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読書記録|『つまらない住宅地のすべての家』津村記久子

ご近所付き合い、皆さんはあるだろうか。
これまでのわたしの人生においては、生まれ育った田舎のベッドタウンでは比較的ご近所付き合いが盛んで、家の前の通路一帯の家々にどんな人が住んでいるか知っていたし、夕方になると年の近い子供達みんなで遊んだりしていた。
大学進学を機に上京してから移住するまでの一人暮らし期間においては、ご近所付き合いは皆無だった。
それは賃貸物件だからということもあったし、やはり田舎よりも都会の方がそのような人間関係を築きづらかったのだと思う。
現在はというと、ご近所付き合いと言うほどでもないかもしれないが隣家のじいさんとは良好な関係を築いている(と我々夫婦は思っている)。
じいさんはばあさんと二人暮らしで、今年91歳になるという。
それでも歳を感じさせずにピンピンとしており、庭では家庭菜園をしたり晴れた日にはばあさんと軒先に出て何やら作業をしたりなんかしている。
じいさんからしてみれば孫のような年齢の我々のことは気にかけてくれているようで、じいさんの菜園で育った野菜や果物をよくお裾分けしてくれる。
いちじくの時期なんかは、二日に一回朝7時に大量のいちじくを持って届けに来てくれていた。
縁もゆかりもないこの土地で、こんな風に優しくしてくれる人がいると言うのはありがたい話である。

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一般的なレベルでご近所付き合いが希薄な、なんてことのない住宅地が舞台になっている本著は、そんな日常が脅かされる恐怖から物語がスタートする。
刑務所を脱獄した女性受刑者が、彼女の生まれ故郷であるこの街めがけて逃走しているというニュース。
受刑者の狙いはなんなのか。
もし近所まで来たらどうすればいいのか…・
これまでは挨拶程度で深く関わることのなかった住民たちが、事件をきっかけにお互いのことを少しずつ知り始める。

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津村さんの本はこれまでも何作か読んでいて、そのどれもに共通しているとわたしが思ってるのが、日常のささやかさな瞬間を描く巧さ。
本著でも存分にそれが感じられて、あっという間に読み終わってしまった。
また、それぞれの登場人物が持つ陰の部分にも惹き込まれた。
表面的なところだけではわからないけれど、誰だって、どの家だって何かしら問題を抱えながら生きているよね。
と改めて感じた。
だからこそ、他人をガワの部分だけではむやみやたらに判断してはいけないよなあと思う。

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本著には何人かの子どもも登場する。
その誰もが、聡明で真っ直ぐで力強く生きようとしているところも印象的だった。
純粋な魂でしか感じることの出来ないことってあるよなあ〜
けどそれを言語化して描ける大人の津村さんてすごいよな…と思わされた。
人物を描く細やかさも、津村さん作品の好きなところ。
物語の最後で、子どもたちみんながそれぞれに救いのある未来へ進んでいけそうだったのがとてもよかった。

住宅地ということで、子どもから老夫婦まで様々な年代のそれぞれに魅力的な人物が登場する。
きっと読むタイミングによって感情移入したり印象的な登場人物が変わりそう。
テンポよくサクサクと進んでいく作品なので、また数年後に読み直してみたいと思うなどした。

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余談
読んだ後に知ったが、2022年にNHKでドラマ化されていたらしい。
読みながら登場人物の山﨑さんは夏川結衣で脳内再生していたのだが、
まさかの実際のドラマでも夏川結衣が山﨑さんを演じていた。
なんという偶然というかなんというか。
機会があればドラマも見てみたい。

なお、冒頭の隣家のじいさんが、自分の75歳までの人生をまとめたノートがあるから今度見せてくれるという。
我々夫婦がかなりワクワクしているのは言うまでもない。

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