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構造技術者の頭の中がわかる? 建築技術12月号
いろいろな建物を見て謎解きし、自分の引出しを増やすぞ!と決意したのは、先月のこと。
そこで、さっそく、下記の本を買ってみました。
月刊建築技術の構造特集です。
20を越えるプロジェクトについて、それぞれの担当者が、その技術を紹介しています。
CLTを用いたホテル、崖地の住居、曲線スラブや屋根がユニークなもの、ダイナミックな大空間やスタジアム、うめきた公園大屋根、東急歌舞伎町タワー・・・・・
注目度の高いビッグプロジェクトや、魅力的な建築が盛りだくさん!
率直な感想をいうと、すごくおもしろかった~♪ へー 挑戦的な建物をつくる構造設計者って、こんなことを考えながら設計しているのかーて思いました。
最終案にたどり着くまでの道のり
何がおもしろかったかというと、まず、それぞれのプロジェクトで、最終案にたどりつくまでの、さまざまな案が紹介されています。
建てられたものを見ると、始めからこのかたちで計画していたのかと思ってしまうけど、もちろんそうではなくて、意匠設計者とキャッチボールしたり、施工方やコスト、工期など検証して、最終形になっていくわけです。
こんなにも多くの案を検討していたのか!とか、初期からかたちが全く変わってしまった案(でもコンセプトはぶれてない)だとか、なぜそうなったのか、経緯をたどっていくのは、これぞ謎解き? ミステリーを読んでいるようです。
大阪市で2024年9月にオープン予定の、うめきた公園大屋根は、基本設計時の、もくもくした雲が浮いているような屋根から、波状のトラス案を経て、最終決定したグリッドシェル案まで、10近くの案の図が載っていて、それを眺めているだけで楽しいです。(こんな複雑な曲面の設計や施工は、私にとっては異次元の世界ですが) 完成したら見に行くのが楽しみです。
ペラペラの梁
最も印象的なのは、佐藤淳氏の記事「『どん帳』のような極薄梁」。MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO 設計 ROVAL社屋。
なんと、厚さ16mm、高さ2400mmや3000mmのペラペラの鉄板をタテに配置し、梁として、屋根を支えている建物です。
ペラペラの梁だと、普通、梁が面外に曲がったりして、横座屈やせん断座屈が起きますが、そうならないように、応力(梁にかかる力)を微調整して設計しています。
極限への挑戦というか、ストイックというのか、なんというのか・・・
佐藤淳氏は、他の建物で、直径38mmの極細柱で設計していたのを、雑誌で見たことがあります・・・それも極限!
そもそも、このペラペラの梁は、意匠事務所からの要望だそうで、「肉体派の Mount Fuji Architects Studioは、力学を肌で感じているから理論のちょっと上を突いてくる。」という建築家とのやりとりも載っていておもしろいです。
構造設計者の性格って
記事には、構造設計者の思いなども書いてあったりします。
新しいことや大胆な提案をしたプロジェクトの計算書作成の苦労に辟易し、下手なことを提案するのではなかったと後悔することも多々あるが、やはり建物が完成したときの達成感は何物にも代えがたい。
構造デザインが意味あるコトとなるためには、圧倒的なスタディとTry&Errorしかあり得ず、そのことを楽しめるヒトたちこそが構造デザインを実現できるものだと思っている。
筆者は、初期から意匠的な案、施工的な案、力学的な案を自ら提案するように心掛けている。それは、なるべく合理的にしたいからであると同時に、せっかちなので早く案を固めたいからでもある。しかし、直感に頼っている部分もあり、実際に案が採用されてからあたふた設計することを楽しんでいる。自ら出した案である手前、やるしかないのである。
どの構造設計者も、真摯に建築や構造と向き合い、苦しい作業も楽しんで、人間らしいというか・・・
仕事への純粋な愛がすごいなー、と思ったのでした。
追記
建築技術2月号には、ペラペラの梁の施工技術が載っていました。
薄い梁がゆえに、施工中の仮固定が必要だったり、温度や溶接によるひずみがあったり、かなり困難を極めたことがわかりました。
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