気づけばいつも、恋をしていた。 #恋はいつも文庫版解説文
恋にはいつか、終わりがくる。
それなのになぜ、人は何度も恋をしてしまうのだろう。
その答えは、ここにあった。
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2018年、冬。
当時の私は、好きになってはいけない相手との恋に、身動きが取れず苦しんでいた。
そんなとき、ぼんやり眺めていた本棚で、一冊の本と出会う。タイトルが目に飛び込んできた瞬間、私はとっさに手を伸ばしていた。
ページをめくり、すぐに確信する。
「これは、気づくといつも恋を繰り返している、自分のような人のための小説だ」と。
カウンター越しのマスターに対して語られる「恋の話」は、どれも「この感情、知ってる」の連続。
「恋愛に季節がある」と語り、終わりかけた恋の秋や冬も抱きしめようと、前を向く女性。
お互いに家族がいる状態で出会い、「1年間だけ」という期限付きで恋をすることを決めた女性。
マスターは静かに、穏やかに彼らの話に耳を傾ける。そして、彼が選んだ一杯のお酒や音楽が、恋の物語をやさしく包み、鮮やかに彩っていく。
彼らが口にするのは、誰にも打ち明けることのできない恋の話ばかり。
「人はカウンターに座って、酒が入ったグラスを手にすると、なぜか目の前の酒を扱っている男に恋の話をしたくなる」。
彼らはきっと、誰かに聞いてほしかったのだ。
そして私も、誰かに知ってほしかったのだ。
やがて消えてしまうとわかっていても、忘れたくない恋が、たしかにそこに存在したことを。
「いつか失われるからこそ、その恋は永遠に幸せの中に閉じ込められる。」
気づくといつも恋をしている人は、きっとそのことを知っている。だから性懲りもなく、何度も恋をしてしまうのだ。
この小説は、そんな「いつも恋ばかりしている」人にとって、優しく寄り添うお守りのような一冊になる。
恋が始まり、そして終わるたびに、私は何度も本を開く。
そして、バーカウンターの向こう側に立つマスターに、あの時たしかに自分の中に存在していた大切な恋の話を、したくなってしまうのだ。
「マスター、聞いてもらってもいいですか?」と。
このnoteは、小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』の文庫版解説文エントリーのために執筆した記事です。
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誰にも打ち明けられない、身動きの取れない恋をしていた3年前のわたしを、この本はやさしく救ってくれました。
当時、よく通っていた初台のフヅクエさんでこの本と出会い、どうしても手元に置いておきたくなって購入した、大切な一冊。
(今回文庫本になるということで、これからはいつでも持ち歩けるようになるんだなあと思うと、今からとても楽しみです。)
もしもこの大切な一冊に、自分の言葉が彩りを添える、なんていう日がきたら…
そんな夢のような心地で文章を紡いでいる時間が、何よりも幸せでした。素敵な企画を考えてくださった林さん、竹村さん、ありがとうございます。
文庫本が出版されたら、本を持ってbar bossaを訪れたいな、と思っています。
そのときまで、どうかこの恋が終わっていませんように…と、密かに願いながら。
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