歴史小説「Two of Us」第1章J‐2
~細川忠興&ガラシャ珠子夫妻の生涯~
第1章 TAMAKO met TADAOKI @The Crossroads
J‐2
「桂の街道より彼方に、峠を越えなければ、ならぬ」
忠興は、彼専任の家臣に告げた。
「若。もう一頭づつ、馬をご用意させる所存にござります」
「そうか。万事怠りなく備えよ。
それがしは細事は無知であるが、この馬は少々、疲れを出してきておる。
途中、亀山の城代に預けても良いから、皆の旅路を備えあれよ❔
それがしは、しばしこの場で茶を飲むぞ?」
「かしこまりまして、ござりまする」
齢(よわい)の一番近い若衆の返事と共に、細川与一郎忠興一行は、竹林地帯の手前の茶屋に落ち着いた。
鷹匠を含む忠興の側近を2名残し、中堅の家臣達は現地での狩りの手配に向かった。
居残った側近の一番若い家臣が、幸せに満ちた笑顔で話しかける。
「若。この丹波栗の大福、たいそう美味しゅうござりますぅ♪」
「良かったな。それがしに付いて来て。お前も甘党なのか❔」
「はい。細川様の配下になって一番嬉しい事は、若も藤孝様も、甘い菓子を召し上がり、配下の者にも分けて下さることです」
「そうだろうぞ。。。」
年下ながら、落ち着いた低い声で笑みを返し、忠興は皿に3つ乗っていた残りの1つも、若い側近の方へと皿ごと押しやった。
「父上は茶をたしなむ故、それがしも儀式の如き一杯を頂いた後の、甘い菓子が目当てで茶道を覚えた。
ほれ、あの薄荷のような南蛮の上品な香辛料は、何と云ったかな❔」
「若、それはシナモンと云うので、ござりまする」
「おぉ、シナモン!! そうであった❕ 品もんがええのう」
若衆は思わず吹き出し笑いを堪えきれなかった。
「若。。。拙者の父上みたいな、小洒落にもならぬ言葉遊びを、若もなさるのでござりますか♪」
「おぉ。するぞするぞ!? それがしは黙っておると、誰も近づいては来ぬ。
それ故、何か笑いをとることで親和の心を示すのぞ。
、、、小洒落にも成らなんだか❔」
湯呑みの緑茶を手に持ち、返事の無い側近の方を振り向く。
隣に座する側近が、地面に3つめの大福を落としてしまったのも気づかずに、ただただホケラ~~っと、遠くも近くもない距離の、徐々に近づいて来る物体を見つめていた。
文字通り、開いた口が塞がらないでいた。
まばたきもできない。動けない。
大福餅を掴んでいるつもりの指先のまま、蝋人形のごとく固まったまま、座って動けない。その視線の先の物体が近づくにつれ、忠興にもハッキリと確認できた。
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