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人生のステップを踏むと見方が変わる映画③

人は生きていれば何かしらのステップを踏んでいくこと、そして、「人生のステップを踏むと見方が変わる映画」が存在することは、以下2本の記事ですでに触れているので、今回はそのことを前提として早速映画の紹介に入っていきたい。

ピースオブケイク(監督・田口トモロヲ/2015年)

多部未華子主演で、相手役を綾野剛が演じる恋愛映画だ。
しかし、所謂胸キュン恋愛映画ではない。
極めてざくっと概要を説明すると、隣人同士であり、職場も同じである梅宮志乃(多部未華子)と菅原京志郎(綾野剛)が、大人特有の感情の揺れ動きにより、くっついたり離れたりする物語だ。
多部未華子が可愛く、綾野剛もかっこいいので、そういった意味で、キュンとするシーンがないわけではない。
しかし、特に中盤からはモヤモヤする場面が続く。

高校生の時に劇場で本作を鑑賞した私は、主人公にほとんど共感ができなかった。むしろ、どっちつかずなもどかしい行動ばかりの志乃に、「何してんだ!」と突っ込んでやりたくなった。あの時は苛立ちさえ覚えたかもしれない。
ところが、今目の前に、当時の私が現れたらば「お子ちゃまね」と声を掛けるだろう。
そう。本作は、仕事も恋愛も人間関係も様々経験し、人生は一筋縄でいかないということを理解すると、見方が変わる映画なのである。

<なんだか煮え切らないことばっかり言って!意見コロコロ変えるの違くない?多部未華子、可愛いのに変な役やらされてるなぁ。綾野剛チャラ〜い>

上記の感想が、時を経て、以下のように変わった。

<うわぁ~わかる!共感しすぎて胸が締め付けられる。ついつい、あの人やあの人を思い出すなぁ…。>

但し、当時の自分にお子ちゃまね、と揶揄するような声掛けをすると言ったが、
”ピースオブケイクを解る大人”になったことが、良いことであるかはまた別だ。
このことは、書き添えておきたい。それだけ、核心に迫るような描写があるということだ。

原作は「恋文日和」「溺れるナイフ」など、完全な言語化が難しい、人の気持ちの揺れ動きを丁寧に扱う女性漫画家・ジョージ朝倉なだけあり、「ピースオブケイク」の人の気持ちの切り取り方も流石であった。
しかし、それを男性である田口トモロヲが、監督として小さな描写も汲み取って映像化できていることには驚いた。
本作は、ずっと志乃の視点で物語が進行する。つまり、女性ならではの恋愛における視点、感情の変化が随所に見られるのだ。「田口トモロヲは女性の気持ちが分かりすぎていないか!?」となんだか名バイブレイヤー・田口トモロヲの見方が変わる。

ネタバレをすると、鑑賞時の共感度が低くなってしまいそうなので、具体的な中身については触れないようにするが、ともあれ、それだけ大人の女性の恋愛の難しさが正面から表現されているのである。
そして、この映画に共感できるか否かで、その人が今までしてきた恋愛が如何なるものであったかが、少し汲み取れそうだ。
1人でしんみり観るも良し、友人と話しながら観るも良しな映画である。

そして、本作のターゲットはおそらく、大人女性だけではない。
志乃のキャラクターは少し大袈裟に表現されている部分があるものの、傷つくことがいつの間にか怖くなった大人の女性の恋愛が、分かりやすく映像化されている。
その共感度の高さから女性人気の高い作品だが、「女性の気持ちが分からない!」と嘆いている男性にこそ観てほしい映画でもある。
無論、女性に限らず、人の気持ちにこれという決まった形はないし、志乃が女性の代表で、本作を観たら女性の気持ちがよく分かる!ということも全くない。
それでも少なくとも、何を考えているのかさっぱり・・・。という方には、ためになるかもしれない。

上記で断った通り、本作に共感する大人になったことが、果たして良いことであるかは、分からない。いや、むしろあまり共感できないでいる方が、幸せかもしれない。
それでも、志乃の等身大の姿を観ることで、何故か少し、これまでの自分が報われたような気持ちにもなった。
そして、少し、背中を押されたような気もした。
「傷つくことは怖いけど、大丈夫。多分、なんとかなる」と。


1997年生まれ、丑年。
幼少期から、様々な本や映像作品に浸りながら生活する。
愛読歴は小学生の時に図書館で出会った『シートン動物記』から始まる。
映画・ドラマ愛は、いつ始まったかも定かでないほど、Babyの時から親しむ。
昔から、バラエティ番組からCMに至るまで、
"画面の中で動くもの"全般に異様な興味があった。
MBTIはENFP-T。不思議なまでに、何度やっても結果は同じである。
コミュニケーションが好きで、明朗快活な性格であるが、
文章を書こうとすると何故か、Tの部分が如何なく滲み出た、暗い調子になる。(明るい文章もお任せあれ!)

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