【読書メモ】Learn Better

学習という行為に対する科学的アプローチの現状についてわかりやすくまとめられた一冊です。出会えてよかった…

イントロダクション

学習の方法を学ぶことは、専門家が言うところの「究極のサバイバルツール」、つまり、現代において最も重要な能力の一つであり、あらゆるスキルの前提となるスキルである。

<専門知識を身につけるための体系的アプローチ>
①価値を見いだす
②目標を設定する
③能力を伸ばす
④発展させる
⑤関係づける
⑥再考する

<各学習に通底するテーマ>
●学習とは頭を働かせる「活動」 →積極的に関与するほど学びも深まる
●学習を管理する →フィードバック、ベンチマーク、目標の明確化
●学習を分散させる →本当に理解しているか、記憶を強化する
●学習における感情の役割 →理性と感情の両方が学習には必要
●関係を見出す →知識の総体の中の相互関係をつかむ

1.価値を見いだす

自分で学習に意味・価値を見出すことが、学習レベルを向上させる。自分に問いかけをして、意味を探すこと。情報に意味を込めて考えれば、表面的なレベルで考えるよりもはるかに記憶しやすく、そしてその知識が応用可能なものになる。価値を見出せるだけの自由度・決定権が必要。

「学習とは生産活動なのです」と彼は端的に言う。(中略)
まず情報を選択しなければならない。ソビエトの歴史とか仏教哲学という具合に、学ぶ対象を絞り込むのだ。次に、今ある知識と学びたい情報の結びつきを頭の中に作ることによって、その情報を自分の知識に統合しなければならない。

読むだけでなく書いてみることも活動。頭の中でイメージを描くことも活動。自分自身に説明してみることも活動。もちろんやみくもに「活動」するのではなく、習得を目指すこと、意味を意識することを前提に脳を活動させることがとにかく大切。

<学生の成果を高める大きな要因>
①勉強圧力 →発破をかける度合い
②勉強支援 →学生と教師の間の個人的つながりの感覚

2.目標を決める

目標設定、目的意識がなければ記憶・習得に苦労することになる。覚えるべき・習得すべき内容を絞り込み、注意力を最大限発揮して、限られた記憶容量に収めていかなければならない。

学習とは要するに一連の知識の管理(ナレッジ・マネジメント)である面が強い。すなわち目標設定、計画策定、前提となるスキルの習得、習得したい専門知識の絞り込みを行うということだ。

本書でたびたび登場するキーワード「知識効果(ナレッジ・エフェクト)」について。知識は学習の土台であり思考と対になるもの。適切な前提知識をもつことで専門知識の習得効果は上がる。だからこそ「目標を決める」ことが大切になる。どのようなスキルを自分が求め、そのために必要な知識は何なのか。

学習にまつわる最大の問題の一つが、メタ認知の不十分さだ。私たちは知らないことを理解するために最善を尽くしていない。そして知っていることについては過信している。だから問題は、学んだ先から忘れていくことではない。熟考について熟考しないことだ。理解するためにもう一歩踏み込んでいないのだ。

学習においては地頭よりメタ認知=思考についての思考が重要だという。何かの課題に取り組むときは、必ず自分への問いかけをすることを勧めている。「自分への問い」も、この本で繰り返し触れられるキーワード。

<自分への問いかけの例>
●自分は学習についてこのことを知っているだろうか?
●なぜ知っているのだろうか?

3.能力を伸ばす

なにがしかのスキルを伸ばすためには、今ある知識を知り、何を変える必要があるかを知らなければならないのだ。

自分のパフォーマンスを知るために、記録する=モニタリングする。パフォーマンスを観察し続けるだけでほぼ何でも上達するらしい(ダイエットがその代表例か)。より効果的なのは「外部からのフィードバック」(ただしフィードバックする側のスキルも重要)。フィードバックを受けることは、自分の間違いを知ること。それは辛い経験になるが…

なぜ学習プロセスにはこのような知的苦痛が必要なのか。(中略)専門分野を身につけるには反復が必要だということだ。(中略)対象が何であろうとなにがしかの学びを得るまでに教材は数回はやってみる必要がある。

また、様々な学習において直面する「間違い」は、概念形成の核心であり、必要なことと改めて強調する。

脳はどうやら知的な苦労に対処しようとするときに白質を作るらしい。自分が知っていることとできることの間に大きなギャップがあると、脳はそれに対処しようと構造を変化させる。

だから脳には苦労をさせなければならない。急がば回れ。

この章では、学んだばかりのことについて自分で自分に質問する「検索練習」(テスト効果)についても紹介されている。記憶の強化だけでなく、概念理解に繋がるという。

4.発展させる

ここで言う「発展」は、理解の深化を指す。

知識領域を広げることは知識領域を説明できることに非常に近い。学びながら説明を求める質問を自分に問いかけると習得の度合いが高まることが、さまざまな研究で証明されている。

<自分への質問例>
●この概念を説明できるか?
●このスキルを解説できるか?
●自分言葉で言えるか?

また、議論も学習の発展に寄与する。論点整理をする過程が知識を向上させるうえ、議論で求められる推論がさらに理解を促すという。

ほかにも、
●五感を使って全身で学習する
●人に教える
●知識の不確実性を理解し、常に問い続ける
ことの効果を紹介している。

私たちにとってまず参考になるのは、多様性に富む集団がより豊かな思考を促すことだ。自分とは違う人たちと一緒にいると、複雑な思考に取り組みやすい。

多様な集団に身を置くことで、主体的な思考が促され、かつ他人の視点が知識を発展させるという。「多様性は摩擦の増加の要因となる」とも述べているが、それでもやはり、多様性は重要なのだろう。これ、学習に限らず仕事でも言えますね…

5.関係づける

関係づける=専門分野内の関係性を探すことによって学びを得る方法。

「対象を丸暗記するだけではいけません」とリッチランドは語った。「効果的な学習を行うためには、原因、類似点、相違点を探すべきです」

複数の分野を絡め、比較吟味しながら学ぶ・練習することで体系理解が進む。知識やスキルの関わり合いを理解するのを助けるのが「アナロジー(類推)」「対比」。類似点を考える作業を差しはさむだけで、理解・応用を大きく促す実験結果もあるらしい。さらに、アナロジーは推論を促し「思考の燃料の火」ともなるらしい。ただし、適切にアナロジーを活用するためには、前提知識の習得が必須とも述べている。

もう一つのアプローチは「推測」「仮定思考」。「仮説を立て、テストし、繰り返す」という科学的手法は学習にも適用でき、「もし~だったら」という問いは発想を刺激し気づきを促すという。

6.再考する

過信こそ万人の病弊である。私たちは実際以上に物事をよく知っているつもりでいる。(中略)過信は効果的な学習をおおいに阻害する。

単純で変わりやすく「見える」ものに対して人は努力しないし、過去の実績に囚われて課題を過小評価するケースも多い。過大な自己評価がパフォーマンスを高める側面もあるものの、やはり「謙虚さ」が学習には求められる。

バイアスを避けるため、過信に陥らないため、学習の対象分野を本当に習得するためには、自分の思考と周囲の人々の思考を検証しなければならない。

再考し検証することで、「自分が知らないことを知る」ことができる。

<再考=仕上げのための質問例>
●自分は何を学んだか?
●理解しづらかったのはどこか?
●わからないと思えるのはどこか?

また、効果的な学習方法として「分散学習」を勧めている。短期間に集中的に習得しようとせず、数週間単位で間隔をあけて練習する方が知識・スキルは向上するという。

エピローグ

教育の成果を向上させることは、将来の経済状態への最大の投資にもなるだろう。学習の質が上がれば、収入増や、喫煙量の減少などさまざまなメリットが見込める。学ぶ人ほど寿命が長く、幸福度も高いのだ。

学習学はどんどん研究が進んでいるにもかかわらず、学習メソッドの変化がなかなか起こらない。エビデンスがあり、決してハードルの高くないアプローチがたくさん見つかっているのに… 学習の可能性を信じ、研究者たちの努力は続くのだろう。

感想まとめ

具体例が多いのと、重要ゆえに繰り返されていることが多いために、必要以上にボリューミーな仕上がりになっております。ただ、すべての学ぶ人にとって役に立つ内容になっているはず。コンテンツメーカーの人間としても非常に示唆に富むものでした。時間がなければ巻末付録的に示されている「ツールキット」というハウツーガイドを読むだけでも。

学習学・学習科学の世界の奥深さ、面白さを再認識。アメリカだけでなく日本でも、科学的に証明されていないメソッドを無批判に使い続けているシーンが多々見られる気がします。もう少しこのジャンルを読んでみたいなと。

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