思いつき短編:自殺村
俺らが大学に通っているときの話だ。
大学が比較的大自然に囲まれているところにあり、地元の人達とも交流が多く、よく森の中のゴミ拾いのボランティアや除草作業などをやっていた。
夏休みのその日も仲間と集まってゴミ拾いや除草作業をしていた。
ある程度、時間や範囲を決めて作業をしていたのだが、いつの間にか辺りが薄暗くなって夕暮れになっていた。
森の中の夜は危険だ、野生動物が、特に熊なんかに襲われでもしたら命の保証はない。
急いで帰ろうとしたとき、その場にいた全員が青ざめる。
帰り道がわからないのだ。
文明の利器であるスマホのナビで大学へ向かおうとしたが、森の中のからどうしても抜け出せない。
狐につままれているんじゃないか、と仲間の一人が古臭いこと言う。
今どきそんなことありえないだろうとツッコミ混じりに場を和ませようとするが、そんなはずはなく、みんな黙ったままである。
「お前さん達、どうなされた…」
背後から声をかけられる。
そこには70代くらいの、老人が腰に手をやって立っていた。
「すみません、道に迷ったらしくて…」
頭に手をやり、頭皮をかきながら老人に話し返す。
「それは、お困りでしょう。どうです?良かったら明日の朝になるまで私の家でよければ泊まりませんか?」
今時、見ず知らずの若者グループを家に迎え入れてくれる老人の話しを聞いて驚いた。
「えっ…!良いんですか?」
「構いませんよ。小さな村の古民家なんですが……」
俺たちは少し考えた、6人の若者グループが老人宅にお邪魔して迷惑この上ないだろう。
だが辺りは暗闇に呑まれている状況なのでお言葉に甘えて一晩、泊まらせてもらうことにした。
単1電池を使う少し重い懐中電灯の淡い白色の明かりが道の先を照らしている。
こんな暗い夜の森は初めてだった。
あらゆる光を吸い込んでしまいそうなドロっとした暗さだ。
「あそこが私の家です」
明かりで指し示す方向に2階建ての家があった。
玄関の電灯がオレンジ色に光っている。
他にも転々とぼんやり玄関の電灯が光っているお宅がある。
「だだいまぁ〜、帰ったぞ」
ガララッとガラスの引き戸が開く音を聞いてトントントンと足軽な音が玄関まで来た。
「おじいちゃんお帰りなさい!………あら?」
背後の俺たちを見て色白のキレイな女性が首を傾げた。
「すまんな魅子、実はこの方たちが道に迷ってしまったらしくてのぅ」
あらまぁ、と口に手を当てて魅子は驚いていた。
「この子は私の孫の魅子と申します。魅子、悪いんだが一晩泊まらせてやってくれ」
「わかったおじいちゃん、今すぐ布団とか用意するね!」
再びトントントンと足音を鳴らして家の奥へ行った。
「さぁどうぞ、なにもないところですが」
玄関の中へ手の平を老人は向けた。
「すみません、あの、電話はありますか?」
「あぁ、ありますよ。どうぞ使ってください」
頭を下げて礼を言うと電話の前まで案内してくれたが、なんと昔の黒電話というものだった。
老人は驚いた俺を見ながら笑って使い方を教えてくれた。
「今時、黒電話を使っているお宅はそうありませんからな、貴重な体験ですぞ」
カッカッカッと笑う。
「じゃあ他の皆さんは2階へどうぞ!」
全員、男というのもあってか、鼻の下を伸ばしながら2階へと行った。
俺は、顧問の電話番号へかけた。
ーーーーープルルル、プルルル。
ガチャッと音と、共に聞き慣れた顧問の声がする。「お前達、何やってんだ!心配したぞ」
顧問の怒りの形相がうかがえた。
「すみません。森の整備をしていたらいつの間にか夕方になってしまってて…」
状況説明をしたと同時に、受話器の声から驚愕の事実を聞かされた。
「何いってんだ!今はまだお昼だぞ。約束の時間、忘れたのか?」
俺は混乱した。
もう一度顧問に時間を聞く、確かにお昼の12時だという。
「いいから、早く帰ってこい!明るいうちに帰らなかったら、山のようなレポート提出させるぞ」
分かりました、と俺は受話器を戻した。
考えながら2階へ上がって来た俺を見るなり仲間にどうしたと聞かれる。
「今、顧問の先生と電話したんだけど、おかしいんだ。俺たちがいるところって夜だよな」
俺は腕を組みながら窓の外を見る。
「どう見ても夜だよ、先生はなんだって?」
「実はな…」
俺が電話で話したことを仲間全員に話した。
「ウソだろ!?」
当然の反応だった、にわかに信じがたい現象が俺たちに起こっている。
「もう一度かけようぜ?直に先生の声から聞かねぇと、だって…なぁ?」
そう言って一階に降り、黒電話で再び電話をかけた。
「なんだ、また何かあったのか?」
先生の声はいつになく不機嫌そうだ。
「先生、そっちって今何時?」
受話器を耳から離して皆に聞こえるように向ける。
仲間が聞くと、やはりお昼の12時、先程より少し過ぎたところのようだ。
「先生、俺たち…」
正直に状況説明すると…
「お前達、狐につままれたんじゃないか?」
と呆れながら言われた。
後は先程と同じく早く帰ってこいとのことで電話を切った。
俺たちは部屋に戻って議論する。
このままここで朝を待つか、なんとかして大学へ戻るか。
あるいは救助を要請するか…。
すると、襖の戸を叩く音がした、どうぞと促すと魅子さんが6人分のバスタオルを持ってきてくれた。
「お風呂、沸いたので熱いうちにどうぞ!」
明るい声が部屋に響く。
「あのー…」
俺たちは思いきって魅子さんに聞いてみた。
「ここってどの辺りで何という村なんですか?」
魅子さんは変わらない明る声色で、
「ジサツ村ですよ!」と言った。
その名前に俺たちはまた、混乱する。
「ちょ、ちょっと待って下さい。ジサツ村ってどんな漢字書きます?」
「えっ?自分の自に、殺意の殺ですよ!」
また明るく言われた。
魅子さんは村について話す。
「ここはですね、死にたいけど一人じゃ心細くって死ねない人が集まって出来た村なんです。生きるのってホント、面倒くさいですよね」
俺たち全員の顔から血の気が引くのがわかった。
「ある一定数集まると何で死にたいかを決めてこの世とバイバイするんです。ここのところ、人の集まりが悪くって…」
ジロリ、と舐め回すかのように魅子さんがこちらを見てきた。
「あぁ、でも良かった!あなた達が来てくれたからこれで人数が揃ったわ!!」
すると階段をバタバタと登ってくる音がした。
魅子さんの裏に狂気じみた表情の男が1人来た。
「俺たちは死に来たんじゃない!!道に迷っただけだ!」
「そんなことは知っていますし、関係無いです。私達は死ねれば本望です」
魅子さんの背後にいた男が斧を振り下ろした。
頭はぱっくり割れて、血しぶきが舞った。
「さぁ…一緒に……逝きましょう?」
目の前に倒れた魅子さんを見て俺たちはパニックを起こし、二階の窓から全員逃げ出した。
幸いにも、足を負傷したものはおらず、各々無我夢中で走った。
その村から見覚えのある大学の近くに着くまでの記憶は覚えていない。
何分、いや、何時間走ったのかわからない。
後から聞くと、俺たちは大学の門の前で倒れていたらしい。
地元の人が救急車を読んでくれて近くの病院ヘ運ばれた。
ーーーーで、今は病院のベットの上で一応念の為、入院中というところである。
俺たち、6人全員が事実を話したが、揃って狐につままれたんじゃないかと誰も真剣に聞いてもらえなかった。
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