見出し画像

「対話」中心の教育デザインがシェアド・リーダーシップ像に繋がった学びの話

先日、アクティブ・ブック•ダイアログのイベントを開催しました。
教育視察に訪れたデンマークの教育哲学に関する本です。

書籍とABDでの対話が、人材育成や教育領域へのヒントが満載でした。

参考書籍と概要

題材となった本は『デンマークの教育を支える「声の文化」』。


デンマークの人材育成や教育の中心には、

集団や社会の中でリーダーシップを発揮していくことができる人づくりがあります。

教育思想に多大な影響を与えたのが哲学者、教育者のグルントヴィと、デンマークのオルタナティヴ教育の創始者と言われるクリステン・コルです。


一人一人の個性を前提とした人々のリーダーシップを育む教育に力を注ぎました。
後ほど触れますが、これはリーダーシップ論で言えばシェアド・リーダーシップの考え方です。

教育思想の根幹にあったのが「声の文化」。分かりやすくするため、この記事では「対話」という言葉を使っていきます。


〈簡単な書籍紹介〉

「声の文化」(対話文化)の視点からグルントヴィとコルの思想が現代の教育現場でどのように実践されているのか。
対話を中心に置いた教育の意義についてまとめられています。2000年に入ってからの教育改革の動きにも触れています。


「対話」中心の教育デザイン

私なりの解釈を整理しました。

対話を中心に、「解釈する力」、「自己を理解する力」、「表現する力」。
そして、コミュニティや社会の一員としての自己という「共同体意識」が育つ。

これらのスキルと、スキル獲得の過程の経験によって、個々のリーダーシップが醸成される

というまとめです。

「対話」が差異を創造へ転化する


教育の中で「対話」を重視するとはどういうことでしょうか。


教育は「Teaching」ではない、教育は「Meeting」である。
こんな表現がされていました。

“差異を認め受け入れていく中で、新たな創造に転化する”ことが重要。

フリレイアスコーレ(教員養成学校)の校長先生へのインタビューで、教員と子どものコミュニケーションのあり方として語られていた言葉です。


教育現場でも、先生と生徒、生徒同士が相互に学びあう関係性で、差異を前提に聴き、創り出す姿勢が重視されます。


グルントヴィの教育思想の背景には、
「唯一の正解を持っている人(評価する人間)の期待する答えを優先して発言する人が生産されてしまうこと」=民主主義の根幹にかかわるという危機意識があったからなのだそうです。

”どちらが正しいのか”といった競争的な視点ではなく、
様々な意見を材料として考え、創り出す
姿勢。

こんなことが学び取れました。

(対話が重要とは頭では理解できても、、、、苦戦する身として、小学校からこのような対話機会を持ち続けていることを尊敬します・・・。)

「対話」から全員発揮のリーダーシップへ

キーは「共同体としての意識」を育むこと


グルントヴィの思想では、個人のみを軸とした啓蒙でエゴに陥ることなくその人の周りにあるコミュニティや社会にとって良い形で還元されることを求めています。

・それぞれの発言に対して、集中して耳を傾ける
・発言内容、その背景にある思想・考えも聴くことで理解を深めること
・自分の意見との違いがあれば、分断的な姿勢ではなく「私たち」の問題とて答えを一緒に創り出すプロセスを経験する

このような対話を中心とした教育実践によって、「解釈する力」、「自己について理解する力」、「自分の意見を整理して表現する力」だけでなく、「共同体としての意識」を育むことが、教育実践の中でもポイントになっていました。

シェアド・リーダーシップへの接続


様々なリーダーシップ像がありますが、デンマーク教育思想と重なるのは、一人が正解を出し多数を率いていくようなリーダーシップではなく、シェアドリーダーシップ(※)のリーダー像です。

(※)シェアド・リーダーシップについて
リーダーシップ教育の研究をされている、立教大学准教授の舘野泰一さんの記事がわかりやすいです。「全員発揮のリーダーシップ」という言葉でも説明されています。

リーダーも答えがわからず「これまでと違うやり方を試す必要がある場合」や、「新しいものを生み出す場合」、「現場で素早い意思決定が必要な場合」、「個々のメンバーの専門性が高い仕事をする場合」については、メンバー全員がリーダーシップを発揮することが効果的です(石川 2018)。

対話の中で様々な視点や考え方に触れ、自己を知り、表現をしてきた経験によって、

・多様な視点から物事を見て考え、意味づけることができる想像力
・様々な人との関係性やコミュニティの中で
・自分から問題を見つけ、自分ができることで行動を起こしていく主体性

これらの能力を保有した個人(リーダー)が育っていくだろうと思います。

このように、現代におけるリーダーシップ開発において、デンマーク教育思想やその根幹にある「対話文化」の視点はヒントになるだろうと思います。

対話を軸としたカリキュラムの特徴

デンマークの教育現場で対話が大切にされていることを挙げてきました。
さいごに、具体的な教育内容について興味深かったものをご紹介します。

「物語」と「歴史」教育、そして「評価の軸と手法」がありました。

物語や歴史の教育は、共同体の中の一員という意識を育むことにおいて大きな役割を果たして、“歴史との繋がり、またコミュニティの中に自分をどう位置付けるのか”という視点で自分の行動を考え決めることに繋がっているように感じました。

評価においては、デンマークでは教育機関の全ての評価方法に口頭試験が実施されることが法的に義務付けられています。

義務教育終了時の資格・進学試験の査定方法は、
筆記試験、口頭試験(プレゼン)、プロジェクトベースの課題など多数の方法を使用しながら審査をしているようでした。

具体的な内容などについては別の記事でもシェアできればと思います。

ーーーーー

終わりに

“教育”において北欧が注目されることも多く、日本における教育現場へのヒントがあります。

しかし、教育現場だけでなくビジネスの人材育成においても、
育成の考え方、対話やファシリテーションのエッセンスを取り入れていくことができるものだと思います。


同じく人材育成や教育現場で人づくりに関わる方々で必要としている方へ情報がシェアできれば嬉しいです。

▽過去記事:デンマーク教育視察レポート

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?