山野楽器で、「音色で買った」買物 今日の買物#16
音楽の買物はずいぶんと変わった
音楽はずっと好きで、いろいろ聞いてきました。ロック、ポップス、クラシック、JAZZ、歌謡曲などジャンルも洋楽も邦楽も問わず好みのものがあります。最初に買ったのは中学生のときのビートルズのレコードです。1970年代の終わりころだったと思います。その後はハードロックに傾倒し、こずかいをためてレコードを買っていました。大学生になると貸しレコード屋さんが近所にあったので節約のために、買うのではなくもっぱらレンタルでした。借りたレコードをカセットテープに録音していました。そのころCDも登場していて、社会人になってからはCDを買っていました。今でも買ったCDが200枚くらいあります。その後は、iTunesでのダウンロードです。サブスクリプションの音楽配信サービスも利用しました。音楽の買い方はずいぶんと変わりました。変わる中で、音楽の買物はきっと何千回もしているでしょう。その中で、「こんな買い方をした!」という忘れられない体験がひとつだけあります。それは銀座の山野楽器で買ったCDの買物です。
山野楽器のCD売り場で出会った「音色」
銀座の山野楽器ではCDはもう販売しないようです。これだけ音楽の買物が変わったのだからCDを買う人はもうだいぶ少ないでしょう。自分もCDを買うことは、もうなくなりました。なのでこの話は、かなり前のことになります。
銀座界隈の仕事の合間に、ちょくちょく山野楽器にいくことがありました。タワーレコードや、HMVと比べてクラシックの品揃えが充実していたので、主にクラシックのCD売り場を徘徊していました。このころ楽曲を演奏家違いで買ってみて聞き比べてみるなんてことにはまっていて、隙間時間があると山野楽器のクラシックCD売り場に行っていたのです。
あるとき売り場を見て歩いていると、バイオリンの演奏音が耳に入ってきました。バッハのG線上のアリアです。お店がCDを流しているんだな、と最初は気にもとめずにいました。聞きなれた有名な曲だったので特に何も思わなかったのです。しかし、しばらくすると、「この音色なんかすごいな」と気になり始めたのです。朗々としていて、伸びやかで気持ちがよく、なんとも地味豊かな音色です。演奏者も気持ちよく弾いているようで、それがそのまま伝わってくるようでした。演奏者から3メートルの近さで聞いているような音色です。少し録音の状態が悪い感じもして、またその感じも素朴でよかったのです。
「なんだろうこのCDは?」と思い、売り場を探すと「只今演奏中」というPOPの横にCDが置いてありました。そのCDは、ジュリアン・オレフスキーという演奏家のバイオリンの小品集でした。瞬間の判断で「これは買うしかない!」と思い手に取り買ったのです。
「音色」で買った初めての体験
音色に感じ入ってCDを買ったのはこのときが初めてでした。このあともない体験です。あの日、あの時間、銀座山野楽器に行かなければこの出会いはたぶんなかったでしょう。楽曲のダウンロードやサブスクリプションのサービスでは、この買物はできないと思います。お店の人が、このCDを流してくれなかったら出会うことも買うこともなかったでしょう。お店の人はきっとクラシックの目利きだったと思います。訪れる買物客に聞いてもらいたいCDを選んで流しているはずです。偶然の出会いを作ってくれたのだと思います。オンラインでは実現できないリアルなお店ならではのことだと改めて思いました。
銀座の山野楽器はもうCDを販売しないので、こんな偶然の出会いもないでしょう。そう考えると寂しい気持ちがします。音楽こそ「音色で買う」買物であって欲しいなと思います。今、主流のサブスクリプションのサービスでこんな買物体験がいつか実現すればなぁと思います。