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【日本橋読書会】どこまでリアリティーを追求するか(逢坂冬馬著・歌われなかった海賊へ)

「今回は逢坂冬馬さんの『歌われなかった海賊へ』。本屋大賞ほか受賞して直木賞候補にもなった『同士少女よ、敵を撃て』に続く第2作ですよね。前作とどこが違う?」
「歴史が好きなのでよかった。前作同様、参考文献をすごく調べてるよね。ただストーリー展開が遅いかな。kindleで読んだけど52%過ぎたあたりで、ふらふらしていた主人公が生きる目的(注・収容所行きのトンネル爆発)をやっと手にしている」
「最初に現代でのシーンが盛り込まれているせいもあるかも。最初に登場する学校の先生とその祖母、偏屈な近所の老人がそれぞれ相手に違うイメージを持ちながら生きてきて、時空を越えて真相が明らかになる、という構成は見事だと思う」
「その偏屈な老人が残した私家版小説が、物語となるわけだしね」
「あ、そうなの? あまりに面白いので気づかなかった。劇中劇というか……」
「劇中小説!。だから上手なのは仕方ない(笑)」
「amazonの書評で『漫画みたい』という評価もあった」
「もちろんリアリティーライン(リアルさ)から見るとどうかな、というところはある。仲間の少女と出会うシーン。あまりに幻想的。あと同性愛者と出会ったり、反ナチス運動で拷問を受ける可能性もあるのに少年たちは自然に行動しているし」
「でも小説だからこそできた表現も多いよね。たとえば仲間の女の子と初めて出合うシーン。女の子のハーモニカが重要な役をするけど、映画とかで実際に演奏されたら感動するかな」
「小説だからそれでいいんじゃないか。たとえば音楽SF漫画『20世紀少年』はロック音楽がキーだけど、実際映画化されたときは微妙だったなあ。小説でとどめた方がいいシーンって絶対ある」
「途中で志を同じくする少年少女たちと出合うのは救いがある。最後にまた登場して助けてくれるのかなと思っていたのに、そのままいなくなったのは残念だった」
「まさか最後に全員集合させる? 小説の王道といえばそうだけど」
「あと同性愛とか人種問題とかも。いまより格段に迫害されていたはずだけど、事実を書いたら悲惨になる。現代のLGBTなど現代提起されている性自認問題にも通じている。爆弾投下もそう。現在の読者の共感を呼んでいるんだと思う」

各自が読んだ注目図書
・黒岩重吾
「日本書紀を『ほんとうはこうだったのでは』と自分の仮説を縦横に展開していてある意味うらやましい」「いろいろ学者の説を引用しているけど、小説家だから許されている。これが論文だったら学者生命の危機」「でも聖徳太子はいなかった、ということも大ぴらにいわれているし」「論文書くのやめて小説家に転向する人も多いよね。おれもそうしようかな」
・葉真中顕著「W県警の悲劇」
「短編集。ほかの読書会での課題図書だった。児童文学とミステリーで実績のある著者だけど、『実は……』の部分が後出しされていて『えっ? それはないよね』と思った」「江戸川乱歩の荘園探偵団シリーズも最後でドタバタッと展開して子ども心に『それはないよね』と思ったのを思い出した(笑)」「アレは新聞小説だから仕方ないよ。ルパンみたいに徐々に謎解きする構成になっていない」「これは連載でもないのに。残念だよね」
・須川邦彦「無人島に生きる十六人」
「実話を基に若者が離島でサバイバルする小説。読んでいて面白かった」「どこで見つけたの? wikiを見ると遭難小説とか書いているし。おまけに戦前に出版されてるじゃん」「東京商船学校の校長先生までやった方だよね。もちろん外国船に助けられたけど、途中で『しばらくここでがんばれや』と放り出されたれたり『えーっ』と思うところもあるけど」「戦前の少年モノだよね。変にリアルで楽しそう」「青空文庫にも入っているはずなので読んでみて」

次回の課題図書
万城目学著『八月の御所グラウンド』
「『文学界』で九段理江さんの作品ちょこちょこ読んでいたのでいつかは受賞するかなと思っていたけど、思ったより早かった」「AIの文章をそのまま使ったと言うことで話題に」「あれはAIに聞いてみたら高でしたという文脈なので、いいも悪いも何も。取材でしょ?」「九段理江さん読んだことないけど、純文学ばかり読んでいるので万城目学さんに一票」「全員京都の大学出身じゃないので、平等の立場で読めそうだね」

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