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【関心領域】に見る《アートリテラシー》と...

《関心領域|THE ZONE OF INTEREST》
・映画『関心領域』鑑賞(監督:ジョナサン・グレイザー(英))
・小説『関心領域』読了(原作:マーティン・エイミス(英))
・とにかくいま観るべき一作

主人公であるナチス親衛隊中佐でアウシュビッツ強制収容所のヘス所長の次男が太鼓を叩くシーンはギュンター・グラスの小説であり映画『ブリキの太鼓』へのオマージュではないか...など、英国希代の美術評論家ジョン・バージャーが語る《Way of Seeing》ともいえるようなアートリテラシーをモリモリ盛り込んでくるあたり...最初から最後までもう目が離せない。だから本作の随所に登場するヒト・コト・モノには全てに意味があり色んな事象と現象がつまってて一分の隙もなく見事としかいいようがない。かといって最近ありがちなベタな伏線回収に終始していない点も小気味いい...映画《関心領域》は決して直接的ではないけれど饒舌な作品だ。

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実際の映画作品は小説とは全く異なるストーリー展開と登場人物で構成されている。今月6/8に国分寺のバーでパフォーマンスイベント(今回は極めて個人的な興味関心を扱うパフォーマンスをしたかったので敢えて自分から告知することは行いませんでした...)で自分が朗読した小説《関心領域》に登場するとあるシーン《足の装具を奪われた挙句、「サンドイッチと温かいスープが別室に用意されているから...」と幼なじみの父親(強制収容所施設内で同胞の死体処理を請け負わざるを得ないユダヤ人)の手でガス室へと送られる少年の描写》は映画では描かれてはいないもののラストの僅かなシークエンスでそれら以上を物語る過去現在を行き交う映像プロットは圧巻でもう言葉が出ない。涙しかなかった...

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今年3月にアカデミー賞授賞式の映像でJonathan Glazer監督の激アツスピーチ映画をみて以降、実はずっとこの《関心領域》のことばかりを考えている。アメリカの栄えある舞台で誰もガザに対する発言はおろか著名人がパレスチナへの連帯を沈黙し続けるなか、”ユダヤ人性とHolocaustの歴史性”とを踏まえつつ罪なき人々を巻き込む正当化を否定し10月7日の犠牲者であれ(現在も続く)ガザ侵攻の犠牲者であれ犠牲者は全て犠牲者であり我々はそれにどう抵抗すべきか...と、手を振るわせながら原稿を読みあげる(自らもユダヤにルーツを持つ)グレイザー監督の姿が印象的だった。

それから早3ヶ月、依然、状況は変わっていない.

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けれど無関心ではなく生きること、そして映画に登場する(囚われた人々に食糧を届けるため)強制収容所内の敷地に夜な夜な忍び込み林檎を地中に埋め続ける少女(アレクサンドラ・ビストロン・コロジエイジチェックが実在のモデル)のようにありたいと願う人々の輪はたとえ目に見えなくとも広がっているのではないだろうか...

目の前に”見えているもの”だけがすべてではないことを《関心領域|THE ZONE OF INTEREST》は小説でも映画でも見せてくれる。だから(余談だけど)ちょいホラーな装いと日本語の(ちょっと怖めの)ナレーションによる映画PRはちょい違うというか適切ではないような気がした...(何はともあれぜひ観てほしい作品です)

https://x.com/FilmUpdates/status/1766985457634521172

https://www.youtube.com/shorts/ni09hA-qjgg

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