2018年 49冊目『悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える 』
ハンナ・アーレントの「全体主義の起源」と「エルサレムのアイヒマン」を著者が読んで、わかりやすく全体主義について教えてくれます。
かなり網羅的に理解できます。
ハンナ・アーレントは1906年にドイツに生まれてアメリカで活躍した政治哲学者です。
33年にナチスが政権を獲得すると、迫害を逃れるためにパリ経由でアメリカに亡命します。
全体主義という言葉は、第二次世界大戦中、ナチズムやスターリン主義をネガティブに表現するために使われていたそうです。
しかし、そのイメージは漠然としたものだったようです。
戦争後に、組織的な大量虐殺の実態は、誰もの想像を超えていたのです。
そんな全体主義は、いかにして起こり、なぜ誰も止められなかったのか?
これを書いたのが「全体主義の起源」です。
一方の「エルサレムのアイヒマン」は、ユダヤ人の大虐殺を実務的に管理したアイヒマンの話です。
アーレントは、エルサレムでのアイヒマンの裁判を傍聴し、この本を書きます。
一般大衆は、アイヒマンを悪の権化だと思っていたのです。
しかし、実際は、出世を考え、法律に従い、ユダヤ人の大虐殺を正確に執行し続けた人だったのです。
アイヒマンを悪人だと書かなかったアーレントはバッシングを受けます。
つまり実直な官吏で、人を殺し続けたアイヒマンも怖いですが、
そのアイヒマンを悪人と書かないことで、バッシングしたマスコミや一般の人も、とても怖いですね。
アイヒマンは、ある意味、悪いと分かっていたのに、会社や上司からやれと言われてやっているのかと思いましたが、そうでもないのです。
ほんと怖すぎます。
それが全体主義に限らず、ルールの怖さですね。
ドイツでのユダヤ人は、第二次世界大戦前、一見するとドイツ社会にかなり溶け込んでいたそうです。
溶け込んでいたからこそ、ユダヤ人は改めて迫害の対象になったようです。
当時、西欧で勃興した国民国家が、いけにえを必要としていました。
つまり、新しく作る国家の求心力を高めるために「異分子排除のメカニズム」が必要だったのです。
その対象がユダヤ人でした。
ユダヤ人は、新約聖書で神に選ばれながら、イエスを十字架にかけた罪深き人だとなっています。
また、ユダヤの商人の話に代表される無慈悲な金貸しのイメージもあります。
さらに金で国を牛耳っているという話もあります。
排除する異分子として最適なのです。
しかもユダヤ人の中にも階層があり、特定の層のユダヤ人を別の層のユダヤ人をヒトラー政権に売ったりしたそうです。
そうなんでしょうね。
ユダヤ人の定義もあいまいだったようです。
さらに、前述のように異分子排除のメカニズムがスタートしているのです。
だれもが排除される側になりたくありません。
少し排除のメカニズムが動き出すと、一気に動き出すのです。
この本を読むと、たまたま全体主義は特定の国で起こった現象ですが、どこの国でも起きる可能性があるのがわかるのです。
全体主義は独裁ではないのです。
民衆の意見を聞き、法律を変え、特定のトップが、民主主義のように一定のルールの中で政治を行っているのです。
民衆が、考えるのを放棄して、ヒーローに政治を任し
そのヒーローがルールを少しずつ変え
そのルールも民衆が承認し
起こるのです
つまり、今の民主主義でも十分起きる可能性があるのです
※民主主義がだめだとか、日本がだめだと言っているのではないです。
全体主義という独裁は、民主主義の日本でも起きる可能性がゼロではないということです
とても勉強になります。
▼前回のブックレビューです。