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ハン・ガン ノーベル文学賞受賞

昨夜、夕食後に携帯を確認し、思わず驚きの声をあげてしまった。
韓国の作家ハン・ガンが、ノーベル文学賞を受賞したという速報が入ってきていたのだ。

私は読書好きだが、文学は特定の作家の作品しか読まないので、幅がなかなか広がらない。
ハン・ガンは、ここ数年で久しぶりに作品を網羅したくなった数少ない作家の一人で、初めて読んだときの衝撃は、それまで味わったことのないものだった。作品は、ブッカー賞を受賞し世界的にその名を広げた「菜食主義者」
いつも聞いているKBOOKラジオの100回記念放送で、リスナー代表の一人に選ばれて出演した際、私の「推し本」として紹介したのもこの作品。つたない話ですが、熱量は伝わると思うので、ぜひ聞いていただきたい。

次に発表されたのは、1980年5月18日に起きた、光州事件をテーマにした「少年が来る」
光州事件がどのような事件だったか、光州市民に何をもたらしたのか、事件に関わった複数の人々の視点から描かれている。作家自身が9歳まで光州に住んでいたことがこの作品を書く大きな動機になっているそうだ。

「ギリシャ語の時間」は、深い傷を負った男女が、ギリシャ語の教室で出会うというとてもシンプルな話なのだけど、とても繊細で美しい物語だ。
ハン・ガンの豊かな表現力と構成力は、前二作でも充分に発揮されているが、この作品でも深く味わうことができる。

そして最新作、日本語翻訳は今年4月に出版された「別れを告げない」は、韓国でも何十年も明らかにされてこなかった済州島4.3事件を描いた作品。
1948年に済州島で起きた大虐殺という残酷な歴史を、現代の女性二人の交流と重ねながら辿っていく。哀悼を忘れず、過去を忘れず、現在にそして未来につないでいくという強い意志と覚悟を感じさせる、と訳者の斎藤真理子さんがあとがきにつづっている。
ハン・ガンさんの、歴史に向き合う姿勢、人々の悲しみ、傷をみつめる視点には、愛があり、それはハン・ガンさんが一番大切にされているものだと思われる。

読む度に静かに、だけども深く感動してきたこれらの作品群。
ノーベル文学賞そのものにこれまであまり興味を持っていなかったが、自分が好きな作家が選ばれたことに、心底驚き感動し、同時にとても納得している。

これを機に日本でまだ翻訳されていない作品が出版されるのではないかと期待を膨らませている。すでに翻訳されていて読めていない本もあるので、まずはそちらを味わおう。

それから忘れてはいけないのが、ハン・ガンさんを始め、韓国の本を日本語に翻訳し、出版し、販売してきた関係者の方々に拍手と感謝を送りたい。
特に、「菜食主義者」はCUON(クオン)という韓国の本を専門にした出版社から出ている「新しい韓国文学」というシリーズの第一冊目で、私が手に取ったのも、その装丁の美しさがきっかけだった。
ラジオ出演の際、韓国文学への思いについて、「映画、ドラマ、音楽と韓国の文化に夢中になってきて、さらに文学に触れ、その素晴らしさに驚きと喜びを感じた」と話したのだが、クオンを主催するキムさんは、まさにその順番で韓国でも文化が定着していったので、絶対に日本でも韓国文学が広がる日が来ると確信していったのだそうだ。

ハン・ガンさん本人は、賞に執着するような人ではないようだけど、その作品に携わってきた関係者の方々の喜びや誇らしさはひとしおだろうと思う。

余談かもしれないが、BTSが世界を席巻したのは、2017年ごろから。
2020年にパラサイトがアカデミー賞作品賞などを受賞。
そして今年、ハン・ガンがノーベル文学賞をアジア人女性として初めて受賞。
日本のすぐ隣の小さな国が、こんなに世界の文化を牽引していることに、韓国の文化にたくさん感動してきた私は、なんだかうれしくて誇らしくて、自分のこと以外でこんな気持ちになるのは、不思議な感覚だが、とても励まされる思い。

日常は変わらず続いていくけど、文化の力ってすごいのだなとあらためて思う。
こういった文化がたくさんうまれ、育まれる世界であってほしいと願う。

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