【読書メモ】使える脳の鍛え方
先日読んだ『Learn Better』で参考文献として取り上げられていたので。
印象としては『Learn Better』の内容をよりかみ砕いて伝えてくれている感。
1.イントロに書かれていることがほぼすべて
●学習はつらいほうが定着しやすい
●成果は測りづらく、すぐに出るものでもない
●「テキストの再読」と「集中練習」は非効率
●「想起練習」(テスト)こそが有効
●学習の間隔をあけると学習効果が高まる
●答えを知る前に解いてみるとよい
●好みの学習スタイルが有効とは限らない
●人は知っている、できるという錯覚に陥りやすい
●新しいことを学習するには、土台となる予備知識が必要
上記のようなことを具体例とともに、エビデンスとともに説明してくれています。教育現場は「再読の徹底」をはじめ、無批判に無根拠な方法が受け入れられている。そのような状況に一石を投じようとする一冊。
2.想起練習
最大のキーワード「想起練習」は、過去に学んだことを記憶から呼び戻すこと。具体的にはテストという手段で行うことが多い。『Learn Better』における「検索練習」にあたると思われます。
くり返し記憶すれば、知識と技術が記憶に深く根づき、反射的に呼び出せるものになって、考えるまえに脳が反応する。
想起練習は総じて学習効果を高めるが、思い出すのに知覚努力を必要とするものほど記憶を長続きさせる。(中略)授業でテストをひとつやるだけでも学年末試験の成績が大きく改善され、テストの回数が増えるほど学習効果が高まることがわかっている。
そして、想起練習を繰り返すことで、知識の応用力も身につく。指導者の立場から見れば、テストを行うことで誤認や現実とのギャップに気づくことができ、それに対して適切なフィードバックを与えることで、正解に導くことができる。「評価のためのテスト」ではなく「定着のためのテスト」という考えを、本書の中で繰り返し強調しています。
3.集中練習神話を否定する
「ひたすら集中して取り組めば上達する」というのは誤解。間隔をあけ、ほかのことを差し挟む(=間隔練習)ほうが効果的だそうです。
新しく学んだことを長期記憶に定着させるには、「統合」というプロセスを経なければならない。(中略)少し忘れてから思い出そうと努力することで、統合がうながされ、記憶がさらに強化されるのだ。
ここでいう「統合」は、心的イメージを長期記憶にするプロセス。新しい知識に意味を与え、補い、過去の記憶・知識と関連付けていくことで記憶を強固なものにするわけですが、想起練習も記憶の強化プロセスとしては統合と同じと考えることができます。
同じく紹介されている「交互練習」「多様練習」も同様に、集中練習に代わる有効な学習法として取り上げられていますが、いずれも学習に間隔をあけるという点で間隔学習の一種であり、記憶を呼び起こし強化する点で想起練習のひとつとも言えそうです。
4.やはり学習は辛いほどよい
記憶のなかから思い出したり、技術を使ったりするときに努力するほど、その努力が実ったときには学習効果が高い。
だからこそ、講義を受けるにせよ、テキストを読むにせよ、そのあとテストを噛ませると有効。テストも選択式より記述式、エッセイ形式にするとなおよし、とのこと。
他人から与えられる知識をおとなしく憶えるより、こうしたほどほどのむずかしさを克服することで、学習者は高次の思考をおこない、積極的に学ぶ。
テストに取り組んでいると、当然間違えることもある。でも、間違えたら訂正すればよい。失敗を恐れると、ワーキングメモリが失敗への不安に使われてしまうそうです。これほどもったいないことはない。不安がってる暇があたら打ち込むべし。
専門技術は遺伝がもたらすものではなく、練習の量と質の成果であり、平凡な才能の人であっても、意欲や時間、ひたむきに続ける規律があれば優秀な専門家になれる可能性はある
5.学習をどのように捉えるか
「成果」を目指すか、「成長」を目指すか。
成果をめざす人は、無意識のうちに自分の潜在能力を制限する。能力の証明や見せびらかしが目的なら、できる自信のある課題を選ぶほうがいいからだ。そういう人は、できるところを見せたいがために同じことを何度もくり返す。
能力の強化を目的とする人は、つねにむずかしい課題を選び、失敗しても、もっと集中して独創的に練習に励むための有益な情報ととらえる。
学習そのものに価値を見出し成長を目指すことこそが大切という考え方は、この前の『達人のサイエンス』でも出てきたな…。子育てにおいても、能力を評価する=「賢いね」と、努力を評価する=「頑張ったね」では、その後の子どもの成長に大きく差が出るというのはよく言われるところ。後者のマインドが育てば、自己効力感や創造力、粘り強さをもたらしてくれるそうです。
要点を知りたければ8章だけ先に読んでもよいかも
最後に学習者と指導者向けのアドバイスが丁寧にまとめられているので、これだけ読んでも勉強になりそうです。1章と8章をセットで読むのもよいかも。
本書でも触れられていましたが、エビデンスのある「学習法」について、私たちはほとんど学ぶ機会がないように思います。そもそも指導者が知らない・誤解しているケースがほとんどとはいえ、よりよい学びを実現するために、もう少し学習法、学習科学に焦点が当たればよいのになぁと思う今日この頃(そういえば大学院で教育方法学を研究していたなぁ…)
ちなみに、本書の構成そのものが、重要なキーワードを折に触れ、間を置いて繰り返し登場させているという点で、理想の学習プロセスを再現しているという感があります。覚えてようと強く意識しなくても、要点は頭に入っている気がするし、それをテスト代わりにこうやってnoteにまとめることで、さらに強化される…はず。