

これらはボクの愛用品。
今回はこの中やそれ以外から、特に君へオススメしたいものを選んだ。

 そして、ボクがこの記事を書いた真意は、「ひとりでも多くの万年筆ユーザーを増やしたい」、「ボクが大好きなものを、君にも好きになってほしい」だ。文具への興味が薄いがこの記事を読んでいる君の為に説明すると、一般的に高級筆記具のイメージがある万年筆は、実は数百円で購入できるモデルもある。なので、君の金銭事情に負担をかけず君の関心を引くモデルがこの記事で見つかると思う。

 一応明言しておくが、この記事で書いている各万年筆の定価や実売価格は、この記事を執筆している2025年2月のものだ。万年筆は昨今の金属価格・金価格高騰などの影響をダイレクトに受けている製品なので、今後値上がりする可能性がある。気になるものは安いうちに買っておこう。物好きミミズクからの助言だ。

②2,000円以下のオススメモデル

プラチナ万年筆・プレピー

 先ほど例に挙げた「数百円の万年筆」がこれだ。日本三大万年筆メーカーの一つである「プラチナ万年筆」の「プレピー」は、税込定価550円(税別500円)という驚くべき低価格万年筆だ。幸楽苑の中華そばや吉野家の牛丼並盛と価格的にさほど変わらず、その気になれば小学生のお小遣いでも買えるだろう。

 ボディーは一般的なボールペンと同様に、透明な樹脂で作られている。また、(別売りのインク吸入兼インクタンクパーツであるコンバーターを加味しなければ)金属パーツはペン先と内部キャップのスプリングのみで、正直に言えば見た目のチープさは否定できない。

 だけど、回っていない高級握り寿司を幸楽苑や吉野家に求める者がいないように、それはプレピーの領分じゃない。プレピーの価値は「低価格である事」と、「この価格で製品精度に定評がある日本メーカー産の万年筆である事」だ。

 あくまで低価格帯の汎用品だが、プレピーのニブ(ニブ=ペン先)はプラチナの自社製だ。これは万年筆ファンから、「価格に対する書き味の良さというコストパフォーマンス」の観点から高い評価を受けている。具体的なモデル名は出さないが、海外製万年筆でプレピーよりも書き味が劣るものをボクはいくつか握った事がある。

 それから、税込550円という低価格だけど、コンバーターの装着可能であり内部キャップの搭載しているなど、万年筆の基本的な機能を備えている。加えて、プラチナのフラグシップ的万年筆である「#3776センチュリー」と同様に、プレピーのインクフロー(ペン先からのインク流出量)は控えめだ。勉学やビジネス、あるいは手帳用にしても重宝するはずだ。

 総評として、ビギナーのスタート地点としても、万年筆ファンがペンスタンドに複数立てておくにしても、プレピーはそれらに打ってつけだろう。

セーラー万年筆・ハイエースネオクリアカリグラフィー

 次もまた日本三大万年筆メーカーの一つである「セーラー万年筆」から一本、同社の低価格万年筆である「ハイエースネオ」の姉妹モデル、スタブニブを搭載した「ハイエースネオクリアカリグラフィー」だ。

 カリグラフィーは西洋における書道のようなものであり、漢字圏のそれと同様に文字を美しく見せる為の手法だ。本格的なカリグラフィー用ペンは毛筆やGペンなどと同じくいわゆる付けペンだが、ハイエースカリグラフィーは万年筆として利便性に長ける。しかも、税込定価1,870円とそれほど高価ではない。

 特徴的な横長のスタブニブはもちろんの事、金属製キャップなのである程度の高級感があり、コンバーターにも対応している。特殊な字幅のニブだけど、基本はしっかり押さえているモデルだ。

 ボクはこの万年筆にシマーリング(ラメ入り)インクを吸入して使用している。(メーカーが想定していない使用方法なのであくまで自己責任だが、)ハイエースカリグラフィーは分解が比較的容易で洗浄性が高い。この値段なら、故障したりパーツを紛失したとしてもさほど痛手ではないだろう。むしろ、ラメ詰まりを気にせずシマーリングインクを使えるメリットが大きい。

 このペンに限らず、スタブニブは横長のニブが最大の特徴だ。それは実際の筆致において、線幅に抑揚をつける。誰かの手紙やメッセージ、あるいは手帳作りの装飾用などに、ハイエースネオクリアカリグラフィーは君にとっての「得物」になるはずだ。

このように、筆致の線幅に太細が出やすい。

 この価格帯のスタブニブには、往々にしてペンポイント(耐摩耗性と書き味向上の為にペン先先端部に溶着される高硬度合金)が存在しない。その為、ハイエースカリグラフィーの書き味は一般的な万年筆と比べてかなりカリカリしている。しかし、2,000円以下という観点で考えたら十分に及第点だろう。

③5,000円前後のオススメモデル

ラミー・サファリ

 君が万年筆ファンなら、この名前を見た瞬間に「やはりサファリか」と思ったはずだ。三菱鉛筆の買収が記憶に新しいドイツの文具ブランド「ラミー」の廉価帯万年筆である「サファリ」は、オススメ万年筆を語る上で避けては通れない。

 サファリは元々、本国の小学生向けに作られた万年筆で、良い意味でカジュアルな外装と、ヘビーユースにも耐えられる丈夫さが魅力だ。また、姉妹モデルとしてアルミ製ボディーの「アルスター」が存在する。

これらはどちらもニブが黒色の加工がされているが、銀色のペン先も存在する。

 サファリの書き味は凡庸だ。だけど言い換えると、「クセがない」と表現できる。この価格帯なら、十分に優等生と言えるだろう。また、この価格帯の製品は職人の手仕事的な要素がほぼ皆無だが、ラミーは(一部モデル以外の)自社工場による一貫製造にこだわっている。それはサファリも同様だ。

 実売価格はカラーによって異なるが、およそ2,500〜6,600円(定価)ほど。出自が学生用なだけあって、ドイツ製万年筆の中ではかなりの低価格だ。サファリはラミーにとって主力製品の一つであり、限定カラー・モデルが多数存在する。(メーカーが想定していない使い方なのであくまで自己責任だが、)このように個体間でパーツを交換してオリジナルカラーパターンカスタムも楽しめる。

実を言うと、この記事を書く為にサファリを二本買った。
一部の万年筆好きの間では、「サファリはノーカン」という言葉が横行している。
「サファリは何本あっても困らない。困るほどの金額ではない」という意味だ。

 最近では、アジア圏に向けて作られた「漢字ニブ」や、待望の14Kペン先モデルも存在する。君がビギナーであっても、あるいは「万年筆沼にズブズブ状態」でも、サファリはその本領を発揮し続けるだろう。

 君が万年筆ビギナーなら、「14K」という表記に違和感を持ったはず。一般的に「K18」といったようにゴールドのカラットは頭につけるが、万年筆のペン先では「18K」と後づけが慣行だ。一部の海外製ではKではなく「C」表記を用いている。(読みは「ケー」と「シー」で異なるが、どちらもカラットを意味している)

閑話①「オススメインク紹介」

 箸休めとして、万年筆インクについて少しだけ語ろうと思う。

 万年筆を使うにあたって、万年筆インクは不可欠だ。インクがない万年筆は、ガソリンが切れたバイクのようなもの。もっと身も蓋もない表現をするなら、ただのコレクションだ。万年筆はインクがあって実用品たり得る。

 ボクのオススメインクは、一流文具ブランドとして名高い「ペリカン」の高級インクシリーズである「エーデルシュタイン」だ。昨今の物価高騰を受けて、現在の定番品は税込定価3,190円になったが、それでも他海外ブランドの高級インクと比べると低価格寄りだ。それに加えて、大手ブランドの製品なので入手難度が低く、もしも取り扱いがなくても一般的な文具店であれば取り寄せが可能だろう。

黒キャップが定番品、銀キャップが限定品、金キャップがシマーリング限定品だ。
エーデルシュタインの中でボクが最もオススメしたいのが、定番品の「ジェード」。
その名の通り、翡翠を模した色味が美しく、筆致の濃淡を楽しみやすい。

 インク色味の美麗さやボトルのデザインの良さは当たり前として、ボクがエーデルシュタインをオススメしたい一番の理由は、「クセの少なさ」だ。エーデルシュタインは一般的な水道水を用いた万年筆洗浄で容易に洗い流せるインクだ。某P社の大人気インクリーズは、一度インクを吸入しただけでペン芯などの樹脂パーツがインク色に染まり始める。

 もっとも、エーデルシュタイン間で万年筆への吸わせ替えを行なったら、インク汚れが万年筆のインクタンク内に固着する現象が発生した事がある。一般的な万年筆洗浄液で除去できたが、エーデルシュタインに限らず、インク替えは慎重に行なうべきだ。

 それに加えて、エーデルシュタインは全体的に粘度が高すぎず低すぎもしない(※)。それゆえに、ペリカン以外の他社万年筆へ吸入させても、フローなどに悪影響を及ぼしにくい。それから、pHに関しても極端な酸性やアルカリ性に振り切っていない(※)。ボクはエーデルシュタインを、一種の駆け込み寺だと思っている。「このインクを吸わせても書き味の不調が直らないなら、調整か修理しかない」という考え方だ。

※参考文献:「趣味の文具箱」47号、51号

④15,000円以下のオススメモデル

セーラー万年筆・プロフェッショナルギアスリム

 ここからついに金ニブの登場だ。クルマで例えると、ターボ(過給機)によるトルク(加速力)が効いてきた状態。楽しく続けていこう。

「プロフェッショナルギア」シリーズは、「プロフィット」シリーズと並ぶセーラーの金ペンモデルだ。プロギアシリーズの中でも「プロフェッショナルギアスリム」は、携行性に優れる小柄のボディーが特徴的だ。

カラーは、「スケルトングリーン」と「ラムネブルー」。どちらも限定品だ。

 セーラーの金ニブといえば、特に海外で高い人気を誇る、書き味とステータスを両立した21Kペン先が有名だが、シリーズの中でも低価格帯としてプロギアスリムのニブは14Kだ。21Kペン先に比べて、14Kペン先は少し硬い。しかし、ビギナーやビギナー寄りの者にとって、ある程度の筆圧を受け止めてくれる頼もしいニブだろう。

このペン先は現行より一つ前の旧モデルだ。この時代は金色では24Kゴールドメッキ、銀色はロジウムメッキを施されている。

 国内三社のおおまかな傾向として、プラチナはインクフローが控えめで、パイロットは潤沢。セーラーはその中間点ほどだ。ボクとしてはプロギアスリムのオススメ字幅は極細字(EF)だ。プラチナよりも線幅が太いが、万年筆らしい滑らかな書き心地が残っている。手帳への記入も悪くない。

これがプロギアスリムEFの筆致。

 プラチナのセンチュリーを選外にしたのは、「個体差が大きいから」だ。ボクはセンチュリーのEFと超極細字(UEF)を同時に愛用していた時期があるが、前者の方が実際の線幅が細かった。

 それから、あくまで自己責任になるが、ハイエースネオクリアカリグラフィーと同様に、プロギアスリムの首軸はある程度簡単に分解できるので洗浄性が高い。

 定番品の実売価格は税込12,000円前後。プロギアスリムは限定品のベースになる事が多く、中古市場で多く見かけるモデルの一つだ。君の好みに合う一本がきっと見つかるだろう。

ツイスビー・ダイヤモンド580

このカラーは、三越伊勢丹限定の「イセタンブルー」。
ボクはそのオンラインショップで買った。

「ダイヤモンド580」は、台湾の文具ブランドである「ツイスビー」のフラグシップモデルだ。ボクが万年筆に興味を持ち始めたほぼ同時期に、ツイスビー製品が日本で本格的に展開され始めた。今でも台湾ブランドの第一線に立ち続けている事実が、ツイスビー製品が評価されているなによりの証拠だろう。

 基本モデルである「エコ」と同様に、ダイヤモンド580のインク吸入方法は、本体に取り付けられたピストン機構でボディー内部そのものに吸い上げる、「ピストン吸入式」だ。ピストン式はコンバーター(両用)式と比べて洗浄性や整備性が劣るが、大容量のインクタンクはヘビーユース向きだ。吸入頻度が高くないので、職場などに常備しておくのにも適しているだろう。

「ピストン式は洗浄性や整備性が高くない」と書いたが、ツイスビーの万年筆には分解用の専用工具が付属する。つまり、ツイスビーでは「ユーザーがバラして洗う」が正常な使用方法だ。(一般的な万年筆では機構の分解は自己責任であり、保証の対象外になる)

 前述の通り、ダイヤモンド580はツイスビーのフラグシップで、エコよりもボディーに装飾が施されている。その最たるものが、ダイヤモンドという名の由来になったボディーのカット加工だ。ダイヤモンドシリーズのベーシックモデルである580の定価は税込13,200円。この価格帯でこの加工は珍しい。欧州ブランドでは叶わないものだろう。

 フラグシップモデルであるが、ダイヤモンド580のペン先は鉄ニブ(スチール系合金)だ。一次ソースは見つけられなかったがネット上の情報によると、ドイツのペン先メーカーであるJowo社のものをベースにしているらしい。他社製ニブであるが、ダイヤモンド580の書き味は決して悪くない。むしろ、この価格なら十分に及第点と言える。

 総評として、ビギナーの一本目としても、脱ビギナーのステップアップ先としても、重度の万年筆ファンの「脇差」としても、ダイヤモンド580は申し分ない。

⑤30,000円前後のオススメモデル

シェーファー・レガシーヘリテージ

 本当は、ボクは廃番品をオススメしたくない。入手も維持も茨の道だからだ。ボクはかつて90年代製であり00年代にはカタログ落ちしたバイクに乗っていたが、予備のネジを買うにも新品ではなく分解された中古車からパーツ取りされてオークションサイトに出品されたネジセットを購入していた。しかし、このペンはその信条を破ってでも君に知ってほしい。

 まあ、そのバイクはサンハンという謎排気量のマイナー車だった事もあるが。とはいえ、リアサスはあの傑作車であるVガンと共通で、前輪足回りもVガンのものを流用できる。

 話を戻そう。「シェーファー」はかつてアメリカ万年筆黄金時代を築いたブランドで、「レガシーヘリテージ」はその象徴であるインレイニブ(首軸にペン先をはめ込んで一体化したペン先)を継承したモデルだ。

ブランドの象徴に相応しい18Kニブ。

 一目見ただけで特徴的と分かるニブ形状は、書き味そのものも独特だ。硬さの中に少し筆圧をかけると妙な弾力があるこの感触は、一般的なオープンニブでは味わえないものだ。ペン先が首軸と一体化しているので、握り心地はボールペンに近い。

銃弾に似た専用コンバーターにゴムが内蔵されている。

 それから、これは「タッチダウン式」という、ゴムの負圧を利用して内部機構を一回上下させるだけでインクを吸入できる方式を採用している。タッチダウンという命名に、アメリカブランドらしさを感じる。

 一般的にタッチダウンとは、アメフトにおける得点方法の一つ。

モンブランの星印やパーカーの矢羽のように、ホワイトドットはシェーファーの象徴。
キャップリングではなくクリップ側面にブランド名を刻印している事に、ボクとしては「粋」を感じる。

 現在の中古市場取引相場は30,000円前後。インド企業がブランドを受け継いだ現在でもシェーファーの名は残っているが、ボクが考えるにインレイニブ新規製造の望みは薄いだろう。シェーファーにかつてほどの知名度はなく、万年筆が必需品ではなく嗜好品である現在では。

 程度が良い中古品が出回っているうちに、君には一度でいいからシェーファーのインレイニブを握ってほしい。それから、レガシーヘリテージについては、こちらで詳しく紹介している。この記事も君に読んでもらえたら嬉しい。

⑥50,000円以下のオススメモデル

パイロット・カスタム823(フォルカンニブ)

君には関係ない事だけど、パイロットの水玉クリップは写り込みを避けながらの撮影が難しい。
この写真は、リモートカードゲーム用として使っているスマホ向けフレキシブルスタンドを転用した。

 ついに国内三大メーカーで最も規模が大きい、「パイロット」の登場だ。最初に断言すると、ボクは「カスタム823・フォルカンニブ」を、「実用万年筆の最適解」だと思っている。もしもボクが「最初の一本」にこの万年筆を選んでいたら、何本ものペンを愛用するほどの「沼」にハマらなかっただろう。

 カスタム823はパイロットのフラグシップ万年筆である「カスタム」シリーズの中価格帯で、最大の特徴は「プランジャー式吸入」だ。軸内部のロッドを上下させ負圧を利用してインクを吸い上げるこの機構は、一般的なコンバーター式やピストン吸入式よりも多くのインクを軸内部に溜め込む事ができる。吸入頻度が比較的少ないから、ヘビーユースに打ってつけだ。

大容量タンクは構造上、気温の変化に弱い。
タンク内の空気が膨張して、ニブからインク漏れする場合があるからだ。
プランジャー式では内部ロッド先端が中栓になっていて、筆記時には尾栓(ボディー後端つまみ)を数ミリほど緩める。

 また、定番品のカスタム823におけるラインナップにフォルカンニブ(超軟調ペン先)は存在しないが、これは純正でそれを搭載している。「アサヒヤ紙文具店」という店舗でのみ購入する事が可能で、もちろんボクはそのオンラインショップで購入した。

ペン先に余計な剛性(硬さ)を与えない為、フォルカンニブの刻印は最低限に抑えられている。

 この万年筆に搭載されている「パイロット15号フォルカンニブ」は本当に素晴らしい。字幅の変化を楽しむ遊び方は控えめだが、軽快かつ芯のある書き心地は数ある自社製金ニブの中でも特に実用的だ。頭で考えた文章をペンで紙に書き起こすのではなく、ペンが次に書く文章を導き出すと錯覚するほどに。それから、カスタム823は大容量インクタンクなので自重があり、筆圧をあまり必要としない。ロングライティング派なら、リラックスしながら筆を握り続ける事ができるだろう。

 ボクが購入した頃は税込33,000円だったが、価格改定によりカスタム823の現在の定価は税込49,500円になっている。しかし、君が本当の意味での「一生モノ」を探しているなら、この万年筆はその価値を十分に秘めているだろう。

閑話②「オススメノート紹介」

 もう一度箸休めとして、今度はノートについて少し語ろうと思う。

 万年筆のような筆記具にとって、「紙モノ」との関係は切っても切れない。高い金額を投じてカスタムしたクルマやバイクは、サーキットで走行する事によって存分に性能を発揮できる。(ラリー等以外の)公道レースはフィクションの中だけだ。現実でそれをやるなど言語道断。

 話がまた逸れた。文具に戻ろう。

  君がノートに特別なこだわりを持っていないなら、オススメしたいのは大手文具メーカーである「コクヨ」の、「ソフトリングノート」だ。サイズやページ枚数によるが、価格は300〜1000円ほど。糸綴じ高品質筆記用紙ノートと比べると、それほど高価なものではない。

 ソフトリングノートの強みは、圧倒的なコスパの良さと入手難度の低さだ。このノートに綴じられている「上質紙」は、一般的な万年筆のインクフローに耐えられるほど裏抜けしない。そして、この品質のノートが普通の文具店であれば間違いなく取り扱いがある。品揃えが良いスーパーなどでも見かける事ができるだろう。

筆記に使用したペンは、「ペリカン・スーべレーンM800(中字)」。

 万年筆ファンには周知の事実だが、万年筆の書き味は何に筆記するかで大きく左右される。ソフトリングノートの品質や機能は、これ以降のノート選びの基準になるはずだ。もしも君の好みと合わなかったとしても、外食一回分程度の痛手で済む。海外製金ペンのような数万円クラスと比べたら、軽い気持ちで試せる価格だ。

⑦150,000円以下のオススメモデル

 ⑥から一気に値段が10万円も跳ね上がってしまったが、それには理由がある。一般的に実売価格100,000円以下のオススメモデルとしてよく挙げられる万年筆が、定番品の実売価格が80,000円前後であり日本で絶大な人気を誇る「ペリカン・スーべレーンM800」だ。一流筆記具ブランドのフラグシップモデルであり、多くの万年筆ファンが愛読している文具専門誌である「趣味の文具箱」の人気投票では不動の地位にランクインしている。もちろん、万年筆が大好きなボクのペンケースにも一本だけだが存在している。

 だけど、ボクの正直な感想としては、M800はあまりオススメできない。これまで自社製金ニブ万年筆の中字(M)〜極太字(BB)を多く触ってきたが、ボクが最も首を傾げてしまったのはM800のMニブだった。だからこそ、この記事では選外とした。ちょっと想像してみてほしい。ミミズクであるボクが首を傾げる姿を。とてもチャーミングだと思う。

 ボクとしては、ペリカンの万年筆は鉄ニブの中価格帯モデルである「クラシックM200」の方が好みだ。ボクはこれまでM200の細字(F)、中字、太字(B)を使った事があるが、どれもミドルクラスとして申し分ない書き味だった。

これは「M205アパタイト」。
スーべレーンと同じく、末尾0は金属パーツが金色、5が銀色だ。
色の違いだけで基本的なスペックは変わらない。

 それから、同じく定番品実売価格80,000円前後に、ペリカンと同じく大手ブランドとして名高い「パーカー」のフラグシップである「デュオフォールド」が存在する。しかし、デュオフォールドはM800よりも明確に書き味のクセがあり、好みが分かれる。ボクとしては肯定的だが、オススメ万年筆紹介記事としては選外とした。

 少し話が逸れたが、続けていこう。

パイロット・カスタムURUSHI

 デカァァァァァいッ説明不要! ……では、この記事が成り立たないので、これからしっかり説明していく。

 カスタム823に続いて再び「パイロット」のカスタムシリーズ、今回はシリーズ最上位モデル(の一つである)「カスタムURUSHI」だ。漆塗りの超大型ボディーと「パイロット30号ペン先」という超大型ニブが特に目を引く。つまり全体的に存在感がある。

左から、(パイロット)5号ニブ、15号ニブ、30号ニブ。

 ボディーカラーや字幅にもよるが、実売価格は120,000円〜税込定価165,000円(税抜150,000円)ほど。ペンそのものも大きければ金額も大きい。こういう時にヒトは、「クソデカ」という言葉を使うとネットで知った。しかし、ボクはURUSHIにはその価値があると感じている。

 漆塗りボディーや18K大型ニブもさることながら、カスタムURUSHIの最も優れている点はその書き味だ。紙へのタッチが柔らかく、ほどよくスリット(ペン先に入れられた切り込み)が開く軟調仕様だ。URUSHIは吸入式よりも軽量であるコンバーター両用式なのも相まって、とても軽快な書き心地だ。

 823・フォルカンニブと同様に、軟調ニブはビギナーが使いこなすには少し難しいペン先だが、URUSHIもまた世界的メーカーであるパイロットの矜持が感じられる名筆だろう。

 余談だけど、パイロットは多くの他メーカーと異なり、ペン先先端に溶着させるイリドスミン球(イリジウムやオスミウムを主とした高硬度合金)まで自社製造を貫いている。

 詳細はこの記事で一度語っている。これも参考にしてくれたら嬉しい。それから、URUSHIのようなフラグシップ最上位帯でも、日本メーカーなら意外と(日本の)中古市場で取引されている。ボクがそうであったように、程度の良いユーズドペンを探してみるのも一興だろう。

アウロラ・オチェアーノパシフィコ

 この記事で最後を飾るのはイタリアブランドである「アウロラ」の限定万年筆、海洋をテーマにした「オチェアーノ」シリーズの一本、「オチェアーノパシフィコ」だ。その名は日本語に訳すると「太平洋」。豊かで穏やかな大海を青緑色のボディーカラーで表現している。これはほぼ自慢だけど、実物は何度だって惚れ直すほど美しい。

 パシフィコ、延いてはオチェアーノシリーズは、いわゆる「アウロラ・946型」に属する。限定万年筆のベースとして選ばれる事が多いモデルだ。シリーズによって若干仕様が異なるが、オチェアーノシリーズでは天冠(キャップ上部)とキャップリング、ボディー本体尻軸リングに波模様が描かれたシルバー製のものが採用された。ゴールドやプラチナに劣るとはいえ、本物の貴金属だ。

とある筋から聞いた話によると、このシルバーパーツはイタリアの職人による彫金らしい。
よく見ると、左右で形が若干異なる部分がある。
それからボクは、「シルバーのくすみはシルバーにしか出せない」として磨かない派だ。

 また、アウロラの高価格帯定番品では14Kニブだが、限定品では18Kが搭載される。パシフィコももちろん18Kペン先だ。もっとも、アウロラのペン先は自社製造系の中でも特にしなりを感じられない、いわゆる「ガチニブ」に分類される。

この筆致は、日本では珍しいアウロラの太字。

 具体的な重量を測った事はないが、金属パーツを多用している946型はそれなりの自重を誇る。こう書くとただのステータス性だけを重視した半宝飾モデルに感じるかもしれないが、アウロラのガチニブと946型の相性は意外と良い。例えば軟調ニブでは筆記へ完全に集中するのを忌避してしまうが、この硬さのニブなら多少の筆圧は十分に受け止める。

 パシフィコはオチェアーノシリーズの中で一二を争う人気を博し、新品はおそらく完売している。中古市場の相場は120,000円前後だ。君が「心から美しいと思える万年筆がほしい」という願望を持った時、パシフィコをはじめとしたアウロラ・946型は最良の選択肢の一つになるだろう。

⑧おわりに

 ここまで読んでくれて本当にありがとう。ボクには長文癖があるから、ボクの拙作を読んでくれる読者には感謝の念が絶えない。

 合計で9モデルの万年筆を紹介したが、君は気になるペンを見つける事ができただろうか? もしそうなら、物書き冥利に尽きる。逆にそうでないなら、気が向いた時にネット検索をしたり実店舗へ赴く事をオススメする。きっと、君の好みに合う万年筆が待っているだろう。

 クルマやバイクと異なり、万年筆には免許などない。好きな時に始められるし、誤った使い方や誰かに迷惑がかかる行為以外の不正解は存在しない。廉価帯から万年筆趣味を始めても誰も否定せず、海外製フラグシップ万年筆からスタートするユーザーもいる。

 今夜はここまでにしておく。ボクの翼がそれを望んだ時に、また君のもとに戻ってこようと思う。

いいなと思ったら応援しよう!