見出し画像

不倫ドラマは確立されたジャンルだ! 狂気の伝染ドラマ「夫の家庭を壊すまで」

7月から先日まで、テレビ東京で放送されていたドラマ「夫の家庭を壊すまで」を全て観終えたので、感想を書いてみる。
ネタバレあり。

不倫ドラマという名の確立されたジャンル

不倫ドラマは、いつの時代も人気が高い。
もはや、医療ドラマ、刑事ドラマなど、不動の人気を誇るジャンルと、肩を並べるレベルであると思う。
不倫ドラマは恋愛ドラマのジャンルに属するのでは?との声が聞こえてきそうだ。
いや、私は不倫ドラマは〈不倫ドラマ〉という確立されたジャンルになったと思っている。確かに登場人物たちは一応恋愛をしているわけだが、不倫する側、される側の起こす行動が、恋愛ドラマの域を越えまくっているのだ。
そしてそもそも、ひと組の夫婦がいる以上、そのうえでの恋愛は成り立たないので、恋愛ドラマとして成立していないという倫理的側面から見た解釈もできる。

「あなたのことはそれほど」「ホリデイラブ」「奪い愛、冬」「泥濘の食卓」・・・名作というより迷作が多い不倫ドラマ。このジャンルに、新たな作品が加わった。それが、「夫の家庭を壊すまで」である。

ドラマの概要と、やはり怪演の松本まりか

本作の概要は以下。

“夫がもう1つの家庭を持っていた” 夫は15年にも渡り不倫をしていたのだ。学生からの純愛を貫き結婚、子供にも恵まれ幸せな家族だと思っていた…。離婚だけでは絶対に許せない。夫と不倫女への復讐を決意するサレ妻。復讐計画として、不倫女の息子を利用することに。そして長年に渡る不倫計画がじわじわと暴かれ始める。愛と裏切りの四角関係、それぞれの未来に待つ新たな人生とは…?痛快無比なサレ妻のリベンジが今始まる!

夫の家庭を壊すまで

主演は松本まりか。その夫に、竹財輝之助。
美男美女で、幼い一人息子にも恵まれ、愛し合いながら暮らしている。
まさに幸せの象徴のような家族であった。
ところが、松本まりか演じる純粋で美しい女性みのりは、ふとした瞬間から、夫・勇大の違和感に気がついていく。
そして、長きにわたる不倫に気がついたとき、松本まりかの本領が発揮される。
泣き叫びながら、怒り狂う演技が意味不明だが癖になる。
第1話にその演技を見て、これこれ!となって以降、毎話そのようなシーンを期待してしまう。これぞ不倫ドラマの醍醐味で、ドラマとして不動の人気を誇るジャンルとなった理由の一つと言えよう。

完璧な配役

不倫されたみのりが阿鼻叫喚する姿と、息子や帰宅した夫に見せるいつもと変わらない穏やかな姿のギャップ。演技の振り幅がすごい松本まりかは去ることながら、
本作はそのほかの配役もベストであったと思う。
イケメンなのになぜか、いや、だからこそ?クズな役が多い竹財輝之助。今作も、見事にクズ野郎だ。しかし、胸糞悪い気分になりきらず、結局彼を嫌いになれないのは、やはり竹財の持つ“見捨てられない感”がそうさせるのだろう。
この見方は男女で意見が分かれそうだが、女性は私に共感してくれる方が多いのではなかろうか。母性をくすぐる儚げな表情、声、喋り方なのだ。

義母とみのり

そして何より本作の配役における納得感が凄まじかったのは、夫の母、つまりみのりにとっての義母にあたる役を、麻生祐未が演じたことだった。
正直最初は、役柄と俳優の存在感が噛み合わないという印象だった。
麻生祐未はご存知の通り、優しい女性から幸の薄い女性、怪しげな女性、気性の荒い狂った女性まで、見事に演じ分けることのできるカメレオン俳優だ。
今回の役柄は、姑にも優しい理想の義母だった。
しかし、たまに家に遊びに来る程度の出番の少なさなら、ほかの俳優でも十分ではないか。麻生祐未である理由が分からないと思っていた。
が、尚早な判断であったし、大きな勘違いであった。

普通では終わらない、一癖も二癖もある不倫ドラマ

※以下、ネタバレ含む
前章で触れた麻生祐未が演じる義母こそが、ストーリーの鍵を握っていたのだ。
本作は、不倫ドラマによくある「嫁に飽きてきた頃にタイミング良く年下あざと美女が現れる」「抗いたいけど抗えない!積極的な年下男子にほだされる」などの不倫のきっかけが描かれていない。何故なら、物語の開始時点で不倫を始めて既に15年が経っているという設定だからだ。

義母と勇大

そしてその不倫のきっかけをなんと、昔の義母が作っている。
義母公認の不倫というわけだ。意味不明なぶっ飛んだ設定であるから、
その義母の思考回路もやはり、ぶっ飛んでいるのだ。
冷静に開き直った態度で淡々と、自身のした行動を語ったかと思いきや、
キマった目で怒鳴り散らしたり。そのギャップがまたすごい。
そうなると、

松本まりか VS 麻生祐未

の構図になってくるのだ。
狂気VS狂気とも言い換えられる。

不倫ドラマは、復讐をしたい妻・夫か、相手を自分のものにしたい不倫相手のどちらか片方が狂うのが鉄板の展開だが、本作は両方狂う。しかも何故か義母が。
思わず、「そうか、両方狂うのもアリなのか…」と謎の納得感を得てしまった。

狂気は伝染する

見出しの通り、作中で狂うのは、妻と義母だけでない。
不倫相手・理子(野波麻帆)もおかしくなる!
途中から徐々に"息子への異常な執着"というおかしさの片鱗を見せ始めるのだが、
ついに最終回では、息子に対して電話で「もう死ぬ」と言ってビビらせるという、「死ぬ死ぬ詐欺」を働く。それぞれの関係性も考慮すると、気持ちも分からなくはないのだが、度が過ぎている。
狂った義母の企みによる不倫で、みのりが狂う。狂った女のイカれた行動に追い詰められ、理子も狂う。まさに狂気の伝染だ。
こうなると、義母によって狂わされたみのりと理子は、仲良くなれるのではないかとすら思う。

勇大と理子

怖くて面白いエンターテインメント

不倫ドラマは、やはり面白い。
不倫をする人が身近にいたら縁を切るだろうし、
もし将来私が不倫をされたら、面白いなどとは当然言えなくなるが、
それでも、やはり自分ごとと思えないうちは、不倫の起こす化学反応は異常で面白いなと思ってしまう。
不倫ドラマは怖くて面白いエンターテインメントだから、人々はそれに病みつきになり、求めるのだ。

いいなと思ったら応援しよう!