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過去の1場面物語。題名は…無い。いやあったけどイマイチだから無題でいいや。

これは過去に別媒体に書いた1場面物語を少し修正したものです。

『諦める』話です。

✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


毎日がやって来る。
当たり前みたいな顔をして。
私の心を削る為にやって来る。
 
着慣れたスーツを身に纏って
履きつぶしたパンプスを履く。
今日は5分早く出たから焦らなくてもいいのに
何故か心拍数は上がる。
何も忘れていないはずなのに
家に戻って確かめたくなる衝動と戦っている。

周りの人はなんてこと無い顔で駅に向かってる。
私だって…私だって…
きっとなんてこと無い顔がきちんと出来てる。
大丈夫。そうよ、大丈夫。


明らかに学生とわかる子が自分の前を歩く。
ラフな服装にヘッドホン。
きっと、楽しい毎日を送ってるんだろう。
足取りも軽くホームに続く階段を登っていく後ろ姿。
私だって、数年前は君のように……私だって…

ホームには沢山の人。
皆、向かう場所がある。

『それは向かいたい場所なのかな?』

なんて、どうしようもない事を考える。
私は…行かなきゃいけない場所に行ってるだけだから
勝手に、皆を羨ましく思う。

さっき前を歩いていた子が隣に立つ。
遠くを真っ直ぐ見る目にはどんな景色が映ってるの?
ねぇ…君は………

電車がホームに入ってくる。
下を向いていた私の視点が隣を向いて
心拍数は跳ね上がって
ただ必死に手を伸ばして
力いっぱい引っ張った。

電車がホームについた。
周りの人に凝視されたのは
朝から派手に尻もちをついた冴えないOLと
ビックリした表情の若い子が
お互いに無言で見つめ合っていたからだと思う。

「あ…」

相手が何かを言う前に私は口を開いてしまいたかった。
だって、楽しいんだろうって、思ってたのに…

「わっ…私がここで…死ぬ予定なので…………」

目の前で私より先に死のうとしないでよ。
こんな、どうしようもない私なんかより先に進もうとしないでよ。

「あなたは……諦めてください…」

振り絞るように出した声は小さかった。もしかしたら、聞こえてないかもしれない。それに何を言ってるんだろうか。

いったい私は何を…

変な汗が出てきて体が震えている。
電車は行ってしまった。
仕事には間に合わない……。
こんな時まで、仕事の事を考えている自分が嫌で涙が出てくる。

ホームに座り込む私と呆然とした若い子を不審に思ったのか駅員さんが歩いてくる。

あぁ…なんて説明したら?…もう何も解らない。

それまで呆然と私の事を見ていた子が
そっと口を開いた。
 

「助けてくれて有難う御座います。徹夜したからふらついて……えっと、」

徹夜?勘違い。私、馬鹿みたいに勘違いしたんだ。俯いてギュッと拳を握りしめる。恥ずかしい…

「それと、お姉さんも。死ぬの諦めてください。助けてくれた人が死ぬの嫌なんで。」

不思議と静かに感じた。私は聞こえた言葉に顔をあげた。目の前に手が差し伸べられていて、当たり前のようにその手をとった。 
助け起こしてくれた手は確かに温かくて
何だかよくわからなかった。

近づいて来た駅員さんに若い子が転んでしまったけれど大丈夫だと説明しているのを
何処か遠いところで話してるように感じた。

それからお互いに何か軽く挨拶をして
少し離れた場所でそれぞれ電車を待った。

次の電車はゆっくりホームにやってきた。

スマホは鳴りっぱなしで
本当は出ないとイケナイけれど
もう、どうでもよかった。

気まずいから電車には乗るけれど
いつもの駅に私は降りないし
いつもの道を私は歩かないし
いつもみたいに会社に行かない…。


毎日がやって来る。
当たり前みたいな顔をして。
私の心を削るけど
もう少しゆっくり削られてもいい。
それくらいの我儘は許されて欲しい。


仕事も何もかも捨ててみて
自分勝手に我侭をして
最後くらい笑って逝けるように

今ある毎日を
こんなものだと
諦めてしまおう。



本当はまだ恐いけど
それでも私はそう思った。

✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽

ここまで読んでくれて有り難う。

電車が2,3分で来る都内ってすごいと思う。
電車、乗りはぐると終わるよね。


過去にこれを書いた時、私自身がこんな気持ちだったかというとそんな事はなくて、たぶん、誰かが諦められなくて苦しんでたんだと思う。

それを何かで感じたんだと思う。

だから、それを考えて生まれた。

誰かの心の揺らぎ。

それはとてもとても大切。

電子の海を泳ぐ私は
電子の海で出会う心が好きなんだろう。


主人公の彼女はもう大丈夫。
上手に諦めたから。

諦めるってなんか『駄目』みたいに思ってる人いるよね。
でも諦めるのもいいと思うの。


諦めてさ、楽しくて、ふわふわで、優しくなれたらいいよね。

そう思う事があるよ。


私は今日も電子の海を漂い泳ぎ
ここに在る。

あなたもきっと其処に在るのね。


それは、もう、それだけで
本当は充分素敵な事だと
私はそっと思う。


過去も今も感覚で書いちゃってるので、正しい日本語云々は置いといてくれると有難い。

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koedananafusi
サポート設定出来てるのかしら?出来ていたとして、サポートしてもらえたら、明日も生きていけると思います。その明日に何かをつくりたいなぁ。

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