父のレシート
住所等が記載された紙類をシュレッダーにかけていたら、父が「これも」とファイルごと渡してきた中にレシートが山のようにあった。
それは手で千切って捨てていたけれど、中に母が最期に入院していた病院の駐車場のレシートがあった。亡くなった日の分もあった。
今でもはっきり覚えている。前日から私は簡易ベッドを借りて泊まっていた。父は病院に長居したくないようで、何度も来ては帰りを繰り返していた。
昼過ぎ。看護師さんから「お父様を呼んでください」と言われて電話を掛けた。「今すぐ来て」一言で切った。どうしても母から目を離したく無かった。最後の最期まで見届けると、幼い頃から思っていたから。
病院の駐車場のレシートには、父が車で来て、家に一旦帰る迄の時間が記載されていた。2時間弱。この時間があっという間なのか、長いのかわからないけれど、私には貴重な時間だった。
母は延命治療を元気な時からしたくないと言っていたので、延命治療をしないと言う誓約書を私が書いた。なので意識が無い状態、上手く呼吸が出来なくても、着けられたのは酸素マスクと点滴。そして指先に脈拍を計る装置と定期的に作動する二の腕に嵌めた血圧計。
まるでドラマのように、モニターは一本の線になり、担当医師が目や脈を確認して「○時○分、ご臨終です。」と告げた。
私は今までに無いぐらい、泣いた。
これから霊安室に行くなら葬儀の準備や、色々と大変だろう、だから今の内に思いっ切り泣いておこう、と。
危篤状態になる少し前、意識が曖昧になった時に沢山母に感謝の言葉を告げた。「お母さん大好きよ」「お母さんありがとう」「もう一度お母さんのご飯が食べたいよ」「お母さん…」「お母さん!」
「お母さん、愛してるよ」
初めて告げた言葉。後悔しないように、思い付く限り感謝の言葉を母の耳元で告げた。それでも足りないぐらいに今も母を愛している。
こうして、父のレシートから思い出した母の最期。
「遺品整理」はなかなか難しいな…。