自己肯定感を上げるために歯医者に行くって話。
来るその日に向けて、わたしは自分の気合いをちょっと、急ピッチで入れなければならなかった。
そのお助け手札には、この3つがあった。
美容院に行く
整骨院に行く
歯医者に行く
そして、選んだのは最後の手札「歯医者に行く」。
どうして、歯医者に行くことを選んだのか。
小さな頃からの「わたしと歯」のちょっぴりヘンテコな思い出を話してみようと思う。
幼少期
わたしには3つ歳の離れた兄がいる。小学生くらいから、母に連れられ家の近くの歯医者さんに二人セットで通っていた。
兄は面倒くさがりで、親に内緒で歯磨きをサボっていたのを知っている。
チューイングガムを食べると歯磨きの代わりになるんだ、なんて変な持論を披露していた。お兄ちゃんはこんなことができるんだぞと、妹に少しいばりたかったのだろう。
わたしは兄がやっていることは、なんでも真似をしたい妹だった。でも、こればかりは「ほんとうかな」と用心深く疑い、せっせとちいさな歯を磨いていた。
「あ、ここ虫歯ができているね」と歯医者さんに告げられる兄。
一緒の部屋で定期検診を受けていたので、すぐに兄の顔を覗きたくなる。
順番交代でわたしが椅子に座るとき、少し罰が悪そうな顔がとなりを通った。
やっぱりチューイングガムは嘘だったんだ。危うくだまされるところだったぞ。
「すごく綺麗に磨けているね!虫歯もゼロだよ」
にやり。兄に勝ったぞ。
先生にお礼を告げて、ちいさなスリッパが脱げないように、小走りで母のいる待合室に向かう。
「褒めてもらった〜〜!」
歯医者のポスターのモデルのごとく、満面の笑みで歯を見せた。となりには、これから少しばかり痛い治療が待っている、敗者の兄。
かけっこやローラースケート、虫取りでも、兄にこれまで勝てなかったわたしは「歯医者」で勝者の経験をし、とってもうれしかったのを覚えている。
2年ほど前
それから一度も虫歯にもなることもなく、コーヒーを美味しいと思えるくらい大人になった。
歯への着色が気になるようになったので、ホームケアのホワイトニングを始めることにした。引っ越し後、近所に見つけた綺麗な歯医者さん。歯の状態をまず診てもらうことに。
・・・
「虫歯や詰め物、これまで矯正もしたことないなんて、天然もので素晴らしい歯です!!!ぜひ自信をお持ちになってください!」
びっくりするくらいに、褒め称えてもらえた。え、大人になってからこんなに褒めてもらえることあるんだ。自己肯定感が爆上がりした。
わかりました、自信を持たせてもらいます!!
それから謎の義務感を覚えるようになり、歯磨きにも熱が入るようになった。2種類の歯磨き粉を使い分け、マウスウォッシュ、糸ようじを買い揃えたりした。こうなったら絶対に虫歯なんかに負けないぞ。
先日
ちょっと気合いをいれたい気分だった。手軽に行けて、テンションがあがるものを…。なにかあるかな??
そうして、幼き頃の歯医者で勝者になった出来事と、自己肯定感がMAXになった出来事が思い出される。
「よし、歯医者さんに、褒められに行こう」
全くもって変な動機だが、行かないより行った方がいい。
虫歯とはまったく縁のなかったわたしだが、最近歯磨きをすると、八重歯がキリリと滲みることが増えたので、その相談もするため家の近くの歯医者さんを予約した。
久しぶりに診てもらうと、だいぶ歯軋りがひどいようで歯がすり減っている、と教えてもらった。寝る時に着ける用のマウスピースを作るために、レントゲンを撮ることに。
写し出されたレントゲン。
ん??変なところに白い影が…。
左の上下の親知らずはなく、右下の奥歯と、なぜかほっぺと鼻の間に迷子の親知らずがぽつり、と写っていた。
「これは珍しいね。すごい。初めてみた」と、先生も驚いていた。
5年ほど前、インドで顎から歯が出てきた少年が一躍話題となり、世界を驚かせたニュースがあったらしいが、君もいい勝負だと、また褒めてもらった。この親知らずは、痛みなどなければ放置していた大丈夫とのことだった。
そして、「歯石などはあるものの、虫歯はゼロでしたよ」と告げられる。
虫歯ゼロの歴史を、わたしはこの日も更新したのだ。
さらに、ワールドワイドにわたしの歯が評価(?)を受け、これまた自己肯定感を上げることができた。
おわりに
歯磨きって毎日の積み重ねだと思う。どんなに眠い朝も、早く寝たい疲れた夜も。1回くらいサボっても、きっと誰にもバレない。
でも、だからこそ、そのルーティンを守ることが、ちょっとした自信になったりもする。
そして、歯医者で先生に褒めてもらえると、「毎日頑張っているね」とちいさな努力を見つけてもらえたようで、歯を見せて微笑みたくなるのだ。
これを読んだあなたも、虫歯ゼロの歴史を一緒に、更新してみませんか。
「よし、歯医者さんに、褒められに行こう」
そう口ずさんで歯医者を訪れる人が、世の中に増えますように。